全国191か所の観測が捉えた森林の変化
~長期観測データにより気候変動との関連が明らかに~
1. 概要
本研究グループは、日本の森林における1950年代以降の観測データを用いて、主要な4つの森林バイオーム※1を対象に、森林の構造や森林を構成する樹種のタイプの割合が長期的にどのように変化してきたのかを分析しました。その結果、全ての森林バイオームにおいて変化が見られ、その変化は気候変動の傾向と関連していることが分かりました。本研究結果により、暖かい気候を好む樹種が増加し、寒い気候を好む樹種が減少するという現象が生じていることが示唆されました。
本研究成果は、2026年8月20日に国際学術誌「Forest Ecosystems」にオンライン掲載されました。
2. ポイント
①日本国内191調査区の森林における1950年代以降の観測データを集約し、それぞれの調査区での胸高断面積合計※2(以下、TBA)の年変化率を算出。
②北方針葉樹林・落葉広葉樹林・温帯針葉樹林・常緑広葉樹林の4つの森林バイオームに分け(図1)、それぞれの森林のTBAの年変化率や、機能タイプ※3ごとのTBAの優占度の年変化率を算出。
③全ての森林バイオームにおいて、森林の構造および機能タイプの割合の変化が認められ、構造変化は気候変動の傾向と関連していることが分かった。

左より、北方針葉樹林・落葉広葉樹林・温帯針葉樹林・常緑広葉樹林
3. 研究の背景

その森林バイオームのタイプ
●は老齢林※5、▲は二次林※6
昨今、猛暑・乾燥化・豪雨など、全世界で気候変動の影響が確認されています。森林は二酸化炭素の吸収源であり、気候変動に影響を与える一方、気候変動の影響を受けて変化しつつあり、今後もさらに大きく変化すると予想されます。しかし、森林が受ける影響は森林バイオームごとに異なると考えられ、また、森林は病虫害・獣害などの撹乱によっても変化するため、気候変動からのみの影響を検出することは容易ではありません。南北に長い日本列島には、緯度や標高に応じて複数の森林バイオームが成立しており、それぞれにおける森林の変化のあり方と、それをもたらす要因を明らかにするには適した地域です。しかし、日本では、森林の長期モニタリングが各地で行われてきたにもかかわらず、単一調査区における長期変化を調べた研究が多く、また、複数調査区を対象とした研究は比較的短期間の調査に限られていました。そのため、全国的な森林の長期変化を包括的に評価し、その駆動要因を解明する研究はありませんでした。
4. 研究の内容
本研究では、日本国内で長期モニタリングが行われてきた森林調査区のデータを活用することで、森林の長期変化とその駆動要因の解明に取り組みました。まず、環境省モニタリングサイト1000、森林総合研究所・大学演習林、日本長期生態学研究ネットワーク(JaLTER)サイト、さらに研究者らによる長期モニタリングデータなど、長期にわたり毎木調査※4が行われてきた森林191調査区の観測データを集約しました(図2)。調査区における調査期間の平均は16.8年、調査の開始時期は最も早いもので1950年代、終了時期は最も遅いもので2020年です。これらのデータから、それぞれの調査区でのTBAの年変化率を算出しました。また、調査区内の樹種を北方針葉樹・落葉広葉樹・温帯針葉樹・常緑広葉樹の4つの機能タイプに分けて、それぞれのTBAの年変化率や、TBAの優占度の年変化率を算出しました。そして、このように得られた各調査区の森林の変化について、その地域の気温・降水量などの年変化速度や、病虫害・獣害などの撹乱要因との関係を分析しました。

(A) 平均気温の年変化速度と森林のTBAの年変化率との関係
(B) 年降水量の年変化速度と森林のTBAの年変化率との関係
老齢林のデータを解析した結果、その一部でTBAが減少傾向にあることが分かりました。TBAの年変化率は、その地域の年平均気温や年降水量の変化速度との関連が大きく、年平均気温が高くなっている地域でTBAが増加する傾向があり、年降水量が多くなっている地域でTBAが減少する傾向が検出されました(図3)。TBAの変化率と年降水量の変化速度との間に負の関連が見られた原因の一つとして、台風などによる撹乱の可能性が示唆されました。機能タイプ別では、北方針葉樹が優占度を減らし、落葉広葉樹が優占度を増やしていることが確認され(図4)、この傾向は寒冷地域に成立する北方針葉樹林のバイオームで顕著でした。本研究結果は、寒冷地の老齢林の主要樹種が北方針葉樹から落葉広葉樹に置き換わりつつあることを示しています。

(B)は、値がゼロを上回るほど、森林中でその機能タイプの割合が増えていることを表し、値がゼロを下回るほど、割合が減っていることを表している。
*印はタイプ間に有意差があることを示す。 *** P < 0.001、 ** 0.001 ≤ P < 0.01
5. 期待される効果・今後の展開

