東京の住宅地における都市ガス起源のメタン排出を調査
~排出量や季節・時間変化が明らかに~

1. 概要

 本研究グループは、東京都渋谷区の住宅地において、大気中のメタンとエタン※1を同時に観測し、都市ガスに関連するメタン排出の実態を調査しました。その結果、単位面積あたりの年間メタン排出量は約8割が都市ガス起源と推定されました。また、排出量は冬季に増加し、秋から春には朝夕にピークが現れるなど、給湯や暖房などの都市ガス消費を反映した変動が確認されました。さらに、自動車による移動観測では、局所的に高濃度な地点(ホットスポット)を多数検出し、その多くが都市ガス起源であることが分かりました。本研究結果により、都市部におけるメタン排出の実態とその発生特性が明らかになり、温室効果ガス削減に向けた対策の検討に役立つと期待されます。
 本研究成果は、2026年8月29日に国際学術誌「Atmospheric Environment: X」にオンライン掲載されました。

2. ポイント

①単位面積あたりの年間メタン排出量で比べてみると、東京都渋谷区の住宅地におけるメタン排出量は、重要なメタン排出源として知られている自然湿地と同程度であり、水田からの一般的な排出量を上回った。また、住宅地におけるメタン排出の82~84%が都市ガス起源であると推定された。

②メタン排出量は冬季に増加し、朝夕にピークが現れるなど、人の活動による都市ガス消費を反映した季節・時間変化が確認された。

③移動観測によりメタンのホットスポットを94カ所検出し、その86%が都市ガス起源と分類された。

図1 東京都渋谷区の住宅地におけるメタン観測の概要。観測塔での連続観測と自動車による移動観測を組み合わせ、都市ガス起源および生物起源のメタン排出を評価した。地図に示したオレンジ色と緑色の範囲は、それぞれ冬季と夏季の観測エリアを表す。

<研究者コメント>

データが蓄積されていくと、排出量の大きさや、人々の生活リズムと連動した日内変化が鮮明に浮かび上がり、強い興味を抱きました。異常気象が身近な脅威となる中、私たちが暮らす街からのメタン排出実態を捉えた本成果が、今後の温暖化対策の一助になればうれしいです。

大木 千聡氏

3. 研究の背景

 メタンは、20年間のスケールで評価すると、二酸化炭素(CO2)の約84倍の地球温暖化作用をもつ温室効果ガスです。一方で、大気中にとどまる期間は約10年とCO2より短いため、メタン排出を減らすことで、比較的早期に温暖化を緩和する効果が現れると期待されています。
 都市では、都市ガスの供給・利用や下水、廃棄物など、さまざまな場所からメタンが排出されます。しかし、行政の排出インベントリ※2は、主に統計資料や排出係数を用いて作られており、実際に大気へ放出された量や、個々の排出源の時間変化・空間分布を直接測定したものではありません。特に、住宅や施設での都市ガス利用に関連するメタン排出は、日本の排出インベントリでは明示的な排出源として整理されておらず、その実態は十分に把握されていません。

