〜 市民・清水建設・国立環境研究所気候変動適応センターによる市民科学 〜
乾燥化した耕作放棄水田(千葉県富里市)での実験的冠水による昆虫の行動を観察
カメムシ・クモなどは冠水から避難する一方、トンボなどは水域に飛来

 認定特定非営利活動法人 アースウォッチ・ジャパン[本部:東京都文京区(東京大学キャンパス内)、理事長:松田 裕之(横浜国立大学大学院 名誉教授)、以下 アースウォッチ・ジャパン]は、2026年2月に国立環境研究所気候変動適応センターが応用生態工学28巻2号に発表した『乾燥化した耕作放棄水田の一時的冠水時における動物の行動観察—市民参加型調査の事例』『Observing animal behavior after temporal inundation in a dried abandoned paddy field: a case study of observation with citizens.』に対して、多数の調査員が欠かせない市民参加型研究において市民ボランティア18名を派遣し、同調査に協力したことを発表します。調査の概要は以下のとおりです。

1. 調査概要

 気候変動の影響により、激甚化・高頻度化する豪雨に対し、流域の治水対策が求められています。その取り組みとして、流域全体における雨水の貯留促進ならびに貯留機能の向上が挙げられます。水害リスクを低減するには、流域全体で総合的かつ多層的な治水対策を行うことが求められており、グリーンインフラ(自然を活かした社会基盤)を取り入れるという考え方は流域治水の選択肢のひとつです。
 耕作放棄水田への雨水の貯留は、「洪水被害を緩和させる治水機能」と「平常時に湿地として管理すれば生物多様性保全に貢献する」ことが期待されます。そこで、耕作放棄によって極めて乾燥した状態であった水田を、隣接する水路から水を引き入れることで冠水させ、その際に動物がどのような反応を示すのかを調査・観察しました。その結果、陸生の昆虫類では、冠水から避難するために植物等の構造物に垂直に移動する、あるいは遊泳して横断方向に移動する行動が見られました。一方で、トンボ目成虫など、冠水後に創出された水域に飛来する行動も観察されました。そのため、陸上昆虫も本研究程度の冠水であれば、ある程度は洪水から避難できる可能性があり、冠水によって創出された水域が新たな動物に生息地を提供できる可能性があります。また、今回の調査では、多くの調査員が参加したことで、様々な動物の詳細な行動を同時に観察することができたことも大きな成果の一つです。

市民ボランティアの調査風景(2023年10月:千葉県富里市)

 アースウォッチ・ジャパンは、野外における研究者の科学的な調査や教育と市民をつなぎ、参加した市民が自然環境や生物の変化に対する認識や理解を深め、持続可能な環境のために行動することを促進してきました。今回の調査においても、研究者と市民ボランティアの双方に有益となるようなプログラムの企画立案にも協力しています。

2. 国立環境研究所による発表内容

論文のタイトル 「乾燥化した耕作放棄水田の一時的冠水時における動物の行動観察—市民参加型調査の事例」
「Observing animal behavior after temporal inundation in a dried abandoned paddy field: a case study of observation with citizens.」[応用生態工学28巻2号p.185-198 J-STAGE 公開日2026/4/25(https://www.jstage.jst.go.jp/article/ece/28/2/28_25-00015/_article/-char/ja) に掲載]
著者 責任著者:国立環境研究所 気候変動適応センター 田和 康太
筆頭著者:同 西廣 淳
協力著者:アースウォッチ・ジャパン 伊藤 雪穂
調査日 2023年10月14日(土)
調査地 千葉県富里市立沢にある耕作放棄水田1500㎡の谷津田
調査概要 20目88分類群の動物の行動を記録(計325件の記録)
論文の概要
  1. 2023年10月14日の晴天下、千葉県富里市の谷津田における乾燥化した耕作放棄水田を一時的に冠水させ、動物たちがどのような行動をするのか観察した。
  2. 市民ボランティアが、時間の経過に従い、動物たちの ①垂直移動 ②水平移動 ③飛来の行動 を観察し、動物の分類と行動の様子を用紙と写真に記録を残した。
  3. その結果、冠水に対して避難する動物分類群、飛来を示す動物分類群を同時に観察できた。このプログラムを改善して日本各地に適用し、耕作放棄水田を活用した治水と生物多様性の保全について考える機会となることを期待する。

