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琵琶湖のヨシ原

研究の概要

琵琶湖流域の土地改変により大きな影響を受け、資源量が大幅に縮小している在来魚の繁殖と生息について、現在の当該流域の様々な利用・管理地における実状を調査します。さらに、本調査で得た知見を活用して、滋賀県が目指し琵琶湖分室に協力を求めている「自然と人との共生」の回復と、これを生かしたエコツーリズムの実現に貢献します。


研究の目的

滋賀県は「第五次滋賀県環境総合計画の概要(外部リンク:滋賀県HP)」において、目指す将来像として「琵琶湖を取り巻く環境の恵といのちを育む持続可能で活力あふれる循環共生型社会」を掲げ、その実現のための重要なポイントの一つとして「里山や内湖、農地など、人が働きかけた二次的な自然も含めて、地域の生態系と人との間に成り立つ『自然と人との共生』」を挙げています。本研究では、かつて広範囲で実現していた、そのような共生社会を広く復活させるために、琵琶湖固有の生態系の中で、象徴的な地位を与えられている在来魚の繁殖と生息について、現在の琵琶湖流域の様々な利用・管理地における実状を調査し、これまでの地方創生共同研究の発展研究として、より多様な場所について、問題のありかを明確化することを第一の目的とします。

また、滋賀県は上記の「第五次計画」において、生態系サービスなどの自然の恵みを、観光等の経済・社会活動に活用することで「健全な循環」を実現することを目指しており、一部地域で片鱗が残る「自然と人との共生社会」をエコツーリズムに活かす計画を進めています。本研究では、在来魚の繁殖・生息調査の結果に基づいて、これに協力することを第二の目的とします。
琵琶湖流域の在来魚の保全概要図

研究の内容

人の働きかけ(利用や管理)がある様々な二次的自然(上記、ポンチ絵参照)を対象に、DNA種判別を駆使した卵・稚魚の分布調査を通して、魚種別の詳しい繁殖状況を把握します。さらに、環境DNAや魚類採集により、様々な魚類の生息や移動(琵琶湖からの産卵遡上を含む)の状況も把握します。以上の調査結果を検討することにより、場所ごとに在来魚の繁殖・生息における問題点を洗い出します。また、調査で得られた知見を活用して、在来魚の生活と人の営みの調和・共生を体験するエコツーリズムの具体的な内容(対象魚種や観察内容、場所や時期)の検討等に協力します。

在来魚が分布する琵琶湖流域の二次的自然としては、以下のようなものがあります。
代表例として、まず水田が挙げられます。かつては良好な産卵場所でしたが、灌漑方式の変化により、現在では親魚の進入が不可能になっています。滋賀県は、水路に構造物を設置して進入・産卵できるようにした水田を「ゆりかご水田」とし、そこでとれた米をブランド認証する取り組みを行っていますが、普及は進んでいません。米の需要低下による麦や大豆への転作、農家の後継者不足等による宅地化も進行しています。代掻き時などの水田濁水を琵琶湖に流入する前に緩和するため、一部の水田を湿地化した「みずすまし水田」も存在します。琵琶湖の湖岸では、良好な産卵場所である自然のヨシ帯が、湖岸堤(湖岸道路)や人工護岸の建設により破壊され、これを補うために造成ヨシ帯が作られていますが、維持管理が行き届かず陸化する事態も起きています。琵琶湖本湖と水路でつながる内湖やビオトープは、水門によって魚類の自由な行き来が阻まれている場所があり、移動に配慮した水門運用へ転換する動きがあります。河川では、洪水対策の方針が、堤防で水流を押さえ込むことから、遊水池や霞堤などにより水流を特定の場所で逃がす方法が見直されてきています。以上の場所における魚種を区別した詳しい繁殖・生息状況は不明な部分が多く残されており、本研究ではこれを可能な限り明らかにします。


研究メンバー

馬渕 浩司(琵琶湖分室所属/当領域兼務)、今藤 夏子松崎 慎一郎山口 晴代中田 聡史(地域環境保全領域)


共同研究機関


関連リンク

国立環境研究所 琵琶湖分室ウェブサイト

Last updated Jun. 1, 2021