日本に飛来する冬の渡り鳥の糞便から多様な薬剤耐性遺伝子を検出
—渡り鳥による長距離拡散の可能性と監視の重要性を示唆—

国立環境研究所 生物多様性領域の鍋島圭研究員と大沼学副領域長(以下「当研究チーム」という。)は、2021–2022年および2022–2023年の冬季に全国12地域で採取された渡り鳥の糞便2,400検体について、由来鳥種と薬剤耐性遺伝子(以下「ARG」という。)を網羅的に解析しました。鳥類DNAの解析から糞便の主な由来鳥種はカモ類と推定され、渡り鳥の糞便からは多様なARGが検出されました。
家畜で広く使われる抗菌薬に関連するARGに加え、国内の畜産では使用されない、または用途が限定される抗菌薬に関連するARGも広い地域で検出されました。
これらの結果は、渡り鳥が環境中でARGを持つ細菌を取り込み、渡りに伴って長距離に運ぶ可能性を示唆します。ただし、耐性菌の生存や感染リスク、ARGの国外由来を直接証明するものではありません。
本研究の成果は、2026年6月17日付でBMCが刊行する学術誌『One Health Outlook』に掲載されました。

1. 研究の背景と目的

 抗菌薬が効きにくくなる薬剤耐性(AMR)注釈1は、人、家畜、野生動物、環境の間を循環し得る世界的な課題です。医療や畜産分野では、耐性菌の監視と抗菌薬の適正使用が進められていますが、野生動物における監視は十分ではありません。
 渡り鳥、とりわけカモ類などの水鳥は、国境を越えて長距離を移動し、多数の個体が中継地や越冬地である湖沼や干潟、湿地などに立ち寄ります。この際に、水環境などを介して環境中の薬剤耐性遺伝子(ARG)注釈2を持つ細菌などを取り込み、移動に伴って別の地域へ運ぶ可能性が指摘されてきました。一方、従来の野鳥を対象とした研究では、特定の細菌を培養して調べる方法や、限られたARGのみを検出する方法が中心で、日本全国に飛来する渡り鳥を対象に多種のARGを網羅的に調べた研究は限られていました。
 そこで当研究チームは、環境省の高病原性鳥インフルエンザウイルス保有状況調査の一環で、国立環境研究所が2021年から2023年の冬季に全国から受け入れ、その後凍結保存していた糞便試料を活用し、①試料を排泄した可能性が高い鳥類の推定、②多種のARGの検出、③国内での抗菌薬使用状況と照らした分布の評価を行いました。これらの解析により、野生動物と環境を含むAMR監視の基礎情報を得ることを目的としました。

2. 研究手法

全国12地域・2シーズンの糞便試料を解析

2021–2022年および2022–2023年の冬季に、北海道、秋田県、宮城県、埼玉県、滋賀県、和歌山県、鳥取県、広島県、徳島県、長崎県、鹿児島県、沖縄県の渡り鳥生息地で採取された渡り鳥の糞便を用いました。各地域・各シーズンごとに100検体、合計2,400検体を解析対象とし、同じ地域・シーズンの試料を等量ずつ混合して1つのプール試料注釈3としました。解析したプールは合計24個です。

鳥類DNAと薬剤耐性遺伝子の解析

まず、糞便中の鳥類DNAをDNAメタバーコーディング注釈4で解析し、各プールの由来鳥種を推定しました。得られたDNA配列を鳥類のミトコンドリアゲノム情報と照合し、同時期・同地域の渡り鳥飛来状況とも比較しました。
次に、既知のARGを効率よく捕捉するQIAseq xHYB AMRパネル(QIAGEN社)を用いたターゲット濃縮シーケンス注釈5を行い、合計約7億400万リード注釈6を解析しました。各ARG標的配列に10リード以上が割り当てられた場合を「検出」と定義し、WHOの重要抗菌薬リストおよび国内の動物用抗菌薬販売情報を参照して、抗菌薬の区分ごとに結果を整理しました。

3. 研究結果と考察

主な由来鳥種はカモ類と推定

 鳥類DNAの解析では、24プールから合計12の分類群の鳥類が検出されました。マガモ、オナガガモ、コガモ、ヒドリガモなどのカモ類が多く、北海道ではコハクチョウも検出されました。検出された鳥類は、同じ地域・シーズンに実施された渡り鳥飛来状況調査でも確認されており、試料が主として冬の渡り鳥に由来することを確認しました。