図5 機能タイプの組成に大きな変化が生じている北方針葉樹林
(写真:北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター)
気候の温暖化にともない、森林群集では暖かい気候を好む種が増加し、寒い気候を好む種が減少する好熱化※7と呼ばれる現象が生じることが予想されています。本研究結果は、おおむねこの現象を支持しており、また、台風撹乱など別の要因の重要性も示唆しています。日本の森林では複数の要因によって駆動される、複雑な変化が生じていることが分かりました。
本研究結果は、2020年までの日本の森林の変化を捉えたものですが、気候変動の影響は今後ますます顕在化してくると考えられます。気温上昇や台風撹乱の変化が森林にどのような変化をもたらすのか、さらに別の撹乱要因による影響が加わった場合にどのような変化が生じ、私たちの暮らしにどう影響するのか注視する必要があります。このような変化を検出するためにも、これまでも観測が行われてきた森林調査区は不可欠であり、将来の森林生態系を予測するための貴重なインフラとしての重要性がさらに高まると考えられます。
6. 資金情報
本研究は、国立環境研究所、宇宙航空研究開発機構・スターダストプログラム、日本学術振興会・科学研究費助成事業(JP21H05316)、環境省・環境研究総合推進費(JPMEERF20252M02)の支援を受けて実施しました。
7. 用語解説
※1バイオーム:生育する植物の生活史や密度などに基づいた、生態系の大規模な区分。
※2胸高断面積合計:Total Basal Area (TBA)のこと。調査区内の全ての樹木個体について幹の胸高断面積を合計した値。幹の胸高断面積は、胸高直径から算出する。森林の発達の程度の指標であり、その変化は森林の成長・衰退を判断する材料となる。
※3機能タイプ:生活史や落葉性/常緑性、分類群などによって分けられる植物のグループ。気候帯が異なると、森林内の機能タイプの組成が変化する。
※4毎木調査:森林内に一定面積の調査区を設けて、その中に生えている全ての樹木個体を識別し胸高直径(通常は地上高130cmでの幹直径)などを計測する調査。継続的に行うことで樹木個体の生存、死亡、成長、加入を把握し、森林全体の変化を捉えることができる。
※5老齢林:成立してから長い時間が経過した、成熟した森林。本研究では調査開始前150年以上にわたり、伐採などの大きな撹乱を受けていない森林として定義している。
※6二次林:成立からの年月が浅い、若い森林。本研究では調査開始前150年以内に大きな撹乱があった森林として定義している。
※7好熱化:ある生物群集の中で、暖かい気候を好む種が増加し、寒い気候を好む種が減少する現象。温暖化の進行に従って進行すると予想されている。
8. 掲載誌情報
9. 発表者
大阪公立大学
吉川 徹朗 准教授
竹内 やよい 教授
国立環境研究所
角谷 拓 生物多様性領域室長
九州大学
榎木 勉 准教授
秋田県立大学
星崎 和彦 教授
信州大学
小林 元 准教授
高橋 耕一 教授
森林総合研究所
浅野(中静) 透 前理事長
野口 麻穂子 グループ長
小黒 芳生 主任研究員
佐藤 保 企画部長
山川 博美 主任研究員
北海道大学
鈴木 智之 准教授
中村 誠宏 教授
東京農工大学
吉田 智弘 准教授
京都大学
石原 正恵 准教授
舘野 隆之輔 教授
東京大学
日浦 勉 教授
10. 問合せ先
【研究に関する問合せ】
大阪公立大学大学院理学研究科
准教授 吉川 徹朗(よしかわ てつろう)
【報道に関する問合せ】
大阪公立大学 広報課
国立環境研究所 企画部広報対話室
kouhou0(末尾に“@nies.go.jp”をつけてください)
九州大学 広報課
koho(末尾に“@jimu.kyushu-u.ac.jp”をつけてください)
秋田県立大学 広報
koho_akita(末尾に“@akita-pu.ac.jp”をつけてください)
信州大学 総務部総務課広報室
shinhp(末尾に“@shinshu-u.ac.jp”をつけてください)
森林総合研究所
担当:企画部広報普及科広報係
kouho(末尾に“@ffpri.go.jp”をつけてください)
北海道大学 社会共創部広報課
jp-press(末尾に“@general.hokudai.ac.jp”をつけてください)
東京農工大学 総務課広報室
koho2(末尾に“@cc.tuat.ac.jp”をつけてください)
京都大学広報室国際広報班
comms(末尾に“@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp”をつけてください)


<研究者コメント>
気候変動が森林に与える影響は評価が難しいものですが、各地の研究者が長年かけて蓄積した貴重な調査データを活用することで、ここ数十年の日本の森林の変化における気候変動の影響が明らかになりました。これらの結果を踏まえて、森林のこれからのあり方に注視する必要があります。