脂肪に蓄積する中性PFASにも注目を
—PFAS研究の対象拡大を提言—

 国立環境研究所、ストックホルム大学など8機関の研究者計12名は共同で、PFAS(per- and polyfluoroalkyl substances; ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)の生物蓄積の研究を、脂肪組織に蓄積する可能性のある中性PFASへと広げる必要性を提言しました。これは、従来の生物蓄積研究が主としてペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)などのイオン性PFASを対象としてきた一方、近年、野生生物やヒト試料から一部の中性PFASが検出されていることや、物質の性質から脂肪組織への蓄積が予測されることを踏まえたものです。本内容は国際誌 『Environmental Science & Technology』 に展望論文(Perspective)として掲載されました。

1. 論文の要点

  • 従来の研究では、PFOSやPFOAをはじめとする、肝臓や血液などに蓄積しやすい「イオン性PFAS」に焦点が当てられてきた。
  • 近年、一部の「中性PFAS」が野生生物の脂肪組織に蓄積することを示す証拠が報告されている。
  • 一部の中性PFASはポリ塩化ビフェニル(PCB)などの従来型の残留性有機汚染物質(POPs)と似た性質を示し、生物蓄積する可能性がある。
  • 多種多様なPFAS全体による人の健康や生態系へのリスク評価のためには、脂肪組織に蓄積する中性PFASも対象に含め、分析法、環境モニタリング、物性評価、毒性研究を進める必要がある。

2. 論文の概要

PFASは、多種多様な分子構造をもつ化合物群であり、化学物質データベース「PubChem」には700万種類以上ものPFASが収載されています。PFASの生物蓄積については多くの研究が行われてきましたが、ほとんどの研究はPFOS、PFOAやそれらに類似した構造、性質をもつPFASを対象としてきました。PFOS、PFOAのようなPFASは、水中で負電荷をもつイオン性の化合物です。この性質を反映して、PFOSやPFOAは生物中では血液や肝臓などから比較的高い濃度で検出されてきました。そのため、新たな生物蓄積性のPFASを探索する研究でも、脂肪組織はあまり注目されてきませんでした。PCBなどの従来型のPOPsが脂肪組織に蓄積しやすいこととは対照的です。

しかし近年、主に電荷を帯びない状態で存在する「中性PFAS」が、野生生物の脂肪組織から検出されたという報告が増えています。例えば、ペルフルオロアルキルスルホンアミド(FASA※)は、鯨類の脂肪組織からも検出されており、体内蓄積に脂肪組織の寄与が無視できないことが示されています。また、最近報告された研究では、グリーンランドのシャチの脂肪組織からフルオロテロマースルホンという中性PFASの一種が検出されました。その研究では、フルオロテロマースルホンは、脂肪組織中の抽出可能な有機フッ素の34~75%を占めていました。今回発表した論文のために、国立環境研究所の研究者が量子化学計算に基づく物性推算を実施したところ、FASAとフルオロテロマースルホンが、PCB、ヘキサクロロベンゼン、ヘキサクロロシクロヘキサンなどの国際的に規制されているPOPsと同程度の疎水性と半揮発性をもつことが示されました。この結果は、これらの中性PFASが物性の観点からも生態系で生物蓄積しやすい可能性を示しています。さらに、これまでの報告で湖沼底質、下水汚泥、ハウスダストなどの環境媒体から、さまざまな種類の中性PFASが検出されており、環境中の挙動や生物蓄積についてさらなる研究が必要と考えられます。

中性PFASへと対象を広げるためには、分析方法の再検討も必要です。現在、主流となっているPFAS分析法では、主にイオン性PFASの測定に適した分析機器が用いられています。中性PFASを対象に加えるためには、測定技術の拡充が必要です。また、生体試料からPFASを抽出・分離する方法も、主としてイオン性PFASを対象に開発されてきました。脂肪組織に蓄積する中性PFASを把握するためには、分析機器と試料調製法の両面で開発を進める必要があります。

本論文は、肝臓や血液だけでなく、脂肪組織など脂質分に富んだ部位へのPFASの蓄積にも着目することを提案しています。また、従来研究の中心であったイオン性PFASに加え、中性PFASも対象とし、分析手法、発生源、組織内分布、毒性影響、残留性、および分配挙動に関する研究を推進していくことが、PFAS全体の環境リスクをより適切に評価するために重要であると提言しています。

(※)FASAは、酸解離定数pKa 6~8程度の弱酸であるため、一部がイオン種として存在する。しかし、PFOSやPFOA(pKa<1)に比べてはるかに弱い酸であり、その分配挙動は中性種の役割が重要であると考えられるため、論文中では中性PFASとしている。

3. 国立環境研究所の取り組み

国立環境研究所では、2026年度から開始した第6期中長期計画において「水・大気・土壌などの媒体を横断する環境汚染に伴う人や生態系への新たな脅威の包括的把握・解決を目指す研究プログラム」を進め、PFASをはじめとした化学物質による環境汚染の問題に取り組んでいます。また、同年度から新規に立ち上げた「環境レギュラトリーサイエンス研究センター」を通じ、科学的知見の社会実装を目指しています。中性PFASの生物蓄積に関しても、国内外の研究機関と協力して研究を進めています。

4. 発表論文

【タイトル】
Expanding the scope of PFAS research to include adipose tissues
【著者】
Xiaodi Shi,1* Matthew MacLeod,1 Amila O. De Silva,2 Karl J. Jobst,3 Mélanie Z. Lauria,4,1 Seth R. Newton,5 Jane Prihodova,1 Anna M. Roos,6 Anne L. Soerensen,6 Elsie M. Sunderland,7 Jonathan P. Benskin,1#* Satoshi Endo8#*
1. ストックホルム大学
2. カナダ環境・気候変動省
3. ニューファンドランド・メモリアル大学
4. スイス連邦水科学技術研究所 (Eawag)
5. 米国環境保護庁
6. スウェーデン自然史博物館
7. ハーバード大学
8. 国立環境研究所
*共同責任著者
#共同最終著者
【掲載誌】Environmental Science & Technology
【URL】https://pubs.acs.org/esthag/article/doi/10.1021/acs.est.6c01695/5389118/Expanding-the-Scope-of-PFAS-Research-to-Include(外部サイトに接続します)
【DOI】10.1021/acs.est.6c01695(外部サイトに接続します)

5. 問合せ先

【研究に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 環境リスク・健康領域
曝露影響計測研究室
環境レギュラトリーサイエンス研究センター(兼務)
主幹研究員 遠藤智司

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報対話室
kouhou0(末尾に“@nies.go.jp”をつけてください)