タイヤから生じる微粒子を取り込み続けた魚に貧血が起こることが明らかに
~成長への影響は認められず、血液への影響にはタイヤ由来の化学物質の関与が示唆される~

 愛媛大学先端研究院沿岸環境科学研究センターの仲山 慶講師らの研究グループは、国立環境研究所、産業技術総合研究所、日本獣医生命科学大学、鹿児島大学との共同研究により、タイヤから生じる微粒子を魚が取り込み続けると貧血が起こることを明らかにしました。
 タイヤ摩耗によって生じる微粒子を模した粒子(CMTT)をコイに二週間以上与えたところ、成長への影響は見られない一方で、貧血が発生することを確認しました。また、紫外線で劣化させた粒子ではこの影響が消失し、タイヤ粒子そのものよりも含有する添加剤由来の化学物質が主要因である可能性が示されました。本研究は、タイヤ由来粒子の生態リスク評価において、化学物質の動態を考慮する重要性を示す成果です。
 本研究の成果は、2026年8月20日付で「Environmental Chemistry and Ecotoxicology」(Elsevier社)に掲載されました。

本研究のポイント

  • タイヤのトレッドを低温で細かく砕いた粒子(CMTT*1)を混ぜた餌をコイに与え続けると、成長には目立った影響が生じない一方で、貧血*2が起こることを明らかにしました。
  • 通常の餌に戻すと血液の状態は回復しており、この貧血が可逆的な変化であることを確認しました。
  • 貧血の要因は粒子そのものではなく、タイヤに含まれる添加剤やその変化物である可能性が高いと考えられました。
  • 日光による変質を再現した紫外線処理を施した粒子では、関与が疑われる化学物質が減少し、血液への影響も認められませんでした。
  • 生態リスク評価の基準となる、影響が現れなかった量(無影響量*3)と影響が現れ始めた量(最小影響量*3)を算出しました。

概要

 愛媛大学先端研究院沿岸環境科学研究センターの仲山慶講師らの研究グループは、国立環境研究所、産業技術総合研究所、日本獣医生命科学大学、鹿児島大学との共同研究により、タイヤから生じる微粒子を魚が取り込み続けると貧血が起こることを明らかにしました。
 実験では、タイヤのトレッド(路面と接する部分)を細かく砕いた粒子を混ぜた餌を、コイに最大4週間与えました。その結果、体の成長には目立った影響が見られない一方で、血液中のヘモグロビン*4量と赤血球の割合が低下し、貧血の状態になることが確認されました。
 一方、屋外での日光による変質を再現するために紫外線をあらかじめ当てた粒子では、血液への明確な影響は認められませんでした。未処理の粒子からは、タイヤに含まれる添加剤とその変化物が数多く水中へ溶け出すことも確認されており、それらの多くは紫外線を当てた後には検出されなくなるか、濃度が大きく低下していました。
 以上の結果から、コイに生じた貧血は、粒子そのものによる物理的な刺激ではなく、タイヤに含まれる化学物質が主要な要因になっている可能性が高いと考えられます。本研究は、タイヤ由来粒子の生態リスクを評価する際には、粒子の量だけでなく、そこから溶け出す化学物質の変化と行方まで視野に入れる必要があることを示すものです。
 本研究の成果は、2026年8月20日付で「Environmental Chemistry and Ecotoxicology」(Elsevier社)に掲載されました。

研究の背景

 マイクロプラスチック汚染への関心が高まる中、タイヤの摩耗によって生じる微粒子が環境中へ大量に放出されていることが新たな課題となっています。タイヤと路面がすり合うことで生じるこの粒子は、タイヤ・路面摩耗粉塵と呼ばれます。
 日本では1人あたり年間平均1.9 kgのタイヤ粒子を排出していると推定されており(UNEP, 2024)、河川や海洋のうち、とくに蓄積が進みやすい場所(ホットスポット)では、高い濃度で検出されることが報告されています(Tanaka et al., 2025)。
 タイヤはゴムだけでできているわけではありません。長持ちさせたり、強度や柔らかさを整えたりするために、多様な化学物質が加えられています。環境中では、こうした物質が水に溶け出したり、別の物質へ変化したりするため、生物への影響が懸念されてきました。
 しかし、魚が長期間にわたってタイヤ由来粒子を取り込んだときに体内でどのような変化が起こるのか、とりわけ死には至らない慢性的な影響については、多くが未解明のまま残されていました。

