極端気温を伴う複合・連鎖事象が熱関連健康等に及ぼす影響と適応策の在り方に関する学際的研究(令和 8年度)
Interdisciplinary Research on the Compound Impacts and Cascading Events on Health Associated with Extreme Temperatures

研究課題コード
2628BE001
開始/終了年度
2026~2028年
キーワード(日本語)
気候変動,複合災害,健康影響,適応
キーワード(英語)
Climate change,Compound impact,Health impact,Adaptation

課題代表者

岡 和孝

  • 気候変動適応センター
    気候変動影響観測研究室
  • 室長(研究)

担当者

研究概要

■ 研究の背景
気候変動の進行により、2024年には観測史上最高の夏期気温を記録し、熱中症による救急搬送数や死亡者数も過去最多となった。熱中症による健康被害を軽減するために、環境省は2021年に熱中症警戒アラートを全国に導入し、2024年には熱中症特別警戒アラートや指定暑熱避難施設の全国展開を開始した。
近年我が国においては、気候変動による自然災害が激甚化しており、その発生に伴う社会インフラへの複合・連鎖的な影響(停電等)が既に顕在化している。熱中症が既に深刻である中、停電により空調が使用出来なくなれば健康影響の一層の悪化が懸念される。実際、令和元年房総半島台風を起因とする停電により高齢者を中心に多くの熱中症患者が生じた。特に指定暑熱避難施設で空調が機能しなければ対策の実効性が損なわれることが懸念される。
また、冬期においても、極端低温の発生に伴う健康影響に加え、降雪や自然災害に伴う救急困難事案などの連鎖的被害が発生すれば、被害は甚大化する恐れがある。
このように、極端気温(高温及び低温)による健康影響のみならず、自然災害に伴う社会インフラ障害が重なる「複合・連鎖事象」への対策は、喫緊の政策課題である。

■ 研究の目的
極端気温(高温及び低温)を伴う複合・連鎖事象による甚大な健康影響が懸念されるものの、現状ではその知見が限られる。このため、今後どのような対策がどの程度必要となるかを検討することが困難な状況にある。また、気候変動下における今後の自然災害の激甚化や頻発化を見越した上で、環境省の重要な政策である指定暑熱避難施設や熱中症(特別)警戒アラートの今後の在り方を検討することが喫緊の課題となっている。本研究では当該課題に対する科学的回答を創出し、その知見の活用を通じて我が国の極端気温(高温及び低温)を伴う複合・連鎖事象下における健康や熱中症対策に係るレジリエンス向上に資する提言を行うことを目的とする。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:技術開発・評価

全体計画

極端気温(高温及び低温)を伴う複合・連鎖事象下における熱関連健康影響を解明し、「フェーズフリー」視点に基づく持続的かつ実効的な対策の在り方を検討するために下記1〜4の研究に取り組む。

サブテーマ1:極端高温を伴う複合・連鎖事象(風水害、停電等)による熱関連健康影響を推定する。特に、停電に着目し、断熱、緑化、高反射塗料等、停電時でも実装可能な暑熱対策の導入効果を都市気候モデルで評価する。さらに気候予測情報を用い暑熱対策を考慮した将来の熱関連健康影響を予測する。

サブテーマ2:極端低温を伴う複合・連鎖事象(寒波、降雪、積雪等)による熱関連健康影響を推定する。まず人への寒冷ストレスに関わる寒冷指標を開発し、死亡、救急救助統計、入院情報と結合することで寒波及び降雪・積雪の複合曝露が人の健康や医療供給体制に及ぼす影響を推定する。さらに気候予測情報を用いて当該影響の将来予測を行う。

サブテーマ3:過去から現在に至るまでに、極端気温(高温及び低温)を伴う複合・連鎖事象がどの程度発生し、その中で気候変動がどの程度熱関連健康に影響を及ぼしたのかを明らかにする。さらに気候予測情報を用いて複合・連鎖事象と熱関連健康影響の確率的な将来予測を行う。

サブテーマ4:複合・連鎖事象下における、熱関連健康リスクに係る対策としての指定暑熱避難施設等や熱中症(特別)警戒アラートの在り方に関する提言を行うことを目的に、指定暑熱避難施設等の水害等のハザードに対するレジリエンス性や、リスク人口に対するアクセシビリティ性の評価を行う。また、熱関連健康に大きな影響を及ぼす停電に着目し、極端気温(高温及び低温)下の空調停止時の指定暑熱避難施設等の温熱環境を観測の上、その結果を用い温熱生理モデルにより人体に与える影響を分析する。さらに停電情報等を加えて熱中症(特別)警戒アラートを表示するシステムを構築する。

今年度の研究概要

サブテーマ1:風水害直後に猛暑や停電が起こった複合・連鎖事象の事例を探索し、災害タイプ、被災地域、期間等の情報をリスト化する。その上で、各複合災害発生地域及び周辺の非被災地域における、救急搬送、死亡データ、気温、湿度、停電件数または電力使用量データを収集し、日別時系列データを作成する。構築した時系列データを用いて各災害事例における救急搬送、死亡データの地域間比較や前後比較など基礎解析を行う。停電時でも実装可能な暑熱対策(断熱、緑化、高反射塗料等)導入が停電時の温熱環境緩和にもたらす効果を評価することのできる都市気候モデルの開発を行う。

サブテーマ2:文献的検討から、寒冷ストレスに関連した指標を抽出し、北海道、東北地域、豪雪地帯の市町村について、気象データを整理し、寒冷ストレス指標を整理する。また、普段は雪が降らないが、過去の顕著な大雪を体験した都道府県についても複数選び、積雪に慣れていない「対照県」として気象情報を整理する。死亡、救急搬送、救急搬送時間情報を整理し、これらの健康アウトカム指標と寒冷ストレス指標の基礎解析を行い、解析用データセットを作成する。

サブテーマ3:熱関連健康影響推定モデルの開発-地域別の熱関連死亡・搬送数等の健康アウトカムと気象庁の地点観測データAMeDASや大気再解析データJRA-3Qを整備する。気温や湿度等の気象データをメトリックとして各々座標軸に取り、当該座標空間上で健康アウトカムを地域別にプロットし、熱関連健康影響推計モデルを得る。熱関連健康影響の過去から将来までの変化の評価とアトリビューション-高解像度の大規模気候変動予測データベースd4PDFを熱関連健康影響推計モデルの入力値として、地域別の熱関連健康影響の過去から将来までの変化を確率的に評価する。d4PDFの非温暖化実験についても同様に処理し、熱関連健康影響の変化に対する人間活動の影響を定量化する(D&A、EA)。

サブテーマ4:指定暑熱避難施設等の位置情報及びハザードマップ情報を収集し、GISを用いて試行的なレジリエンス性評価を行う。アクセシビリティ性の評価実施に向けて、評価手法の検討・開発を行うとともに、評価に必要となるデータの収集を行う。指定暑熱避難施設等内の温熱環境(主としてWBGT)観測実施に係る計画(場所、時期)を作成し、地方公共団体や民間企業等とも連携の上、夏期及び冬期あわせて8カ所程度で観測する。その結果を用い人体に与える影響を分析するための温熱生理モデルを開発し、試行的な評価を行う。停電や指定暑熱避難施設等の情報を加えて熱中症(特別)警戒アラートを表示するシステムとして防災クロスビューラボを活用した設計を行う。

外部との連携

東京大学、長崎大学、北海道大学、筑波大学、東京科学大学、北海道立総合研究機構、海洋研究開発機構、防災科学技術研究所

関連する研究課題