死滅した巣に偽装?:天敵に襲われたニホンミツバチは臭いものを集める(令和 8年度)Camouflaging as a dead nest? Collection of malodorous materials by Japanese honeybees defending against northern giant hornets
- 予算区分
- 基盤C
- 研究課題コード
- 2628CD007
- 開始/終了年度
- 2026~2028年
- キーワード(日本語)
- ニホンミツバチ,スポッティング,防衛行動
- キーワード(英語)
- Japanese honey bee,Spotting,defensive behavior
課題代表者
森井 清仁
- 生物多様性領域
生態リスク評価・対策研究室 - 特別研究員
担当者
- 坂本 佳子生物多様性領域
研究概要
捕食者と遭遇した際に「死にまね(死んだふり)」によって生き延びる行動は、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫類など極めて多様な分類群で報告されており、そのメカニズムについても研究が進められてきた。しかし、これまでの研究はいずれも個体レベルの行動に注目したものであった。社会性昆虫のように集団で生活する生物は、外敵にとって餌資源が集中する魅力的な標的となりやすい。そのため、対捕食者戦略として、群レベルでの「死にまね」行動をとっている可能性はないだろうか。
ニホンミツバチは、天敵であるオオスズメバチの集団攻撃に対抗するために、いくつかの特殊な防衛行動を進化させている。たとえば、オオスズメバチが巣の周辺に接近している間、ニホンミツバチは巣内へ引きこもる。そして、オオスズメバチが去った後、次なる襲撃に備えるために、動物の糞や植物片など様々な生物由来の物質を巣の出入口付近に付着させる(スポッティング行動)。スポッティング物質は臭気を放ち、敵が巣に侵入しようとする行動を抑える効果を持つと考えられる。それでもオオスズメバチが巣内に侵入してくる場合、ミツバチは敵を蜂球に閉じ込め熱殺する。
本研究では、ニホンミツバチのこれらの防衛行動のうち「引きこもり」がすでに壊滅した巣の視覚的な偽装として、「スポッティング行動」が腐敗した死体ばかりで餌として価値が無い巣の嗅覚的な演出として機能する可能性に着目した。この場合、これら二つの行動は、蜂群全体での「死にまね」、つまり「群の死にまね」として統一的に理解することが可能となる。この「群の死にまね」仮説は、これまで個体の行動のみに注目していた「死にまね」行動の文脈の中で議論されてこなかった現象であり、集団生活する生物の対捕食者行動の理解に新たな視点をもたらす。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:応用科学研究
全体計画
スポッティング物質の素材が偏り、同じ化合物が検出されやすくなることを避けるため、採餌圏が重複しないよう、互いに4 km以上離れた地点に設置された計6群を対象にサンプリングする。調査対象群は国立環境研究所および事前に承諾を得た養蜂者の群とし、スポッティング行動が生じる夏から秋にサンプリングを行う。
GC-MS分析により各群のスポッティング物質、およびその素材として知られる鶏糞とタニソバの葉から共通して検出される揮発性化合物を探り候補を絞る。さらに、候補化合物について標準物質を用いて定量分析を行う。候補化合物が含まれる量を把握した後に、ベイトトラップ試験を行い、候補化合物の有無によってオオスズメバチの採捕個体数が変わるか実験する。効果が認められない場合は、再度、別の候補化合物を探索・定量する。オオスズメバチの採捕個体数を減少させる化合物が見つかった場合は、フェロモントラップ試験を行う。有効な化合物がオオスズメバチの餌として不適な状態を模す効果を持つとすると、フェロモンの誘引効果には影響を及ぼさないと予想される。そこで、有効な化合物の有無により、オオスズメバチの巣仲間誘引フェロモンを利用したトラップで捕獲される個体数が変わるか実験する。
さらに、死亡後の経過時間が異なるニホンミツバチ成虫(0 h, 24 h, 48 h)および壊滅した蜂群の巣くずなどが放つ揮発性化合物をGC-MS分析により調べ、前述の実験で特定した化合物が含まれるか確かめる。さらに、経過時間の異なるミツバチ死体をオオスズメバチに提示し、捕食するか実験する。これらのデータを統合することで、スポッティング行動は「群の死にまね」仮説で説明できるかを検証する。
今年度の研究概要
サンプリング対象群を確保し、オオスズメバチがニホンミツバチの巣に襲来する秋にスポッティング物質を採取する。各蜂群のスポッティング物質、およびその素材として知られる動物の糞や植物の葉から共通して検出される揮発性化合物をGC-MS分析によって探索し、オオスズメバチに対する防衛手段として有効な化合物の候補を絞る。それら候補化合物については定量分析を行う。
外部との連携
分担研究者:高井嘉樹
所属:学習院大学 理学部
連絡先:hiroki.takai@gakushuin.ac.jp
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