全国的な環境DNA調査によりブラックバスの分布拡大過程を推定
—種ごとに異なる拡大様式と人為影響を示唆—
本研究成果のポイント
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日本全国の河川・湖沼における環境DNA調査により、オオクチバス、フロリダバス、コクチバスの広域分布状況を把握するとともに、分布拡大過程を推定した。
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遺伝的なタイプ(ハプロタイプ)を網羅的に検出する方法により、種ごとに異なる拡大様式を推定。オオクチバスでは近距離の移植あるいは自然分散の影響が大きい一方、フロリダバスでは導入地から遠く離れた琵琶湖への積極的な移植が示唆された。
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近年の急激な分布拡大が注視されるコクチバスの侵入前線は、最新の行政調査と一致。環境DNA調査の高い精度が確認された。
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環境DNAを用いたハプロタイプ解析が、外来種の分布状況とともに、分布拡散経路や人為影響の把握に有用であることを実証。迅速な監視法として様々な外来種への応用が期待される。
概要
大阪大谷大学の内井喜美子准教授および脇村圭助教、ならびに国立環境研究所 松崎慎一郎室長、長野県諏訪湖環境研究センター 北野聡部長、筑波大学 津田吉晃准教授、水産研究・教育機構 坪井潤一主任研究員、愛媛大学 畑啓生教授、松山大学 槻木玲美教授、北海道大学 荒木仁志教授らからなる研究チームは、日本に定着したブラックバス3種の遺伝的なタイプ(ハプロタイプ※1)を網羅的に検出する分析手法を開発し、東北地方から中国・四国地方にわたる31都府県の湖沼・河川で、水に含まれる生物由来のDNAを検出・解析する環境DNA調査※2を実施しました。
その結果、調査した121地点中87地点で少なくとも1種のブラックバスのDNAが検出され、得られたハプロタイプの分布情報から、種ごとに異なる分布拡大様式が推定されました。導入時期が最も古いオオクチバスでは、地理的距離に応じて遺伝的差異が増加する傾向が見られ、近距離の移植あるいは自然分散により分布を拡大したことが示唆されました。一方、遅れて日本に導入されたフロリダバスではこのような傾向は見られず、導入地から遠く離れた琵琶湖への大規模あるいは繰り返しの移植が行われた可能性が示唆されました。1990年代に定着が確認され、近年の急激な分布拡大が懸念されるコクチバスは、東北地方から近畿地方の広い範囲で検出され、これは最新の行政調査で報告されている分布の最前線と一致しました。
現在も続くブラックバス類の分布拡大には、自然分散だけでなく、ゲームフィッシュとしての人気を背景とした違法な密放流が大きく関与していると考えられ、その社会的抑止の強化が求められます。本研究により、環境DNAを用いたハプロタイプ解析が、ブラックバス類の分布状況の把握に加え、分布拡大過程や人為影響の推定にも有効であることが示されました。迅速かつ広域的な監視を可能とする本手法は、ブラックバス類に限らず様々な外来種への応用が可能です。将来的な外来種の拡散防止や管理対策の高度化への貢献が期待されます。
背景
ブラックバス類は北米原産の淡水魚で、食用魚あるいは釣魚として世界各地に導入されています。ゲームフィッシングにおいて人気を博す一方、捕食や競争を通じて在来生物群集に深刻な影響を与えることが知られています。日本には、1925年と1972年に米国から芦ノ湖(神奈川県足柄下郡)に導入され、各地に移植されたオオクチバス(Micropterus nigricans; 図1左)をはじめ、1988年に米国から池原貯水池(奈良県吉野郡)に導入されたフロリダバス(M. salmoides)と、導入経緯は不明ながら1990年頃に長野県と福島県で初確認されたコクチバス(M. dolomieu; 図1右)の3種が定着しています。これら3種はいずれも深刻な生態系影響や漁業被害を引き起こしており、現在も分布を拡大し続けていることから、効果的な防除策が求められています。
外来種の拡散抑制には、侵入前線での駆除による分布拡大の阻止や、将来予測される拡散経路の遮断が重要と考えられます。そのためには、広域における最新の分布状況の把握に加え、移入源や拡散経路の特定が不可欠です。しかし、捕獲や聞き取りによる調査は多大なコストを要するため、広域での実施は容易ではありません。そこで研究チームは、環境水に含まれるDNAを分析する手法(環境DNA分析)を利用した迅速モニタリング法に着目しました。ブラックバス3種のハプロタイプを同時検出する手法を開発し、全国的な環境DNA調査を実施することにより、これら3種の最新の分布状況を明らかにすると同時に、各種の遺伝的構造に基づいて分布拡大様式や人為移植の影響を検証しました。

