1. 研究代表者
2. 研究の背景
北ユーラシア(ロシアを中心とし、一部の旧ソ連諸国を含む地域)の大部分は北方林で覆われており、世界の森林の約20%を有する森林地域です。それらの森林は、大気中の二酸化炭素を吸収することで気候変動の緩和に重要な役割を果たしています(図1)。そのため、この地域の炭素吸収源が将来どのように変化するかは、地球規模の炭素収支や気候変動予測に大きな影響を及ぼします。しかし、広大でアクセスが困難な地域であることから、観測網は限られており、炭素吸収源の実態把握はなされていませんでした。また、この地域では地球平均を上回る速度で温暖化が進み、森林火災や土地利用変化の影響も大きいことから、炭素吸収量の変化を推定するうえで、大きな不確実性が残されていました。
3. 研究内容と成果
本研究では、北ユーラシアの炭素吸収源の実態を明らかにするため、人工衛星観測にもとづく機械学習や陸域生態系・地球システムモデルなどの独立したアプローチを統合して解析を行いました注1)。その結果、推定には手法によるばらつきがあるものの、北ユーラシアの生態系は2001年から2015年にかけて、年間約4.7±2.0億トンの炭素を吸収し、世界の陸域炭素吸収源の約3分の1を担うことが確認されました。
寒冷な地域では、植物の生育期間が短く、低温の制約を受けるため、温暖な地域よりも植物による炭素吸収は小さくなります。このため、温暖化が進行すれば、炭素吸収が大きくなることが期待されます。実際に、北ユーラシアでは過去数十年間に地球平均を上回る速度で気温が上昇しており、特に北東部で顕著な温暖化が観測されています。
しかし、本研究により、北ユーラシア北東部のような急速に温暖化している地域であっても、炭素吸収量の増加は限定的であることが示されました。また、炭素吸収量は地域内で一様ではなく、北東部では小さく、西部および南部で大きいことが明らかとなりました(図2)。
これらの結果は「温暖化が進めば炭素吸収も一様に増加する」という単純な関係は成り立たないことを示すものです。その理由として、北ユーラシアでは、温暖化による気温上昇が顕著なのは冬季ですが、土壌は凍結したままであり、植物の生育による炭素吸収量の増加が生じにくいことが考えられます。そして、炭素吸収量を左右する要因として、元々の森林の生産性が重要です。北東部では樹齢の高い森林が多いために生産性が低く、森林火災などのかく乱も受けやすいことから、温暖化が進んでも炭素吸収量が大きくなりにくいのです。一方で、西部や南部の森林が若く生産性が高いため、炭素吸収量も大きくなります(図2)。
本研究により、北ユーラシアの炭素吸収源の空間分布とその形成要因が明らかになり、将来の全球炭素循環予測の高度化に向けた重要な知見が得られました。
4. 今後の展開
本研究では、複数の独立した情報を統合することで、世界の陸域炭素吸収の3分の1を担う北ユーラシアの炭素吸収源を包括的に評価しました。この手法は他地域にも適用可能であり、地域ごとの炭素吸収源の特徴や将来変化の理解向上に役立つことが期待されます。また、本研究で得られた知見は、地球規模の炭素循環予測の精度向上や、気候変動が森林生態系に及ぼす影響の評価に貢献すると考えられます。
5. 参考図

図1. 北ユーラシア南部のエルブルス山周辺に広がる森林景観。提供:Andrey Kurochkin

図2.複数の独立したアプローチによる北ユーラシアの2001-2015年の炭素吸収量 (gC m-2 年-1)の平均値。
6. 用語解説
注1)本研究では以下の四つの独立したアプローチを統合して解析した。
FLUXCOM:機械学習を用いて、人工衛星観測や気象データから陸域の炭素吸収量を推定したデータセット。
RENDY:複数の陸域生態系モデルによる炭素循環シミュレーション。
CMIP6:地球システムモデルによる気候・炭素循環シミュレーション。
大気逆解析:大気中のCO₂観測から炭素吸収量を推定したデータ。
7. 研究資金
本研究は、文部科学省「気候変動予測先端研究プログラム」(JPMXD0722681344)、JSPS科研費(JP24K20979)および欧州連合(EU)の研究・イノベーションプログラム Horizon Europe(EYE-CLIMA grant no. 101081395)の支援を受けて行われました。
8. 掲載論文
【題名】Land Carbon Sink Distribution in Northern Eurasia is Driven by Climate Change.
(気候変動が左右する北ユーラシアの陸域炭素吸収源分布)
【著者名】I. Melnikova, T. Yokohata, D. Schepaschenko, S. Sitch and S. Maksyutov
【掲載誌】Global Biogeochemical Cycles
【掲載日】2026年6月26日
【DOI】10.1029/2025GB008971 (外部サイトに接続します)
9. 問合せ先
【研究に関する問合せ】
MELNIKOVA Irina(メルニコワ イリーナ)
筑波大学生命環境系 助教
E-mail: irina.melnikova.fn(末尾に“@u.tsukuba.ac.jp”をつけてください)
URL: https://trios.tsukuba.ac.jp/researcher/0000005241 (外部サイトに接続します)
【報道に関する問合せ】
筑波大学広報局
E-mail: kohositu@un.tsukuba.ac.jp
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報対話室
E-mail:kouhou0(末尾に“@nies.go.jp”をつけてください)
