移入や絶滅による種組成の変化は、生態系プロセスや機能に大きく影響する。それらの影響の広域評価には、機能形質(サイズ、食性、生息場所など)の多様さを示す"機能的多様性"が有効な指標となる。
本研究では、日本全国27地域(※1)の純淡水魚類相(※2)を対象に、過去(1900年頃)と現在(2000年代)の機能的多様性を比較した。
結果、過去にくらべ、現在では、ブラックバスなどの外来魚(国外移入魚)の侵入に加えて、アユなどの水産有用種の放流種苗に混入した在来魚(国内移入魚)の侵入によって機能的多様性が有意に増加していた。つまり、魚食魚や大型魚など在来魚とは異なる機能をもった魚が増えたことを示している。興味深いことに、国内移入魚も、国外移入魚と同じ割合で機能的多様性の増加に貢献していたことから、国内移入についても対策を講じていく必要があると考えられた。
また、今回解析した地域スケールでは、在来魚の絶滅はほとんどおこっていなかったが、絶滅が機能的多様性に及ぼす影響についてシミュレーションを行った。複数のシナリオにもとづいた計算の結果、絶滅危惧種であるか普通種であるかに関係なく、わずかな種の絶滅によっても機能的多様性が減少した。機能的多様性の観点からは、絶滅危惧種だけではなく普通種の保全についても考えていく必要があるかもしれない。
以上のことから、淡水魚類では、機能的に似ている種が非常に少ない(機能的冗長性が低い)ため、わずかな種の移入や絶滅によって機能的多様性ひいては生態系プロセスや機能が大きく変化する可能性が示唆された。
※1:Watanabe (2012)に基づいた特徴的な魚類相を示す比較的大きな地域
※2:一生を淡水で生活する魚類の組成のことを指す
写真:霞ヶ浦の定置網で採集された魚類の一部 (Photo by Matsuzaki)
本来、霞ヶ浦には生息しないはずの、チャネルキャッットフィッシュ、ブルーギル、オオタナゴ、タイリクバラタナゴなどの国外移入魚に加えて、
ゲンゴロウブナやハスなどの琵琶湖固有の魚(国内移入種)が写っている。
これらの魚種は、在来魚と機能などが異なるので、生態系プロセスや機能に影響を与えている可能性がある。