図1. オオクチバス(左)とコクチバス(右)。オオクチバスに比べ、コクチバスは流水環境や低水温への適応性が高いと言われている。またフロリダバス(写真なし)はオオクチバスに似るが、より大型化することが知られる。(撮影:内井喜美子)
研究手法・成果
まず、ブラックバス3種のミトコンドリアDNA※3のコントロール領域※4をPCRにより増幅し、超並列シーケンサー※5を用いてDNA塩基配列を網羅的に解読することにより、3種のハプロタイプを同時に検出する方法を開発しました。2021年から2023年にかけ、東北地方から中国・四国地方にわたる31都府県の湖沼・河川において環境DNA調査を実施し、ハプロタイプ解析を行いました。そして、ハプロタイプ組成をもとに、地点間の遺伝的分化(遺伝的な違いの程度)を種ごとに評価し(注1)、地理的距離との関係を解析しました。
調査を行った121地点のうち、87地点において、少なくとも1種のブラックバスのDNAが検出されました(図2)。ハプロタイプ解析の結果、オオクチバスでは集団間の地理的距離が離れるほど遺伝的分化が大きくなる傾向が統計的に示され、近距離での移植または自然分散が本種の分布拡大に寄与したことが示唆されました(図3を参照)。一方、四国ではハプロタイプの多様性が高く、近距離でも遺伝的分化が大きい傾向が見られました。四国への移植は1972年以降と本州に比べて新しいものの、複数の地域からの移植が積極的に行われた結果と考えられました。
フロリダバスでは、オオクチバスで見られたような地理的効果は検出されませんでした。本種が導入された池原貯水池では9つのハプロタイプが検出されましたが、そこから比較的近い地点を含め、13地点中10地点で1つのハプロタイプのみが検出されました(図4)。しかし、導入地から遠く離れた琵琶湖において3つのハプロタイプが検出され(流入河川の野洲川を含めると4つ)、釣り場として人気の高い本水域へ、大規模あるいは繰り返しの移植が行われた可能性が強く示唆されました。
コクチバスは、初確認された東北・中部地方から近畿地方まで広く検出され、分布の最北端は山形県最上川、最西端は和歌山県紀ノ川でした。これは最新の行政調査(河川水辺の国勢調査6巡目調査)の結果と一致しました。検出されたハプロタイプは2つのみであったものの、ほとんどの水域で両方のハプロタイプが確認されたことから、本種の急激な分布拡大には大規模あるいは複数回の移植が関与している可能性が示唆されました。本種は他の2種に比べ流水や低水温への適応性が高いことから、これまでブラックバスの影響が及んでいなかった生態系への影響拡大が懸念されます。
(注1)コクチバスについては、検出ハプロタイプが2つのみであったため行わず。

図2. オオクチバス(緑色、全9タイプ)、フロリダバス(青色、全9タイプ)、コクチバス(橙色、全2タイプ)のハプロタイプ分布。各ドーナツ図の中心に地点名を示す。外側のリングは種、内側のリングはハプロタイプを示す。地図上のグレーの点は未検出地点を示す。

図3. オオクチバス集団における経度(西から東)に沿ったハプロタイプ組成(棒グラフ、左軸)とハプロタイプ数(白丸、右軸)。本州は糸魚川–静岡構造線により東西に区分した。東日本ではハプロタイプcが、西日本ではハプロタイプhが優占するなど、ハプロタイプ組成には地域的な特徴が見られた。また3つ以上のハプロタイプが検出されたのは67地点中10地点のみであり、そのうち4地点は四国であった。ハプロタイプiは日本で初めて検出された。

図4. フロリダバス集団における緯度(南から北)に沿ったハプロタイプ組成(棒グラフ、左軸)とハプロタイプ数(白丸、右軸)。導入地である池原貯水池では9つのハプロタイプが検出された一方、それ以外で複数ハプロタイプが検出されたのは3地点のみであった。その一つが導入地より遠く離れた琵琶湖であり(3つのハプロタイプを検出)、琵琶湖への大規模あるいは繰り返しの移植が行われた可能性が示唆された。
期待される波及効果
本研究により、環境DNAを用いたハプロタイプ解析が、外来種の分布状況の把握にとどまらず、分布拡大過程や人為影響の推定にも有効であることが示されました。野外作業が採水のみで済む環境DNA調査を用いれば、広域・多地点における外来種監視の迅速化と省コスト化を実現できます。2026年度より、国土交通省の実施する河川水辺の国勢調査に環境DNA分析を用いた魚類調査が導入される予定ですが、このような枠組みに本研究手法を組み込むことで、対策の緊急性が高い外来種の管理に役立つ情報の提供につながることが期待されます。本研究成果が、外来種防除、そして生物多様性保全に資する知見として活用されることを願います。
なお、本研究成果は、5月14日付けで国際科学雑誌『Environmental DNA』にオンライン掲載されました。
URL:https://doi.org/10.1002/edn3.70292(外部サイトに接続します)
論文名:Nationwide environmental DNA haplotyping illuminates the range expansion of three invasive black bass species in Japan
著者:Wakimura K, Matsuzaki SS, Kitano S, Tsuda Y, Tsuboi J, Yatsuyanagi T, Hata H, Tsugeki N, Kando T, Araki H, Uchii K*
*研究代表者:大阪大谷大学薬学部 准教授 内井 喜美子
研究資金:(独)環境再生保全機構環境研究総合推進費(JPMEERF20204004)
JSPS科研費(21H03654, 23K21776, 23K18524)
筑波大学山岳科学センター機能強化(調査研究)プロジェクト
用語解説
※1ハプロタイプ:1本のDNA(ミトコンドリアDNAや単一染色体)上に存在する一続きの配列で、まとめて受け継がれる複数の遺伝的変異のセット。
※2環境DNA調査(環境DNA分析):水や土壌等の環境媒体には、生き物から放出されたDNA(組織片、粘液、排泄物などに由来)が含まれる。そこで環境媒体からDNAを抽出して分析し、塩基配列情報から種を同定することにより、捕獲や観察をせずとも、その場所に生息する生き物を検出できる方法である。
※3ミトコンドリアDNA:エネルギー生産を担う細胞小器官であるミトコンドリアが独自に持つ環状DNA。母系遺伝(母親からのみ子へ遺伝すること)をする。
※4コントロール領域:ミトコンドリアDNAの中の非コード領域で、塩基配列に変異が起こりやすいため、種内の遺伝的変異を調べるのに適している。
※5超並列シーケンサー:膨大な数のDNA鎖を同時並行的に読み取ることにより、短時間で大量の塩基配列情報を取得する技術。
研究内容に関するお問い合わせ先
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大阪大谷大学薬学部
准教授 内井 喜美子(うちい きみこ)
Utiikimi(末尾に“@osaka-ohtani.ac.jp”をつけてください)
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