海洋を漂流するマイクロプラスチックから管理上注目すべき添加剤由来化学物質を検出
—微細化しても化学物質に関する懸念は必ずしも低下しない—

 国立環境研究所資源循環領域、東京海洋大学および長崎大学の研究チーム(以下、「当研究チーム」)は共同で、日本周辺の沿岸域・沖合域から採取したマイクロプラスチック(以下「MP」という。)注釈1と、海洋に流出したプラスチックごみ(レジ袋、ロープ、漁網などの比較的大きなプラスチック片)に含まれる添加剤由来の化学物質を分析しました。
 その結果、それぞれから酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、難燃剤など、多様な化学物質が検出されました。特に、Irgafos 168関連化合物、可塑剤DEHP、難燃剤HBCDについて、溶出、周辺環境からの吸着、粒子中への残存など、物質ごとに異なる環境中での挙動が示されました。また、規制・管理上注目すべき濃度の化学物質を含むMPが、海洋を漂流していることも確認されました。
 本研究は、プラスチックごみがMPへと細かく砕けても、化学物質に関する懸念が必ずしも低下するわけではないことを示しています。製品中の含有量を中心とする従来の化学物質管理だけでは、環境流出後の微細化、移動、溶出、吸着といった挙動を十分に捉えにくいため、これらを考慮したリスク評価と管理の検討が必要です。本研究成果は、海洋プラスチック汚染対策と化学物質管理を結び付ける科学的知見となります。
 本研究の成果は、2026年7月14日付で米国化学会から刊行される環境科学分野の学術誌『Environmental Science & Technology』に掲載されました。また、当該論文は、同誌の表紙(Supplementary Cover)に選出されました。

1. 研究の背景と目的

 プラスチック汚染は、海洋ごみの問題にとどまらず、資源循環や化学物質管理とも密接に関係する国際的な環境課題です。環境中へ流出したプラスチックは、紫外線や波浪などの影響を受けて劣化・微細化し、MPとして海洋中を移動します。また、プラスチック製品には、機能や耐久性を高めるため、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、難燃剤などの添加剤が使用されています。これらの化学物質の一部は、人や生態系への影響が懸念され、国際条約や各国・地域の法令による規制・管理の対象となっています。
 これまでにも、海岸に漂着したプラスチックごみなどから添加剤が検出されてきました。しかし、海洋表層を漂流するMPと、河川、沿岸域および海底から回収された大型プラスチックごみを比較しながら、添加剤由来の化学物質がどの程度残留し、環境中でどのように移行・変化するかを体系的に評価した研究は限られていました。
 そこで、当研究チームは、日本周辺で採取したMPと大型プラスチックごみを対象として、添加剤由来の化学物質を分析しました。本研究では、粒子の大きさ、材質、採取環境による違いを比較し、海洋へ流出したプラスチックに含まれる化学物質の環境動態と、リスク管理上の課題を明らかにすることを目的としました。

2. 研究手法

2.1 試料の採取

 海洋表層を漂流するMPは、東京湾、玄界灘、太平洋沿岸、北海道沖および日本海沿岸の5海域で採取しました(図1)。採取には、海面付近を漂う粒子を集めるためのネット(ニューストンネット)を用いました。
 大型プラスチックごみは、北海道日高沖、東シナ海および長崎県内の沿岸域やその海底と、東京都内の河川排水機場から回収しました(図1)。

図1 MPおよび大型プラスチックごみの採取海域・回収地点

青色は海洋表層を漂流するMP、赤色は大型プラスチックごみの採取地点・地域を示す。

2.2 材質の同定

 採取したMPは、顕微鏡で形状や大きさを記録し、赤外線を利用した分析法(以下「FTIR」という。)注釈2によって材質を同定しました。MPは、ポリエチレン(以下「PE」という。)、ポリプロピレン(以下「PP」という。)および発泡ポリスチレン(以下「発泡PS」という。)等を含むその他の樹脂に分類しました。
 大型プラスチックごみは、洗浄・乾燥後、レジ袋、ロープ、漁網、硬質片などに分類し、FTIRによって材質を確認しました。このうち、主にPEとPPを添加剤分析の対象としました。

2.3 添加剤由来の化学物質の分析

 MPおよび大型プラスチックごみから化学物質を抽出し、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)注釈3で分析しました。対象としたのは、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、臭素系難燃剤、有機リン系難燃剤、ビスフェノール類、多環芳香族炭化水素類などです。
 MPについては、材質ごとに複数の粒子をまとめた48試料を分析しました。内訳は、PEが17試料、PPが17試料、その他の樹脂が14試料です。大型プラスチックごみについては、PEが209試料、PPが99試料の計308試料を分析しました。

