身近な自然環境と子どものアレルギーとの関連:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)追加調査について

 国立環境研究所エコチル調査コアセンターの蒋宏偉主任研究員、ジンワイティ特別研究員、関山牧子室長らの研究チームは、エコチル調査の東京圏在住の10,846人のデータを用いて、4歳時点の居住地周辺の緑地量とアレルギー疾患の関連を解析しました。その結果、周囲の緑地が多い環境ほど、ぜん息がみられやすい一方で、アトピー性皮膚炎はみられにくいという、疾患によって異なる方向性の関連が認められました。この結果は、居住地域の範囲や感度分析(※1)の条件を変えても一貫して認められました。緑地量とアトピー性皮膚炎との間に観察された負の関係は、環境中の多様な微生物にばく露されることが、アレルギー反応を抑える免疫のはたらきを高めるとする生物多様性仮説(※2)と整合的な結果でした。一方で、緑地量とぜん息との正の関連については、緑地の質や植生の違い、大気環境などを考慮したさらなる検討が必要と考えられます。
本研究の成果は、令和8年5月8日付でElsevierから刊行された環境疫学分野の学術誌『International Journal of Hygiene and Environmental Health』に掲載されました(修正版掲載:令和8年6月12日)。
※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
本研究に関する補足説明資料を作成しました。以下の国立環境研究所HPも併せて確認ください。
URL:https://www.nies.go.jp/pr/news-and-updates/2026/whatsnew20260706Q&A.pdf

1. 発表のポイント

  • 本研究は、エコチル調査の追加調査として実施され、3歳時点及び4歳時点のいずれも東京圏に居住していた参加者10,846人を対象として、4歳時点での居住地周辺の緑地量とアレルギー疾患の関連を解析しました。
  • その結果、周囲の緑地が多い環境ほど、ぜん息はみられやすい一方で、アトピー性皮膚炎はみられにくいという、疾患によって異なる方向の関連が認められました。
  • この結果は、居住地域の範囲や感度分析の条件を変えても一貫して認められました。
  • 本研究は、都市の緑地環境と健康の関連が単純ではないことを示唆しています。

2. 研究の背景

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしています。
 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
 世界的な都市化の進展に伴い、生物多様性に富んだ環境へのばく露(※3)が健康に及ぼす影響への関心が高まっています。既往研究において、居住地周辺の緑地環境は身体的・精神的健康と良好な関連をもつことが報告されています。一方で、緑地環境とアレルギー疾患との関係については結果が一貫しておらず、疾患ごとの違いも十分に解明されていません。日本は地形や気候帯が多様で、国土の3分の2が森林に覆われた緑の豊かな国ですが、これまで、日本において緑地環境と子どものアレルギーの関連性を検証した研究はほとんどありませんでした。そこで本研究では、エコチル調査のデータを用いて、4歳時点の居住地周辺の緑地量とアレルギー疾患の関連を明らかにすることを目的としました。

3. 研究内容と成果

 エコチル調査参加者で、3歳時点及び4歳時点のいずれも東京圏に居住し、かつ神奈川または千葉ユニットセンターに所属している参加者10,846人を対象に解析しました。居住地周辺の緑地量は、衛星データに基づく指標であるNDVI(normalised difference vegetation index、正規化植生指数)(※4)により評価しました。なお、緑地量を評価する範囲は、居住地を中心として半径300m、500m、800mの3通りを用い、いずれの範囲でも結果が一貫しているかを確認しました。子どものアレルギー疾患は、質問票で保護者が回答したアレルギー疾患(ぜん息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなど)の既往とISAAC(International Study of Asthma and Allergies in Childhood)質問票への回答により評価しました。NDVIとアレルギー疾患との関連を検討するために、多変量ロジスティック回帰分析(※5)を用い、社会経済要因や子どもの属性などを調整の上、それぞれの疾患についてオッズ比(OR)(※6)および95%信頼区間(CI)(※7)を推定しました。
 その結果、NDVIが高いほどぜん息の有病率は高い傾向が示されました(医師による診断:調整オッズ比[95%信頼区間]1.12[1.05–1.18]、ISAACによる報告:1.11[1.05–1.18])。一方、アトピー性皮膚炎の有病率は低い傾向が示されました(対応するオッズ比はそれぞれ0.93[0.87–1.00]および0.93[0.88–0.99])。これらの結果は、疾患によって異なる方向性の関連を示しています。食物アレルギーやアレルギー性鼻炎については、NDVIとの明確な関連は認められませんでした。

