パッシブサンプリング技術を用いた水環境における化学物質存在状況評価手法の確立 (令和 8年度)
Establishment of a method for assessing chemical occurrence in aquatic environments using passive sampling technology

予算区分
経済産産業保安等調査研究事業
研究課題コード
2626ZZ001
開始/終了年度
2026~2027年
キーワード(日本語)
パッシブサンプラー,農薬,モニタリング
キーワード(英語)
passive sampler,pesticides,monitoring

課題代表者

野呂 和嗣

  • 環境リスク・健康領域
    計測化学研究室
  • 主任研究員

研究概要

当課題は経済産産業保安等調査研究事業により令和7年度において実施された研究内容を踏まえ、実施するものである。
令和2年8月の化学物質審議会答申において、モニタリング事例が少ない物質や新たに化管法の対象となる物質を中心に、様々な媒体による分析法の開発の必要性が指摘されている。水環境は水道の原水となることや、様々な生物が生育していることから、ヒトへの健康と生態系保護の観点から、水環境の化学物質汚染実態を把握することは重要である。しかし、水環境における化管法第1種及び第2種指定化学物質やその候補物質の存在状況における知見は不足している。
水環境の化学物質を調査するために、グラブサンプリング(いわゆる採水)が実施されているものの、グラブサンプリングは課題が多い。この課題とは、スポット濃度しか得られない、サンプルの輸送コストが高い、サンプルの保管性が悪いなどである。特に、降水などの気象条件によって日内濃度変動が10倍以上になる農薬などの物質について、グラブサンプリングによる調査はリスクを過小評価する可能性が指摘されている。
グラブサンプリングの弱点を克服したサンプリング手法として、パッシブサンプリング法が開発されてきた。パッシブサンプリング法は、サンプラーを水環境に一定期間浸漬することで、浸漬期間中の化学物質の平均濃度を算出することができる手法である。パッシブサンプリング法の利点は、サンプリング頻度が比較的少ない(例えば1ヶ月間に1回)こと、輸送コストが低いこと、サンプルの保管性が高いこと、化学物質を濃縮するため低濃度物質を定量できることなどである。
そこで本研究では、化管法第1種及び第2種指定化学物質のうち、水環境への移行性が高いと考えられる親水性化学物質について、パッシブサンプリングによるモニタリング手法を開発することを目的とする。幅広い物性の化学物質について一定のサンプリングレート(Rs;L d−1)を有するパッシブサンプラーを開発することで、パッシブサンプリングによる水環境モニタリング手法の基盤となることが期待される。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:応用科学研究

全体計画

研究の全体像
本研究は、(1)Rsを得るためのパッシブサンプラー校正試験、(2)一定なRsを有するパッシブサンプラーの開発、(3)野外調査、(4)モニタリングマニュアルの作成から構成される。親水性化合物用のパッシブサンプラーとして世界的に使用されている極性有機化合物積算サンプラー(POCIS)を用いる。POCISとは、吸着剤を2枚の膜で挟み込み、金属リングで固定したサンプラーである。

(1)Rsを得るためのパッシブサンプラー校正試験(令和7年度)
化管法第1種および第2種指定化学物質のうちGC-MS/MSあるいはLC-MS/MSによって定量可能な親水性化学物質131種類を対象とし、POCISのRsを得る。POCISの構成は、膜がポリエーテルスルホン(PES)、吸着剤がHLBとする。これは最も一般的に用いられるPOCISの構成である。このPOCISをP-POCISとする。この課題の成果は、パッシブサンプリングによる水環境モニタリング手法の基盤となる。

(2)一定なRsを有するパッシブサンプラーの開発(令和8年度)
Rsは化学物質に特異的な値であるため、各化学物質ついてRsを把握しなければならない。しかし、Rsを得るための校正試験には1ヶ月間以上の時間と、溶液を毎日調製する人的コストがかかる。よって、校正試験を実施せずにRsを推定する手法が必要とされてきた。
パッシブサンプリングは、膜透過が律速であると考えられてきたため、膜の特性評価によるRs推定が研究されてきた。しかし、Rs推定手法の開発は成功していない。我々は、吸着剤への吸着速度がRsに影響することを解明した(Noro et al. 2020, 2021)。この研究は、吸着剤が幅広い水—オクタノール分配係数(Kow)をもつ化学物質に対して一定な吸着速度を示したため、吸着を律速とするパッシブサンプラーは一定なRsを持つことを示唆した。
本テーマの目的は、一定のRsを持つパッシブサンプラーを開発することである。つまり、ひとつのRsを用いて化学物質濃度を網羅的に定量することを目指す。この新規POCISをN-POCISとする。

(3)野外調査(令和9年度)
P-POCISとN-POCISを用いて、野外試験を実施し、水環境における化管法第1種および第2種指定化学物質の存在状況を把握する。調査地点は静岡県と大阪府の河川と海域を対象とする。N-POCISに吸着した化合物の定量にはAIQS-GCを用い、化学物質を網羅的に定量する。

(4)モニタリングマニュアルの作成(令和9年度)
室内試験のデータと野外試験から得られた知見をマニュアルとしてまとめる。このマニュアルは、水環境モニタリングを実施する地方環境研究所などがパッシブサンプリングを導入する際に参照されることが期待される。

今年度の研究概要

昨年度は、既存のパッシブサンプラーについて校正試験を実施した。
今年度は、親水性化合物用のパッシブサンプラーとして、世界的に使用されている極性有機化合物積算サンプラー(POCIS)を用いる。POCISとは、吸着剤を2枚の膜で挟み込み、金属リングで固定したサンプラーである。一般的なPOCISの構成は、膜がポリエーテルスルホン、吸着剤がHLB吸着剤である。
昨年度事業(令和7年度産業保安等調査研究事業(化学物質規制対策(大学・公的研究機関と連携した化学物質管理高度化推進事業(パッシブサンプリング技術を用いた水環境における化学物質存在状況評価手法の確立))))では、一般的な構成のPOCISについて、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−MS/MS)あるいは液体クロマトグラフ質量分析装置(LC−MS/MS)によって定量可能な88種類の農薬の化合物のRsを得た。そのうち、43種類は化管法第1種及び第2種指定化学物質であった。本年度は、この88種類を対象とし、膜透過試験、吸着試験を実施することにより、Rsが一定の値を示す範囲が最も広くなる膜と吸着剤の組み合わせを決定し、その組み合わせのPOCISについて、Rsを得るための校正試験を実施する。
膜透過試験では、POCISに利用されるポリエーテルスルホン膜、POCISの理想的な膜と提案されたテフロン膜(Endo and Matsuura, 2018)、ガラス繊維濾紙膜の3つの膜を評価する。2つのセルを膜で仕切り、片方に88種農薬の混合溶液を入れ(ドナー)、もう片方には超純水を入れる(アクセプター)。農薬が膜を通してドナーからアクセプターに移動する膜透過速度を測定する。
吸着試験では、POCISの吸着剤として利用例のあるHLB吸着剤などの3種程度を対象とする。ガラスビーカーに吸着剤と農薬混合溶液を入れ撹拌し、農薬濃度の減少を観測することで、吸着速度定数を算出する。
膜透過速度と吸着速度を比較し、吸着速度定数を膜透過速度定数で除した値が0.1以下、もしくは最も低くなる組み合わせを探索する。この組み合わせのPOCISを用いて校正試験を実施し、Rsを得る。

外部との連携

静岡県立大学食品栄養科学部の雨谷敬史教授に分析の一部を委託する。

関連する研究課題