3. 研究結果と考察

3.1 多様な添加剤由来化学物質を検出

 MPおよび大型プラスチックごみから、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、難燃剤など、多様な化学物質が検出されました。このうち、検出頻度、濃度、規制・管理上の重要性を踏まえ、Irgafos 168関連化合物、可塑剤DEHPおよび難燃剤HBCDを、重点的に評価すべき物質として整理しました。

3.2 Irgafos 168関連化合物:材質や粒径により溶出・変化の程度が異なる

 Irgafos 168は、PEやPPなどの酸化劣化を防ぐために使用される酸化防止剤です。本研究では、Irgafos 168と、その酸化によって生じる化合物を合わせて「Irgafos 168関連化合物」として評価しました。Irgafos 168の酸化体は、環境中で検出される新興汚染物質として報告されており、今後の環境中での実態把握や有害性評価が必要な物質と考えられます。これらはPEおよびPPのMPと大型プラスチックごみから広く検出され、PEのMP中濃度は、PEの大型プラスチックごみやPPのMPよりも低い傾向を示しました。このことから、主にプラスチック内部から周辺環境への溶出・移行の影響を受け、その程度は材質や粒子サイズによって異なると考えられました(図2)。

3.3 可塑剤DEHP:周辺環境からの吸着も影響

 DEHP(フタル酸ビス(2-エチルヘキシル))は、主に軟質塩化ビニル製品などに使用されてきた可塑剤です。ヒトや生態系への影響が懸念されており、EUでは使用が制限され、日本でも食品用の器具・容器包装や指定おもちゃへの使用・含有が制限されています注釈4。MPと大型プラスチックごみから広く検出され、一部の試料では1,000 µg/g(重量比0.1%)を超えました。PEとPPのいずれにおいても、海洋表層を漂流するMPの濃度は、海底から回収された大型プラスチックごみよりも高い傾向を示しました。これらの結果から、プラスチック内部に残留するDEHPに加え、海水、海水中の有機物や水に漂う細かい粒子などに含まれるDEHPが、表面積の大きいMPへ吸着した可能性が示されました(図2)。

3.4 難燃剤HBCD:海洋を漂流するMP中に残存

 HBCD(ヘキサブロモシクロドデカン)は、主に発泡PSなどに使用されてきた臭素系難燃剤です。環境中で分解されにくく、生物への蓄積性などが懸念されることから、残留性有機汚染物質(POPs)注釈5として国際的な規制の対象となっています。本研究では、玄界灘、太平洋沿岸および日本海沿岸で採取したMPから110~590 µg/gのHBCDを検出しました。発泡ポリスチレンなどが細かく砕けた後も、HBCDを含む粒子が海洋を漂流し、移動性のある二次的なばく露源となり得ることが示されました(図2)。また、HBCDを含むMPは外観だけでは確実に識別できないため、通常のMP調査では見落とされる可能性があります。

3.5 微細化しても化学物質に関する懸念は必ずしも低下しない

 本研究では、微細化に伴って添加剤由来の化学物質が一律に失われるわけではなく、MP中に残存する物質や、周辺環境から吸着的に取り込まれる物質があることが示されました。大型のプラスチックごみがMPへと細かく砕けると、重量当たりの表面積が増加し、添加剤の溶出や周辺環境からの化学物質の吸着に影響すると考えられます。材質、粒子サイズ、化学物質の性質や周辺環境中での存在状況によって挙動が異なるため、微細化しても化学物質に関する懸念が必ずしも低下するとは限りません。さらに、小さな粒子は海洋中を広く移動・拡散する可能性があります。製品中の含有量を中心とする従来の化学物質管理だけでは、環境流出後のこうした挙動を十分に捉えにくいため、プラスチックの劣化・微細化、移動、添加剤の溶出・吸着を一体的に考慮したリスク評価を進め、その結果を踏まえて管理の必要性や優先順位を検討することが重要です。

図2 海洋流出プラスチックに含まれる主な添加剤由来化学物質と、その環境中での挙動

 Irgafos 168関連化合物はプラスチック内部からの溶出・変化、可塑剤DEHPは周辺環境からMPへの吸着的取り込み、難燃剤HBCDは粒子中に残存したままの移動という、物質ごとに異なる挙動を示した。図中の点は模式的に表したものであり、濃度や粒子数を定量的に示すものではない。

