世の中には肉を食べる動物(捕食性動物)がたくさんいますが、その中の多くの動物が生きている他の動物を捕まえて食べるだけでなく、動物の遺骸も餌として利用していること(腐肉食をしていること)が知られています。ネズミ、タヌキ、クマ、カラスなどが有名ですが、ライオンも必要な食料の半分程度は腐肉食によって得ているという報告もあります。
このように、生きている動物を捕まえて食べることと腐肉食を併用しているような動物を“日和見的腐肉食者”(facultative scavenger)と呼びます。このような動物がどの程度腐肉に依存しているのか、腐肉食を行う事が肉を食べる動物の生存にどの程度貢献しているのかについてはこれまでよくわかっていませんでした。いくつか特定の種についての観察例は報告されていますが、観察の難しさなどの障害があり(動かない遺骸を観察するのは簡単ですが、動き回る腐肉食者の方を追跡するのはたいへんです)、生態系全体としての見積もりはこれまでなされていませんでした。そこで本研究では生態系進化のコンピュータシミュレーション(図1)を行ってこれらを明らかにすることを試みました。
腐肉への依存度を高くしていくと、捕食性動物種の寿命が大幅に長くなりました(図2)。そのため、生態系内で生き延びられる捕食性動物の種数が増え、生態系内での捕食動物の割合も大幅に増加しました(図3)。しかし、捕食動物の割合が実際の生態系と同じになったとき、腐肉への依存度はとても小さく、利用している腐肉は餌の量を数%増やすだけのわずかなものでした(雑食動物では約2%、肉食動物では約7%)。
それでは、なぜほんの少し腐肉を利用するだけで、捕食動物の生存にこれだけ劇的な効果をもたらすのでしょうか?生態系内での生物量の変動幅を調べた結果、実は腐肉の量は植物並に安定していることが明らかとなりました(図4)。これまで腐肉はたまにしか見つからず、ごく短期間しか利用できない、非常に不安定な資源だと考えられてきました。動物個体の視点で見ればその通りです。しかし、動物の死は常にどこかで起こっています。そのため、生態系全体のような大きな空間スケールで、しかも長い時間で考えると、動物の遺骸は常に一定量供給される資源となるのです。生きた餌は激しく変動しますし、餌となる動物種は永遠に存続せず、いつか絶滅していなくなります。そのため、捕食動物は頻繁に餌不足の危機を経験することになりますが、その時に腐肉が非常食の役割を果たし、捕食動物種は絶滅を回避できるので、捕食動物種の寿命を大幅に伸ばし、生態系内での捕食動物の種数も増加していると考えられます。
このように腐肉食は捕食動物種の生存に大きく貢献するため、ほとんどの捕食性動物は日和見的な腐肉食者に進化することがシミュレーションで予測されました(図5)。実際の世界でもたくさんの日和見的な腐肉食者が知られていますし、定点カメラ観測やバイオロギング(動物にカメラを取り付けて行動を観察する技術)などの観察技術の発達により、これまで生きた餌しか食べないと考えられていた捕食性動物(フクロウやヘビなど)が腐肉を利用していることも明らかにされています。また「侵略的外来種ワースト100」には56種の動物が掲載されていますが、そのうち64%は捕食性の雑食動物であり、さらにそのうち75%は日和見的に腐肉食を行っていることが報告されています(Lowe et al., 2004)。この割合は、本研究の予測(実際の生態系における捕食者―被食者の比を再現できたときの条件(図3, 腐肉への依存度0.012)での日和見的に腐肉食を行う雑食動物の割合)に非常に近い値です(Fig. 7)。最後の予測が本当なのかについては、今後の研究の進展によって、近いうちに明らかにされるでしょう。
図1 生態系進化モデルの概念図
植物が外部からのエネルギー流入を受けて光合成を行い、植物を草食動物が食べ、草食動物を肉食動物が食べる。雑食動物は動物と植物の両方を食べる。動物が死ぬと遺骸となるが、肉食動物と雑食動物の一部は遺骸も餌とすることができるとする。腐肉は腐敗や乾燥のため、短期間で利用不可能になるので、腐肉を利用できるのはごく短時間に限られるとする。
一定時間毎に、ランダムに選ばれた系内の種の一部が種分化して新種となる。新種の性質は祖先種の性質に微少な変異を加えて決定する。腐肉食を行っていない肉食動物、もしくは雑食動物が種分化するとき、10%の確率で腐肉食を行うようになるとする。その逆、つまり腐肉食を行っている動物が腐肉食をしなくなる確率も10%とする。
図2 腐肉食の依存度と肉食動物種の平均寿命
縦軸は肉食動物種の平均存続期間(単位はtime step(コンピュータ内での仮想的な時間の単位))、横軸は腐肉への依存度(この値が大きい程、腐肉への依存度が高くなる)を表す。各プロットは300回のシミュレーションの平均値を表している。
図3 腐肉への依存度と捕食動物の割合
縦軸は捕食動物の割合(生態系内での捕食動物の種数を餌の種数で割った値)、横軸は腐肉への依存度を表す。赤い横実線は実際の生態系における捕食動物の割合、赤い縦実線はそれを実現するときの腐肉への依存度を表す。
図4 生物量の変動幅の大きさ
植物、草食動物、雑食動物、肉食動物、腐肉の生態系内での総量が時間の経過とともにどの程度変動するのかを表している。横軸は変動幅の大きさの指標(変動係数)を表している。
図5 腐肉への依存度と日和見的な腐肉食者の割合
縦軸は日和見的な腐肉食者の割合(日和見的な腐肉食者の種数/全種)、横軸は腐肉への依存度の指標を表す。赤い横実線は侵略的外来種ワースト100に掲載された雑食動物のうち、日和見的な腐肉食を行う種の割合、赤い縦実線については図3の説明を参照。