コホートプロファイルについて
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

 エコチル調査コアセンター(国立環境研究所)龍田希主任研究員らの研究チームは、2011年から開始された全国約10万組の親子を対象とするエコチル調査について、その調査の概要、追跡状況や質問票の回収率を報告しました。調査開始から15年が経過した現在も、高い追跡率を維持し、多くの参加者が調査を継続していることがわかりました。また、6歳時点の質問票回収率は78.2%であり、世界の大規模出生コホート調査の中でも高い水準の回収率を示しました。これらの結果は、本調査から得られる知見が、子どもの健康と環境要因の関係を明らかにするための信頼性の高い科学的知見として活用できることを示しています。
 本調査の当初の調査期間は子どもが13歳まででしたが、13歳以降も継続されることが決定しており、思春期・青年期を迎える参加者本人の理解と継続的な協力を得ながら、高い追跡率を維持していくことが今後の重要な課題となります。
 本研究の成果は、令和8年8月18日付で世界的な疫学研究を扱う、査読付きの医学学術誌で、国際疫学学会の公式ジャーナルである『International Journal of Epidemiology』に掲載されました。
※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。

1. 発表のポイント

  • エコチル調査は、環境が子どもの健康に与える影響を解明することを目的として、2011年から2014年に全国で10万組の親子を登録した国内最大規模の出生コホート研究であり、現在も調査を継続しています。
  • 出生後も年2回の質問票調査を継続して実施し、6歳時点の質問票回収率は78.2%と、世界の大規模出生コホート調査と比較しても高い水準を維持しています。
  • 妊娠期から現在に至るまで、血液・尿・毛髪・母乳・脱落乳歯など多様な生体試料を継続的に収集・分析・保管し、出生前から出生後までの様々な環境化学物質へのばく露を評価できる研究基盤を構築しています。
  • 重金属やPFASなど多様な化学物質ばく露と健康影響の関連解析が進み、この15年間で約600報の論文が発表されるなど、国内外の環境疫学研究の発展に貢献しています。

2. 研究手法

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしています。
 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
 近年、子どものアレルギー疾患や発達に関する課題が増加しており、化学物質などの環境要因が子どもの健康や発達に及ぼす影響への関心が高まっています。胎児や小児は発達段階にあるため環境要因の影響を受けやすく、その影響は成長に伴って変化する可能性があることから、出生前から子どもの成長を長期的に追跡する出生コホート研究が必要とされています。
 本研究では、2025年1月時点で研究利用が可能となった6歳時点までのデータを用いて、対象者の属性を整理するとともに、6歳まで継続して調査に参加した対象者の特徴について基礎的な記述解析を行いました。

3. 研究内容と成果

 妊娠期から出生後にかけて子どもの健康と発達を長期的に追跡し、高い追跡率及びコホート維持率が確認されました。6歳時点の質問票回収率は78.2%であり、諸外国の出生コホート調査と比較しても高い水準となっています。
 一方で、質問票未回答者には、妊娠中の喫煙歴や朝食の欠食が多いなど、生活習慣に一定の特徴がみられました。また、化学物質ばく露指標についても、物質によって回答者と未回答者の分布に違いが見られ、例えば妊娠中の尿中コチニン※3濃度では、未回答者の方が高い傾向が認められました。これらの結果から、回答者と未回答者の間には属性の違いが存在することが示され、解析結果を解釈する際には、選択バイアスの可能性を考慮する必要があることが示唆されました。なお、生体試料については、標準化された手法と精度管理のもとで分析が行われており、信頼性の高いデータが収集されています。
 これまでの解析結果では、例えば鉛※4については、ばく露レベルが極めて低いにもかかわらず、子どもの発達への影響が観察されており、低レベルばく露の健康影響評価の重要性が示唆されています。これらのデータを活用した研究成果は、これまでに約600報の論文として発表されています。

4. 今後の展開

 エコチル調査では、子どもたちの追跡調査が現在も継続されており、今後も化学物質の測定・分析が進展することで、より多様なばく露評価と解析が可能となり、子どもの発育や健康に影響を与える環境要因の解明が期待されます。
 また、エコチル調査では、標準化された手法と厳格な精度管理のもとで生体試料の分析が行われており、信頼性の高いデータ基盤が構築されています。今後もデータの蓄積と研究成果の創出を通じて、子どもの健やかな成長と発達を支える環境づくりに貢献する知見が得られることが期待されます。

5. 用語解説

※1出生コホート:
出生時期や出生地域などの共通した特徴を持つ集団のこと。出生コホート研究では、こうした集団を出生前後から長期にわたって追跡し、環境要因や生活習慣が健康や発達に与える影響を調べる。

※2ばく露:
人体が化学物質や放射線などの外部要因にさらされること。本研究では、妊娠中や幼少期に化学物質などの環境要因にさらされることを指す。

※3コチニン:
タバコに含まれるニコチンが体内で分解されてできる物質。尿や血液中のコチニン濃度を測定することで、本人の喫煙状況だけでなく、受動喫煙の程度をより客観的に把握することができる。

※4鉛:
重金属の一種。自然界に広く存在するほか、かつては塗料やガソリンの添加物などに広く使用されていた。微量でも神経系や脳の発達に影響を与える可能性があり、特に胎児や乳幼児は感受性が高いとされている。

6. 発表論文

題名(英語):Cohort profile: The Japan Environment and Children’s Study

著者名(英語):Nozomi TATSUTA1, Yu TANIGUCHI1, Shoji F. NAKAYAMA1, Makiko SEKIYAMA1, Mai TAKAGI1, Miyuki IWAI-SHIMADA1, Yayoi KOBAYASHI1, Tomohiko ISOBE1, Hongwei, JIANG1, Shin YAMAZAKI1, and the Japan Environment and Children’s Study Group2

1龍田希、谷口優、中山祥嗣、関山牧子、高木麻衣、岩井美幸、小林弥生、磯部友彦、蒋宏偉、山崎新:国立環境研究所
2グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成

掲載誌:International Journal of Epidemiology
DOI: 10.1093/ije/dyag146(外部サイトに接続します)

7. 発表者

国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
主任研究員
龍田希
主任研究員
谷口優
次長
中山祥嗣
室長
関山牧子
主任研究員
高木麻衣
主任研究員
岩井美幸
主幹研究員
小林弥生
主幹研究員
磯部友彦
主任研究員
蒋宏偉
センター長
山崎新

8. 問合せ先

【研究に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所
環境リスク・健康領域 環境疫学研究室
主任研究員 龍田希

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所
企画部広報対話室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)