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背景

遺伝子組換え(GM) 農作物は1996年に米国ではじめて販売され、25年間でその栽培面積は100倍以上に拡大していて、今後も拡大しつづけていくと予想されています。2019年において、世界で生産されているダイズの77%、トウモロコシの32%、セイヨウアブラナ(ナタネ)の30%、ワタの80%が除草剤抵抗性や害虫抵抗性を持つように遺伝子を組み換えられた個体となっています。

日本ではGM農作物の商業栽培はおこなわれていませんが、食料の多くを輸入に頼っているため、加工用などとして輸入したGM農作物の種子が輸送途中にこぼれ落ちて発芽し、一般の環境中で生育しています。さらに、海外でのGM農作物栽培面積の拡大にともない、輸入量に占めるGM農作物の割合が増えると、逸出したGM農作物が分布も拡大することが推測されます。しかし、その長期的な生育の状況はよくわかっていません。さらに、GM農作物と在来種との雑種形成が起こると、組換え遺伝子の分布が急拡大するなどして、在来種に悪影響を与えることが懸念されています。

日本は、国境を越える遺伝子組換え生物(GMO)の移動による生物多様性への悪影響を防止するための国際的な取り決めであるカルタヘナ議定書を締結しています。カルタヘナ議定書締約国は2年おきに開催されるカルタヘナ議定書締約国会議(MOP)でGMOの監視体制および逸出状況について報告義務があります。現在、こぼれ落ちによる自生が確認されているGMセイヨウアブラナの生育実態については、農水省、環境省、国立環境研究所が協力して調査を実施しています。

また、2010年に名古屋で開催されたMOP5において、「名古屋・クアラルンプール補足議定書」が採択されました。補足議定書では、GMOにより損害(生物の多様性の保全及び持続可能な利用に対する悪影響)が発生した場合、権限のある当局(国)は、管理者(当該GMOの管理に関わる者)が実施すべき対応措置を決定することとされています。また、管理者が対応措置を実施できない場合も含め、国が代わりに実施できるとされ、その費用は国が管理者から回収する権利を有するとされています。


モニタリングの概要

国立環境研究所ではGMセイヨウアブラナを対象として、国道51号線は2005年から2014年までの10年間、国道23号線は2010年から継続的にモニタリングを行っています。調査地区におけるセイヨウアブラナの全個体数とGMの割合、そしてそれらの長期的な変動と場所による生育状況の違いを調べています。


モニタリング・分析の方法

調査地点
国道51号線(千葉県香取市~成田市にかけての約20km区間)東側道路沿い
国道23号線(三重県四日市市~津市にかけて5区間の約10km)上下車線

調査地点図

調査期間
国道51号線:2005年4月(平成16年度)~2014年4月終了(各年の4月中旬~5月下旬にかけて)
国道23号線:2010年4月(平成22年度)~継続中

調査方法
調査区間の道路沿いを歩き、目視にてセイヨウアブラナを探索した。
セイヨウアブラナが確認できた際は場所を記録し、1個体につき葉を1~2枚採取し、実験室に持ち帰った。

分析方法

  • 採取した葉を乾燥して保管した。
  • 1枚の葉から約10mgの組織を切り取り、マイクロチューブに入れ、0.5mLの水を加えすりつぶした。
  • 上清にReveal試験紙(NEOGEN)またはTrait LL試験紙(Strategic diagnostics Inc.)を浸し、10分後に除草剤耐性タンパク質による陽性反応の有無を確認した。
  • 除草剤耐性タンパク質の存在を確認できた個体からDNAを抽出した。
  • DDBJ(日本データバンク)に登録されているグリホサート耐性遺伝子(CP4-EPSPS)、グルホシネート耐性遺伝子(PAT)および組み換え遺伝子のプロモーターの塩基配列からPCRプライマーを設計した。これらのプライマーと抽出したDNAをテンプレートにしてPCRをおこなった。増幅されたDNAを精製し、その塩基配列を調べ除草剤耐性遺伝子の存在を確認した。



国道51号線(茨城・千葉)沿いにおける調査結果

1.GMセイヨウアブラナ個体数の経年変化
図2は、2005年度~2014年度に確認された遺伝子組換え(GM)セイヨウアブラナの個体数を示したグラフです。赤と緑はそれぞれグリホサートおよびグルホシネートに耐性遺伝子を持つセイヨウアブラナの個体数を示しています。
2011年度、2012年度は2年続けてGM発見数がゼロで、2014年度は1個体だけ見つかりました。セイヨウアブラナの全個体数は、2005年度の2,162個体から2014年度の25個体へ激減していました。

国道51号線沿いにおけるGMセイヨウアブラナ個体数の経年変化

2.自生していたセイヨウアブラナの分布の特徴
図3は、自生セイヨウアブラナの出現頻度と調査区間の標高を示したものです。
セイヨウアブラナの出現頻度が高い区間が3カ所ありました。最初の2つは道路の車線が2車線から1車線に減少する地点、標高差が大きく変わる場所でした。おそらく種子を運搬していたトラックの加速や減速で種子がこぼれ落ちる可能性が高まっていると考えられました。あるいは、こぼれ落ちた種子が風や雨で流され集まっているのかもしれません。3つ目は、高速道路の法面で除草管理が難しい場所でした。
国道51号線沿いは2011年度以降、総個体数とGM個体数が激減しました。その後、新しい高速道路の建設などで周辺環境が大きく改変されたことから、2014年度で調査を終了しました。

国道51号線沿いにおけるGMセイヨウアブラナ個体数の経年変化


国道23号線(三重)沿いにおけるGMセイヨウアブラナ個体数の経年変化

図4は、2010年度~2020年度に確認されたセイヨウアブラナの個体数およびGMの内訳を示しています。国道23号線沿いではGMの割合が非常に高く毎年70%以上でした。総個体数は減少傾向にありますが、年によって大きく変動するため調査を継続しています。

国道51号線沿いにおけるGMセイヨウアブラナ個体数の経年変化

参考文献

Nakajima N., Nishizawa T., Aono M., Tamaoki M., Saji H. (2020) Occurrence of spilled genetically modified oilseed rape growing along a Japanese roadside over 10 years. Weed Biology Management, 20, 139–146 論文概要紹介

Nishizawa, T., Nakajima, N., Tamaoki, M., Aono, M., Kubo, A., Saji, H. (2016). Fixed-route monitoring and a comparative study of the occurrence of herbicide-resistant oilseed rape (Brassica napus L.) along a Japanese roadside. GM Crops Food, 7, 20-37 プレスリリースへのリンク

Nishizawa T., Tamaoki M., Aono M., Kubo A., Saji H., Nakajima N. (2010) Rapeseed species and environmental concerns related to loss of seeds of genetically modified oilseed rape in Japan. GM Crops, 1(3), 143-156

Nishizawa T., Nakajima N., Aono M., Tamaoki M., Kubo A., Saji H. (2009) Monitoring the occurrence of genetically modified oilseed rape growing along a Japanese roadside: 3-year observations. Environ. Biosafety Res., 8(1), 33-44


担当者

中嶋信美青野光子

Last updated Jun. 28, 2021