研究の成果

 研究グループは、コイ(Cyprinus carpio)に対し、タイヤのトレッドを低温で細かく砕いた粒子(CMTT)を混ぜた餌を最大4週間与える慢性毒性試験を行いました。
貧血の発生: 餌に2.5%以上のCMTTを混ぜて与えたコイでは、血液中で酸素を運ぶヘモグロビンの量と、血液に占める赤血球の割合がともに低下し、貧血の状態にあることが確認されました。
 ひ臓での赤血球の破壊: 組織を顕微鏡で観察したところ、ひ臓へのヘモジデリン*5の沈着が濃度に応じて増えていました。ヘモジデリンは赤血球が壊れた後に生じる物質であり、赤血球の破壊が進んでいたことを示しています。
分子レベルの応答: 腎臓では、酸素不足への対応や赤血球の産生に関わる遺伝子(Myg1やEPO)の働きが強まっていました。酸素を運ぶ力の低下を補おうとする生体の反応が捉えられたものと考えられます。
 可逆性と成長への影響: CMTTを含まない通常の餌に切り替えると、1週間後には血液の指標が改善しました。また、試験期間を通じて、成長や餌の利用効率に悪影響は認められませんでした。

貧血の要因と紫外線による変質の影響

 どのような化学物質が粒子から溶け出すのかを、対象をあらかじめ絞らずに幅広く探索する分析(ノンターゲット分析*6)で調べたところ、老化防止剤6PPD*7や加硫促進剤DPG*8とその変化物を含む43種類の化学物質が見出されました。
 さらに、約1年分の日光を浴びた状態を再現するために、紫外線(UV)を照射した粒子で同じ試験を行うと、貧血は生じませんでした。検出された物質のうち33種類について濃度を見積もったところ、紫外線処理によって多くの添加剤由来成分が分解し、あるいは失われていました。
 これらの結果は、貧血の主要な要因が粒子そのものではなく、タイヤに加えられた化学物質であることを強く示唆しています。

今後の展望と社会的意義

 本研究では、影響が現れなかった最大の量である無影響量(飼料中濃度1.25%、投与量0.375 mg/g 体重/日)と、影響が現れ始めた最小の量である最小影響量(飼料中濃度2.5%、投与量0.75 mg/g 体重/日)を示しました。これらは、環境中のタイヤ粒子が魚にもたらすリスクを見積もるうえで欠かせない指標となります。
 CMTTの無影響量から換算した、タイヤ・路面摩耗粉塵(TRWP*9)として毒性が生じないと推定される飼料中濃度、すなわち毒性閾値(2.5%)は、国内沿岸域の底質で報告されているTRWP濃度(最大4,260 mg/kg = 0.426%)よりもやや高い値でした。もっとも、汚染の著しい地点では閾値に近い濃度で検出されることも懸念されます。
 一方で、本研究で認められた影響は、タイヤ添加剤由来の化学物質によって生じている可能性が高く、これらの物質は溶出や分解を通じて時間とともに粒子中から失われていくと考えられます。したがって、粒子の存在量だけからリスクを見積もると、実際よりも大きく評価してしまう可能性があります。
 今後は、実際の環境で生じるTRWPを用いた試験を進め、影響をもたらす化学物質の特定に取り組みます。それにより、タイヤ製品の持続可能な利用に資する科学的知見を提供していきます。

紫外線照射前後でのCMTT浸出液中の化学物質プロファイルの比較
未劣化のCMTTの浸出液で検出されたタイヤ添加剤由来の化合物の多くは、UV劣化後には大幅に濃度が低下した。