4. 研究の内容

 本研究グループは、これまで大阪・堺において大気メタンとエタンを組み合わせた観測を進めてきました。本研究では、東京の住宅地において、同様にメタンとエタンを組み合わせた大気観測を行い、都市ガスに関連するメタン排出が、いつ、どの方向から、どの程度生じているのかを調べました。
 まず、東京都渋谷区の住宅地にある鉄塔に設置した観測機器を用いて、2024年5月から2025年12月まで、メタンとエタンの排出量を渦相関法※3と呼ばれる大気観測手法を用いて測定しました。この手法は、風の乱れとガス濃度の変化を同時に測ることで、風上側の広い範囲から大気へ放出されるガスの量を直接評価する方法です。都市ガスにはメタンとともにエタンが含まれていますが、微生物がつくるメタンにはエタンがほとんど含まれません。そこで、メタンとエタンを同時に測定し、その比を利用することで、観測されたメタンを都市ガス起源と生物起源に分けました。
 その結果、観測エリアの単位面積あたりの年間メタン排出量は、地球規模で重要なメタン排出源として知られている自然湿地と同程度であり、国内の主要なメタン排出源である水田からの一般的な排出量を上回りました。その排出量の82~84%が都市ガス起源であると推定されました。メタン排出量は冬季に増加し、秋から春には朝と夕方にピークが現れ、特に冬の夕方に大きくなりました。こうした季節・日内変化は、住宅地での給湯や暖房などに伴う都市ガス消費と整合していました。
 さらに、2023年と2025年には自動車で観測塔周辺を走行し、メタン濃度が局所的に高くなる場所を多数検出しました。検出した94カ所のうち、86%が都市ガス起源、10%が生物起源と分類されました。ホットスポットは住宅地や商業地に多く、都市ガス起源のものは飲食店や集合住宅などの近くでも確認されました。観測エリアの年間メタン排出量は、同じ渦相関法で観測した堺市中心部の約1.9倍でした。

図2 東京都渋谷区の住宅地で観測されたメタン排出量の時間変化。左は冬季の1日の変化、右は2024年5月から2025年12月までの変化を示す。メタン排出量の大部分を都市ガス起源の排出が占め、冬季には朝と夕方に排出量が増加した。空白期間は欠測。

5. 期待される効果・今後の展開

 本研究で得られた大気観測結果を行政の排出インベントリと組み合わせることで、これまで明示的に扱われてこなかった都市ガス起源の排出を把握し、削減対策の検討や対策効果の検証につながることが期待されます。一方、本研究における都市ガス起源のメタンには、ガス供給系統からの漏えいと、住宅・施設で都市ガスを使用する際に生じる排出の両方が含まれる可能性があります。今後は、より詳細な排出源を特定するため、夏季を含む連続観測、移動観測の反復、他の都市・土地利用への展開を進めることで、都市メタン排出のより正確な把握と、観測に基づく温室効果ガス削減策の評価につなげていきます。

6. 資金情報

本研究は、Environmental Defense Fund、JSPS科研費(JP24K03065)、環境研究総合推進費(JPMEERF20252003、環境再生保全機構、環境省)、国立環境研究所「気候変動・大気質研究プログラム」の支援を受けて実施しました。

7. 用語解説

※1エタン:都市ガスにメタンとともに含まれる炭化水素。生物起源のメタンにはほとんど含まれないため、メタンの排出源を見分ける手掛かりとして利用できる。東京で提供される都市ガスの組成は、メタン89.6%、エタン5.6%、その他4.8%(代表値)。

※2排出インベントリ:国や自治体などが、エネルギー使用量や廃棄物量などの統計と排出係数を用いて推計・集計した温室効果ガス排出量の一覧。

※3渦相関法:風の速さや向きの細かな変化とガス濃度の変化を同時に測り、地表面と大気の間を出入りするガスの量を直接求める観測手法。

8. 掲載誌情報

【発表雑誌】 Atmospheric Environment: X
【論文名】 Natural gas dominates CH4 emissions in a Tokyo residential area based on eddy covariance measurements of CH4 and C2H6
【著者】Chisato Oki, Masahito Ueyama, Yukio Terao, Hirofumi Sugawara, Taku Umezawa
【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.aeaoa.2026.100506(外部サイトに接続します)

9. 発表者

大阪公立大学大学院農学研究科
 大木 千聡 氏 (研究当時:大学院生)
 植山 雅仁 准教授
国立環境研究所
 寺尾 有希夫 主幹研究員
 梅澤 拓 主任研究員

10. 問合せ先

【研究に関する問合せ】
大阪公立大学大学院農学研究科
准教授 植山 雅仁(うえやま まさひと)

【報道に関する問合せ】
大阪公立大学 広報課

国立環境研究所 企画部広報対話室
kouhou0(末尾に“@nies.go.jp”をつけてください)