3. 国立環境研究所の調査に対するアースウォッチ・ジャパンの協力・支援の概要

ボランティア
派遣人数
18名
アースウォッチ・ジャパンの募集を通じて、30歳代から80歳代までの幅広い層の市民ボランティアがフィールド調査に協力しました。
サポート体制 全ての市民ボランティアに対して、フィールド調査の手法等についての指導やレクチャーを実施し、調査解説書の配布によって、専門性の高い調査を実現しました。
支援企業
清水建設株式会社
グリーンインフラ+(PLUS)の取り組み
(https://www.shimz.co.jp/greeninfraplus/)
「自然の持つ機能を賢く活かしながらインフラ整備するとともに、シミズが持つソフトや技術を「+」することで、自然の恵みを地域全体に還元する事業コンセプトです。地域の環境・社会・経済の価値を「+」にし、持続可能な地域づくりに貢献する事業活動をサポートします。」

【責任著者からのメッセージ】

乾燥化の進む耕作放棄水田に普段暮らしている陸生動物が、冠水した際に垂直方向や水平方向に移動していく様子を観察できました。実際の洪水の陸生動物に対する影響は、その規模や頻度によって異なると考えられますが、今回の実験のような条件下では、陸生動物は一時的に洪水から逃げてやり過ごすことができるのかもしれません。また、冠水によって水域ができると同時にトンボ目が即座に飛来し、中には産卵行動を示す個体もみられました。様々な動物分類群の冠水に対する短期的な反応を同時に観察できたことは、本研究の大きな特色の一つであり、治水と生物多様性の保全の両立を考える上で有益な知見となることが予想されます。

国立環境研究所 気候変動センター 特別研究員:田和 康太

【筆頭著者からのメッセージ】

洪水時の動物の行動を観察するには多くの目での調査が有効です。今回は、アースウォッチ・ジャパンとの連携により、研究者単独では不可能な調査を実施し、貴重なデータを得ることが出来ました。さらに、参加された方との意見交換をとおして、自然を活かした災害リスク軽減についての認識の共有を進めることもできました。このような有意義な活動が実現した背景には、参加された皆様とアースウォッチ・ジャパンに加え、活動を資金面で支えるとともに先行する活動をとおして地域との関係を築いてくださった清水建設(株)様のご支援があることも強調したいと思います。

国立環境研究所 気候変動適応センター 副センター長:西廣 淳


<参考資料>「認定特定非営利活動法人 アースウォッチ・ジャパン」について

 アースウォッチは、1971年に米国ボストン市で設立された国際環境NGOです。地球環境の変化、生物の多様性と生息地、人類の文化遺産など、多くの人手と時間及び費用を必要とする野外調査に一般市民ボランティアを募る仕組みを創出し、創設以来、世界規模で実践を続けています。地球環境に対する理解及び必要な活動の促進に向けて、科学的な野外調査研究に一般市民を参加させるとともに、人類の持続的な未来を可能にする科学的データベースおよび知的資産を構築するための研究開発を支援することをミッションとしています。アースウォッチ・ジャパンは、アースウォッチ・インスティテュートの活動を日本に拡大する目的で1993年1月に設立されました。

名称 認定特定非営利活動法人 アースウォッチ・ジャパン
設立 1993年1月25日(2013年4月:認定特定非営利活動法人 認定)
本部所在地
東京都文京区弥生1-1-1東京大学キャンパス内
農学生命科学研究科フードサイエンス棟
代表者 理事長:松田 裕之(横浜国立大学大学院 名誉教授)
活動概要
・日本国内野外調査プログラムの企画・運営
・セミナーやイベントの開催 <研究者の講演会など>
 アースウォッチ・ジャパンが主催する野外調査プログラムの主任研究者による研究成果報告会
WEBサイト https://www.earthwatch.jp/ 

【報道に関する問合せ】
アースウォッチ・ジャパン 理事(広報担当): 長沼 史宏
E-mail: fnaganuma@earthwatch.jp

国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報対話室
E-mail:kouhou0@nies.go.jp