渡り鳥の糞便全24プールから多様なARGを検出

 ARGは全24プールから検出されました。1プール当たりの検出数は、2021–2022年シーズンで173~638種類、2022–2023年シーズンで137~676種類と多様なARGが検出されました。セファロスポリン系、マクロライド系、テトラサイクリン系、ペニシリン系、サルファ剤/トリメトプリム、コリスチン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、リファンピシンなど、家畜生産でもヒトの医療でも使用される抗菌薬に関連するARGが全国的に認められました。ヒトの医療で特に重要視されている抗結核薬であるイソニアジド関連ARGは23プール、広域スペクトルの抗生物質であるゲンタマイシン関連ARGは20プールで検出されました。さらに、国内の畜産では通常使用されない、重症感染症の際に用いられるメロペネムおよびチゲサイクリンに関連するARGも、それぞれ11プールおよび9プールから検出されました。

渡り鳥による長距離移動の可能性

 国内の畜産で広く使われる薬剤に関連するARGが全国で検出されたことは、畜産、生活排水、水環境などから環境中へ広がったARGを持つ細菌などを渡り鳥が取り込んだ可能性と整合します。また、国内の家畜では使用されない、または用途が限定される抗菌薬に関連するARGが検出されたことから、一部は国外の生息地や中継地で取り込まれ、日本へ運ばれた可能性も考えられます。ただし、国内の水環境や人為活動に由来した可能性もあり、本研究だけで取得場所を特定することはできません。

解釈上の重要な注意点

 本研究で検出したARGは、DNA配列としてのARGであり、①その遺伝子を持つ細菌が生きているか、②実際に抗菌薬に耐性を示すか、③どの細菌種や可動性遺伝因子がARGを保持しているか、④人や家畜への感染リスクがあるか、を直接示すものではありません。また、複数個体の糞便を混合しているため、個体ごとの保有率やARG量は評価できません。ターゲット濃縮法は既知の標的を高感度に検出できる一方、パネルに含まれない未知のARGは検出できません。

4. 今後の展望

今後は、糞便から細菌を分離して抗菌薬感受性を確認するとともに、メタゲノム解析や長鎖DNA解析によってARGと宿主細菌、プラスミドなどの可動性遺伝因子との結び付きを明らかにする必要があります。さらに、定量PCRなどを用いてARG量を測定し、渡り鳥や年間を通して同じ地域に生息する留鳥の糞便、河川・湖沼の水や底質、畜産環境、下水処理水を同じ地域・時期に比較することで、ARGがどこから入り、どの経路で移動するかを検証することができます。
渡り鳥は国境を越えて移動するため、国内だけでなく、繁殖地、中継地、越冬地を結ぶ国際的な監視が重要です。本研究で用いた鳥インフルエンザ監視のための糞便試料とターゲット濃縮シーケンスの組合せは、野生動物と環境を含むOne Health注釈7型のAMR監視を効率的に進める手法として活用できる可能性があります。

5. 注釈

注釈1:薬剤耐性(AMR)
細菌などが抗菌薬の作用を受けにくくなる性質です。AMRはAntimicrobial Resistanceの略です。

注釈2:薬剤耐性遺伝子(ARG)
細菌に薬剤耐性を付与する機能を持つ遺伝子です。ARGはAntimicrobial Resistance Geneの略です。遺伝子が検出されても、その細菌が生きていることや実際に耐性を示すことが直ちに証明されるわけではありません。

注釈3:プール試料
複数の個別試料を一定量ずつ混合した試料です。本研究では、地域・シーズンごとに100検体の糞便懸濁液を混合しました。

注釈4:DNAメタバーコーディング
試料中の生物由来DNAの特定領域を一括して増幅・解読し、DNA配列データベースと照合して生物分類群を推定する方法です。

注釈5:ターゲット濃縮シーケンス
目的の遺伝子配列に結合するプローブを用いて標的DNAを濃縮した後、次世代シーケンサーで読み取る方法です。複雑な環境試料から多種類の既知ARGを高感度に検出できます。

注釈6:リード
シーケンサーが実際に読んだDNA/RNA配列の断片です。今回の研究では合計で7億400万リードという解析に充分な量のデータを用いて解析を行っています。

注釈7:One Health
人、動物、生態系の健康が相互に関係していることを踏まえ、分野横断で健康課題に取り組む考え方です。

6. 発表論文

【タイトル】
 Winter migratory birds may carry diverse antimicrobial resistance genes into Japan
【著者】
 Kei Nabeshima, Manabu Onuma
【掲載誌】One Health Outlook
【URL】https://link.springer.com/article/10.1186/s42522-026-00223-6(外部サイトに接続します)

7. 発表者

国立環境研究所
生物多様性領域 生物多様性資源活用研究推進室
研究員
鍋島 圭
生物多様性領域
副領域長(生物多様性資源活用研究推進室長兼務)
大沼 学

8. 問合せ先

【研究に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 生物多様性領域
生物多様性資源活用研究推進室 研究員 鍋島 圭

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報対話室
kouhou0(末尾に“@nies.go.jp”をつけてください)