東シナ海環境の将来予測に向けて

右上:「微細乱流構造プロファイラー」で海水の鉛直混合の強さを観測する機器です。
右下:陸棚(長江河口と九州の中間付近)の調査中に遭遇した夜光虫の赤潮です。
1994年の国連海洋法条約発効によって、地球上の海洋の約4割が沿岸国の主権が及ぶ排他的経済水域等に定められました。また1992年にブラジル・リオデジャネイロで開催された地球サミットでは、沿岸国は「持続可能な開発」原則との調和を図った海洋管理の実現が求められました。約20年前のこれらの動きは、沿岸国の海洋資源や海上交通等の管轄拡大を認める一方で、海洋環境や生態系の保全における沿岸国の国際的な責務を明確化したものであり、現在まで沿岸各国はその責務を果たすべく様々な取り組みを進めてきました。しかし、その隘路の一つとなったのは、人間活動由来の汚濁負荷による海域の富栄養化とそれによって惹起される生態系変化の問題です。とりわけ、この20年間に著しい経済発展を遂げた東アジア地域では、活発な経済活動を優先せざるをえない状況が続き、汚濁負荷対策はどちらかと言えば後回しにされてきました。
中国大陸に面した東シナ海の環境問題は、まさにこの20年間で顕著になりました。中国では農作物増産のために化学肥料が大量に使用され、その余剰が汚濁となって世界第5位の流量を擁する長江(揚子江)を通じて東シナ海に放出されました。長江河口の周辺海域は中国沿岸域の中でも特に富栄養化が深刻な海域であり、また長江の大きな流量のために中国沿岸のみならず東シナ海の広い範囲への影響が懸念されています。海流に乗って日本近海にも出現する大型クラゲの発生は、気候変動による海水温上昇や水産資源乱獲の影響も指摘されますが、陸域からの汚濁負荷量や質の変化に起因した生態系変化であるとも言われています。
もちろん中国政府も沿岸域の環境悪化に歯止めをかけるべく、関連する法律の整備を急ピッチで進めてきました。例えば2000年に改正された中国海洋環境保護法では、日本の水質総量規制制度と同様に、陸上を含む主な汚濁源に排出量を割り当てることで海域に排出される汚濁物質の管理を強化しました。最新の中国国家海洋局の環境公報によれば、中国沿岸の赤潮発生件数の増加は法律施行後鈍化してきており、施策効果が現れているのかもしれません。
一方、海洋環境には汚染・汚濁が蓄積されやすいという特徴があります。日本において厳しい水質規制にも関わらず富栄養化海域の水質改善が思うように進まない原因のひとつは、長年に亘って負荷をうけて海底に蓄積した汚濁物質からの溶出です。現在の中国由来の汚濁負荷量は経済発展前の数倍のレベルが維持されたままであり、長期的な視点からは東シナ海の環境は従来とは異なる、また容易には回復しえない環境に遷移する可能性が懸念されます。現在観測される東シナ海の環境でさえ、短期的な影響ばかりではなく、過去からの汚濁負荷の累積的な影響が反映されているのかもしれません。
執筆者プロフィール
長年携わってきた海洋観測に基づく研究のモチベーションは、ぼんやりと見える全体像の中からカギとなる要素を抽出できたときの喜びです。四十も半ばを過ぎて、目は翳む一方ですが、観測値から現象を読み解く目は維持したいと思います。
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