室内空気汚染と子どもの血圧レベルとの関連:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)詳細調査について
1. 発表のポイント
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エコチル調査の詳細調査参加者4,143人を対象に、1歳6か月時点の室内空気汚染(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドおよび二酸化窒素(NO2)へのばく露)と2歳時点の血圧レベルとの関連を検討しました。
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室内NO2濃度が最も低い群と比べて、濃度が最も高い群では収縮期血圧が1.21 mmHg、2番目に高い群では1.01 mmHg低いことが示されました。
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室内ホルムアルデヒドおよび室内アセトアルデヒド濃度と血圧レベルとの間には、多重検定を考慮して解析した結果、統計学的に有意な関連は認められませんでした。
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本研究は、幼児期の室内NO2へのばく露が血圧レベルと関連する可能性を示唆しています。
2. 研究の背景
「子どもの健康と環境に関する全国調査」(以下「エコチル調査」)は、胎児期から成長期にかけての化学物質をはじめとする環境要因へのばく露が、子どもの健康や発達にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とした出生コホート調査です。環境省により平成22(2010)年度に開始され、全国のおよそ10万組の親子を対象に、長期的な追跡が行われています。
本調査では、質問票などによる継続的な追跡に加え、さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯などの生体試料を収集し、適切に保存・分析しています。これらの情報を総合的に用いることにより、化学物質を含むさまざまな環境要因と、子どもの健康や成長・発達との関係を検討しています。
エコチル調査は、国立環境研究所に設置されたコアセンターが研究全体の中心的な役割を担い、国立成育医療研究センターのメディカルサポートセンターが医学的な側面から調査を支援しています。また、全国各地域における調査を実施するため、公募により選定された15の大学等にユニットセンターが設置されています。環境省をはじめ、これらの関係機関が連携・協力することで、全国規模の調査が進められています。
幼児期における環境汚染物質へのばく露は、小児期から成人期に至るまでの健康や生活の質に影響を及ぼす可能性があります。さまざまな環境ばく露のうち、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのカルボニル化合物、二酸化窒素(NO2)などのガス状大気汚染物質、ならびに揮発性有機化合物は、室内環境における主要な汚染物質であり、人の健康に影響を及ぼすことが知られています。
ホルムアルデヒドは、主に建材、家庭用品、家具などから放散されます。また、たばこの煙や、ガスコンロ、ストーブ、暖房器具などの燃焼機器からの排出物には、燃焼に伴ってホルムアルデヒド、アセトアルデヒドおよびNO2が含まれます。住宅の換気が不十分な場合、これらの汚染物質の室内濃度が高くなる可能性があります。既往研究においてホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドへのばく露が、血圧の調節に影響を及ぼし、心血管機能の異常につながる可能性が示されています。室内および屋外環境におけるNO2へのばく露についても、心血管疾患リスクの上昇との関連が指摘されていますが、先行研究の結果は一貫していません。このような先行研究の状況を踏まえると、幼児期における室内カルボニル化合物およびガス状大気汚染物質へのばく露と血圧との関連について、さらに検討する必要があります。
そこで本研究では、エコチル調査のデータを用いて、1歳6か月時点の室内空気汚染(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドおよびNO₂濃度)と、2歳時点の血圧レベルとの関連を検討しました。さらに、これらの関連が、子どもの性別や調査を実施した季節によって異なる可能性についても検討しました。
3. 研究内容と成果
エコチル調査参加者のうち、1歳6か月時点の室内アセトアルデヒド、室内ホルムアルデヒド、室内NO₂濃度および2歳時点の子どもの血圧データが揃っている参加者4,143人を対象に解析しました。室内空気中の汚染物質濃度については、子どもが1歳6か月の時点で各家庭を訪問し、パッシブサンプラー(拡散型捕集器)を用いて測定し、四分位で4群に分けました。血圧は、子どもが2歳の時点で、米国小児科学会のガイドラインに基づき、訓練を受けた調査担当者が測定しました。室内空気汚染物質と血圧レベルとの関連は、多変量線形混合効果モデル (※5)を用いて解析しました。また、調査を実施した季節および子どもの性別によって関連が異なる可能性を検討するため、層別解析も行いました。
その結果、室内NO2濃度が最も低い群と比較して、濃度が最も高い群では収縮期血圧が1.21 mmHg(95%信頼区間:−2.24~−0.18 mmHg)低く、2番目に高い群では1.01 mmHg(95%信頼区間:−1.99~−0.02 mmHg)低いことが示されました。
一方、ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドの室内濃度と血圧レベルとの関連は、多重検定を考慮して解析した結果、統計学的に有意ではありませんでした。なお、本研究で観察された血圧差は比較的小さく、その健康上の意義については今後さらに検討が必要です。
4. 今後の展開
本研究は、幼児を対象として、室内ホルムアルデヒド、室内アセトアルデヒドおよび室内NO2へのばく露と血圧レベルとの関連を検討した数少ない疫学研究の一つですが、観察研究であるため因果の方向性を直接示すものではなく、解析で十分に考慮できなかった要因の影響が残っている可能性があります。また、屋外のNO2濃度を考慮していないため、実際のばく露との関連を過小評価した可能性もあります。今後は、屋内外の複数の空気汚染物質を同時に評価する混合ばく露モデルやエクスポソーム解析(※6)を取り入れる必要があります。幼児期は心血管系を含む身体機能の発達に重要な時期であり、多くの時間を過ごす住宅内の空気環境を適切に管理することは、子どもの健康維持にとって重要である可能性があります。また、室内NO2と血圧レベルとの関連については先行研究でも必ずしも結果が一致しておらず、本研究の結果についても今後さらに検証が必要です。
5. 用語解説
(※1)ばく露
食べたり、吸い込んだり、触ったり、あるものにさらされることを指します。
(※2)四分位
データの値を小さい順に並べて、一つのグループが同じ人数になるように、四つのグループに分けるときの範囲をいいます。
(※3)95%信頼区間
分析によって得られた結果の推定値が、真の値を95%の確率で含むと考えられる範囲を示す指標です。この範囲が狭いほど結果の精度が高く、広いほど不確実性が大きいことを意味します。
(※4)多重検定
複数の統計解析を同時に行うことで偶然に有意な結果が生じる可能性が高まるため、その影響を考慮して判定基準を調整することです。
(※5)多変量線形混合効果モデル
多変量線形混合効果モデルとは、複数の要因を同時に考慮しながら、地域や調査拠点などのグループごとの違いも加味して、ばく露と血圧レベルとの関連を推定する統計手法です。
(※6)エクスポソーム解析
人が受けたすべての環境ばく露(食事、空気汚染、化学物質など)をまとめて同時に解析する統計手法です。
6. 論文情報
題名(英語):Associations of Indoor Carbonyl and Nitrogen Dioxide Exposure with Blood Pressure Levels Among Toddlers: The Japan Environment and Children’s Study
著者名(英語):Zin Wai Htay1, Makiko Sekiyama1*, Yu Taniguchi1, Nozomi Tatsuta1, Shin Yamazaki1; the Japan Environment and Children’s Study Group2
1ジンワイティ、関山牧子、谷口優、龍田希、山崎新:国立環境研究所エコチル調査コアセンター
2グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成
掲載誌:Indoor Air
DOI:https://doi.org/10.1155/ina/8806085(外部サイトに接続します)
7. 発表者
8. 問い合わせ先
【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所
環境リスク・健康領域 環境疫学研究室
室長 関山牧子
【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所
企画部広報対話室
kouhou0(末尾に@nies.go.jp をつけてください)