4. 今後の展望

 今後は、MPがどの程度生物に取り込まれ、MPに含まれる添加剤由来化学物質が生態系への影響にどの程度寄与するかを明らかにする必要があります。また、発泡PS製の浮きや断熱材、軟質塩化ビニル製品など、規制・管理上注目すべき添加剤を含むプラスチックについて、発生源や流出経路を把握し、流出防止、選択的な回収、適切な処理につなげることが重要です。
 海洋流出プラスチックの問題には、粒子そのものだけでなく、含有・吸着する化学物質も関係します。製品中の含有量を中心とする従来の化学物質管理だけでは、環境流出後の微細化、移動、溶出、吸着といった挙動を十分に捉えにくいため、リスク評価を進め、その結果を踏まえて管理の必要性や優先順位を検討することが重要です。こうした知見は、海洋プラスチック汚染対策と化学物質管理を一体的に検討するうえで重要であり、プラスチック汚染に関する国際的な議論にも資することが期待されます。

5. 注釈

注釈1:マイクロプラスチック(MP)
一般に、大きさが5 mm未満のプラスチック粒子を指します。本研究では、海洋表層を漂流するおおむね0.5~5 mmの粒子を添加剤分析の対象としました。

注釈2:FTIR
フーリエ変換赤外分光法の略称です。物質に赤外線を当てた際に得られる特徴的な情報から、プラスチックの材質を判別します。本研究では、全反射測定法(ATR法)を用いました。

注釈3:GC-MS
ガスクロマトグラフ質量分析法の略称です。試料に含まれる化学物質を分離し、種類や濃度を調べる分析法です。

注釈4:可塑剤DEHPに関する規制・管理
DEHPは、ヒトの健康や生態系への影響が懸念される化学物質です。EUのREACH規則では、DEHP、DBP、BBPおよびDIBPの合計濃度について、可塑化材料中0.1%(1,000 µg/g)以上となる製品の上市等が原則として制限されています。日本では、化学物質審査規制法(化審法)の優先評価化学物質としてリスク評価の対象となっています。また、食品衛生法に基づき、油脂・脂肪性食品に接触する器具・容器包装や指定おもちゃについて、DEHP等の使用・含有が制限されています。

注釈5:残留性有機汚染物質(POPs)と難燃剤HBCDに関する規制
残留性有機汚染物質(POPs)は、環境中で分解されにくく、生物に蓄積しやすく、長距離を移動する性質などを持つ有機化学物質です。HBCDは、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約の規制対象物質であり、日本では化審法の第一種特定化学物質に指定されています。EUのPOPs規則では、非意図的に微量に含まれるHBCDの限度値は原則として75 mg/kgとされています注)。また、バーゼル条約に基づく技術ガイドラインでは、HBCDを含む廃棄物の低POPs含有量基準は1,000 mg/kgとされています。本研究でMPから検出されたHBCD濃度(110~590 µg/g=110~590 mg/kg)は、EUの限度値を上回り、バーゼル条約の基準に近づく水準でした。
注)建築・土木用の発泡ポリスチレン(EPS)および押出発泡ポリスチレン(XPS)断熱材の製造に再生ポリスチレンを使用する場合は、100 mg/kg以下とされています。

6. 研究助成

 本研究の一部では、環境省の請負事業で採取された試料を活用しました。また、本研究は、独立行政法人環境再生保全機構の環境研究総合推進費(課題番号:JPMEERF23S21030、JPMEERF20221004、JPMEERF20261003)の支援を受けて実施しました。

7. 発表論文

【タイトル】
 Priority Plastic Additives of Environmental Concern in Marine-leaked Micro- and Macroplastics: Occurrence, Distribution,
 and Management Implications
【著者】
 Go Suzuki, Kosuke Tanaka, Natsuyo Uchida, Keiichi Uchida, Yoshiki Matsushita, and Tadashi Tokai
【掲載誌】Environmental Science & Technology
【URL】https://doi.org/10.1021/acs.est.6c03000(外部サイトに接続します)
【DOI】10.1021/acs.est.6c03000(外部サイトに接続します)
【表紙解説】https://pubs.acs.org/toc/esthag/60/27(外部サイトに接続します)

8. 発表者

本報道発表の発表者は以下のとおりです。

国立環境研究所
資源循環領域 持続循環先端技術研究室
室長
鈴木 剛
主任研究員
田中 厚資
高度技能専門員
宇智田 奈津代
東京海洋大学
学術研究院 海洋資源エネルギー学部門
教授
内田 圭一
長崎大学
総合生産科学域 水産科学領域
教授
松下 吉樹
東京海洋大学
名誉教授
東海 正

9. 問合せ先

【研究に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 資源循環領域
持続循環先端技術研究室 室長 鈴木 剛

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報対話室
kouhou0(末尾に“@nies.go.jp”をつけてください)

東京海洋⼤学 総務部 総務課 広報室
so-koho(末尾に“@o.kaiyodai.ac.jp”をつけてください)

長崎大学 広報戦略本部
kouhou(末尾に“@ml.nagasaki-u.ac.jp”をつけてください)