未劣化または紫外線劣化CMTTをばく露*10したコイの血液中ヘモグロビン濃度
未劣化のCMTTを2.5%添加した飼料を摂取したコイの血液中ヘモグロビン濃度は有意に低下した。UV劣化CMTTでは、飼料中濃度を5%にしてもヘモグロビン濃度への影響は見られなかった。

研究体制と支援について

 本研究は、愛媛大学先端研究院沿岸環境科学研究センターと、国立環境研究所、産業技術総合研究所、日本獣医生命科学大学、鹿児島大学との共同研究として実施されました。なお、本研究は独立行政法人環境再生保全機構の環境研究総合推進費(1-2204: JPMEERF20221004、1-2502: JPMEERF20251002)の支援を受けて実施されたものです。

参考資料

国連環境計画(UNEP). Foresight Brief 034: Early Warning, Emerging Issues and Futures - Vehicle tyre particles in the environment. 2024
Tanaka et al. Distribution and accumulation patterns of tire-derived particles in coastal and lake sediments. 2025

掲載誌情報

掲載誌:Environmental Chemistry and Ecotoxicology

タイトル:Chronic dietary exposure to cryo-milled tire tread (CMTT) causes hematotoxicity without growth inhibition in common carp(参考和訳:凍結粉砕タイヤトレッド粒子(CMTT)の慢性的な経口ばく露は、コイの成長には影響しないが、血液毒性を引き起こす)

著者:Kei Nakayama, Rina Wada, Tatsuya Kunisue, Rumi Tanoue, Akitoshi Goto, Shinpei Wada, Osamu Kurata, Kosuke Tanaka, Yusuke Takahashi, Atsuko Amano, Takuya Itaki, Seiichi Uno, Go Suzuki

DOI:https://doi.org/10.1016/j.enceco.2026.08.013 (外部サイトに接続します)

用語解説

*1CMTT(Cryo-Milled Tire Tread): タイヤのトレッドを低温で細かく砕いた粒子。路面由来の不純物を含まないため、研究用の標準的な試験材料として用いられます。

*2貧血: 血液が酸素を運ぶ力が低下した状態。赤血球やヘモグロビンが減ることで生じます。

*3 無影響量・最小影響量: 前者は試験で影響が認められなかった最大の量、後者は影響が認められ始めた最小の量。いずれも環境リスクを評価する際の基準となります。

*4 ヘモグロビン: 赤血球に含まれるタンパク質で、酸素を全身へ運ぶ役割を担います。

*5ヘモジデリン: 赤血球が壊れた際に生じるヘモグロビンの代謝産物。ひ臓などに沈着します。

*6ノンターゲット分析: 調べる物質をあらかじめ限定せず、試料に含まれる化学物質を幅広く探索する分析手法です。

*7 6PPD: タイヤの老化を防ぐために広く用いられる添加剤。その変化物である6PPD-キノンは、一部のサケ科魚類に対して極めて強い急性毒性を示すことが知られています。

*8DPG: ジフェニルグアニジン。ゴムの性質を整えるためにタイヤの製造工程で用いられる加硫促進剤の一つです。

*9TRWP(Tire and Road Wear Particles): タイヤ・路面摩耗粉塵。タイヤのトレッドと路面の舗装材がすり合うことで生じる複合粒子です。

*10ばく露: 生物が化学物質や粒子にさらされること。本研究では、コイがタイヤ粒子を含む餌を食べることを指します。

問合せ先

【研究に関する問合せ】
愛媛大学先端研究院沿岸環境科学研究センター
講師 仲山 慶(なかやま けい)

国立環境研究所 資源循環領域 持続循環先端技術研究室
室長 鈴木 剛(すずき ごう)

産業技術総合研究所
研究グループ長 天野 敦子(あまのあつこ)

日本獣医生命科学大学
倉田 修(くらた おさむ)

鹿児島大学
教授 宇野 誠一(うの せいいち)

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