4. 今後の展開

 緑地量とアトピー性皮膚炎との間に観察された負の関係は、環境中の多様な微生物へのばく露が、アレルギー反応を抑える免疫のはたらきを高めるとする生物多様性仮説と整合的な結果でした。一方で、緑地量とぜん息との正の関連については、花粉などのアレルゲンばく露の増加や大気質との相互作用などが関与する可能性があります。本研究では、緑地の質や植生の違い、大気環境などを評価できておらず、今後はそれらを考慮したさらなる検討が必要と考えられます。また、今回は、ある一時点のデータから関連を調べた研究(横断研究)であるため、因果の方向性は明確ではなく、本研究で観察された関連は、居住環境が健康に影響を与えた結果だけでなく、子どもの健康状態が居住環境の選択に影響した可能性(因果の逆転)にも留意が必要です。

5. 参考図

図1:参加者の地理的分布

地図中の赤から緑への色分けは、NDVI値-0.5~0.90の範囲を示しています。図aおよび図bの円グラフは、青色の部分が医師診断(保護者報告)およびISAACにおけるぜん息への肯定的回答を示しています。図cおよび図dの円グラフは、青色の部分が医師診断(保護者報告)およびISAACにおけるアトピー性皮膚炎への肯定的回答を示しています。なお、円グラフの大きさは各地域の参加者数を示しています。

図2:NDVIとアレルギーの関係

多変量ロジスティック回帰分析の結果、NDVIが高いほどぜん息の有病率は高くなる傾向が示されました(医師による診断:調整オッズ比[95%信頼区間]1.12[1.05–1.18]、ISAACによる報告:1.11[1.05–1.18])。一方、アトピー性皮膚炎の有病率は低下する傾向が示されました(対応するオッズ比はそれぞれ0.93[0.87–1.00]および0.93[0.88–0.99])。

6. 補足

本研究は、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20241006)の支援を受けて実施されました。

7. 用語解説

(※1)感度分析
解析条件や前提(解析方法、モデル設定など)を変更した場合に、結果がどの程度変化するかを確認する手法です。結果が異なる条件でも一貫して得られる場合、その結果の頑健性(信頼性の高さ)が支持されると解釈されます。
(※2)生物多様性仮説
自然環境における微生物の多様性の減少が、ヒトの体内外の微生物環境(マイクロバイオーム)に影響を与え、免疫機能の調節異常を引き起こすことで、アレルギーや慢性炎症性疾患のリスクを高めるとする考え方です。多様な自然環境へのばく露は免疫寛容の形成を促し、アレルギー疾患の低減に寄与する可能性があるとされています。
(※3)ばく露
食べたり、吸い込んだり、触ったり、あるものにさらされることを指します。
(※4)正規化植生指数(NDVI)
衛星データを用いて地表の植生の量や活性度を数値化した指標です。値は−1から+1の範囲を取り、値が高いほど植生が豊かで緑地が多い環境を示します。
(※5)多変量ロジスティック回帰分析
複数の要因(性別、生活環境など)の影響を同時に考慮しながら、特定の事象(例:疾病の有無)がどの程度起こりやすいかを検討する統計手法です。
(※6)オッズ比(OR)
ある要因がある場合に対し、その要因がない場合と比べて、特定の事象(例:疾病)がどの程度起こりやすいかを示す指標です。1を超えるとより起こりやすい、1を下回るとより起こりにくいことを示します。
(※7)95%信頼区間
分析によって得られた結果の推定値が、真の値を95%の確率で含むと考えられる範囲を示す指標です。この範囲が狭いほど結果の精度が高く、広いほど不確実性が大きいことを意味します。

8. 論文情報

題名(英語):Normalised difference vegetation index and allergies among four-year-old children living in the greater Tokyo area, Japan: Findings from an Adjunct Study of the Japan Environment and Children's study

著者名(英語):Hongwei Jiang1, Zin Wai Htay1, Makiko Sekiyama1, Keiichi Kimura2, Kazuaki Tsuchiya2, Yayoi Kobayashi1, Daisuke Harama3, Miori Sato3, Shoji F Nakayama1, Shin Yamazaki1

1蒋宏偉、ジンワイティ、関山牧子、小林弥生、中山祥嗣、山崎新:国立環境研究所エコチル調査コアセンター
2木村圭一、土屋一彬:国立環境研究所社会システム領域
3原間大輔、佐藤未織: 国立成育医療研究センター エコチル調査研究部エコチル調査メディカルサポートセンター

掲載誌:International Journal of Hygiene and Environmental Health
DOI:10.1016/j.ijheh.2026.114846

9. 発表者

国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
主任研究員
蒋宏偉
特別研究員
ZIN Wai Htay
室長
関山牧子
主幹研究員
小林弥生
次長
中山祥嗣
センター長
山崎新
社会システム領域
特別研究員
木村圭一(当時)
主任研究員
土屋一彬

10. 問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所
環境リスク・健康領域 環境疫学研究室
室長 関山牧子

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所
企画部広報対話室
kouhou0(末尾に@nies.go.jp をつけてください)