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日本のタヌキとキツネのゲノムを解読 -身近な動物のゲノムを解析-


論文情報
タイトル
Reference genomes of Japanese raccoon dog (Nyctereutes viverrinus) and a Japanese red fox (Vulpes vulpes japonica)
著者
Kei Nabeshima*, Haruto Sugeno, Ryota Koba, Manabu Onuma*
*で示した著者は国立環境研究所所属
雑誌
Journal of Heredity, esag075
掲載
2026   論文を見る
DOI:DOI:10.1093/jhered/esag075
概要

 タヌキとキツネは、日本各地の森林や農村、さらには都市周辺にも生息する、私たちにとって身近な野生哺乳類です。しかし、日本に生息するタヌキやキツネが大陸に生息する近縁の仲間とどのような進化的関係にあるのかを詳しく調べるためのゲノム情報は、これまで十分に整備されていませんでした。特に日本に生息するタヌキは、一般に「タヌキ」と呼ばれていますが、大陸に生息するタヌキとは形態や遺伝的特徴が異なります。そのため、近年では独立した種である「ニホンタヌキ(Nyctereutes viverrinus)」として扱われる研究も増えています。

そこで本研究では、福島県内で交通事故によって死亡したニホンタヌキとホンドギツネの耳の組織から細胞を採取し、線維芽細胞という皮膚などの組織をつくる細胞を培養しました(図1)。さらに、培養した細胞から高分子DNAを抽出し、長いDNA配列を読み取ることができる装置「PromethION」を使って、それぞれの全ゲノム配列を決定しました。野生動物では、生きた個体から臓器や筋肉などの組織を採取することが難しく、死亡した個体からも研究に適した状態の新鮮な組織を確保することは容易ではありません。本研究では、交通事故で死亡した個体から採取した組織をもとに細胞を培養・増殖させ、保存することで、ゲノム解析をはじめとする様々な研究に利用可能な研究資源として活用しました。

交通事故死個体の耳組織から樹立した培養細胞

図1. 交通事故死個体の耳組織から樹立した培養細胞。
(A)ニホンタヌキ、(B)ホンドギツネ。いずれも継代4代目の線維芽細胞。スケールバーは500 µm。


その結果、ニホンタヌキでは約26.9億塩基、ホンドギツネでは約24.7億塩基からなるゲノム配列を構築することができました。ゲノム配列の完全性を評価するBUSCO解析では、ニホンタヌキで98.2%、ホンドギツネで97.5%という高い完全性が得られました。また、ゲノム上からニホンタヌキでは22,251、ホンドギツネでは20,731のタンパク質コード配列が予測されました。これらの値は、すでに公開されている海外のタヌキやアカギツネのゲノムと比較しても同程度の品質であり、日本産野生イヌ科動物の研究に利用できる基盤的なゲノム情報が得られたと考えられます。

さらに、イヌ科動物を中心とした19種について、5,822個の共通遺伝子の配列を比較し、ゲノム規模の系統解析を行いました(図2)。その結果、ニホンタヌキは大陸に生息するタヌキと最も近縁でありながら、明瞭に分かれた独自の系統を形成しました。また、ホンドギツネについても、他地域のアカギツネとは区別される独自の系統として位置づけられました。これらの結果は、日本列島に生息するタヌキとキツネが、それぞれ大陸の近縁集団とは異なる進化の歴史を歩んできたことをゲノム規模のデータから示しています。

ゲノム情報から推定したイヌ科動物の系統関係
図2. ゲノム情報から推定したイヌ科動物の系統関係

19種について5,822個の共通遺伝子を比較して推定した系統樹。ニホンタヌキ(Nyctereutes viverrinus)は大陸のタヌキ(N. procyonoides)とは異なる独自の枝を形成し、ホンドギツネ(Vulpes vulpes japonica)も他地域のアカギツネとは区別される系統として示された。


今回得られたゲノム配列と培養細胞は、日本の野生イヌ科動物について、地域集団間の遺伝的な違いや日本列島への進入・分化の歴史を調べるための基盤となります。また、タヌキやキツネは人間の生活圏にも頻繁に出現し、さまざまな感染症や寄生虫の宿主・保有宿主となる可能性があります。そのため、本研究で整備したゲノムと細胞資源は、進化・分類・保全遺伝学だけでなく、野生動物感染症やOne Health研究にも活用されることが期待されます。