水素安定同位体比を用いた新規指標による4カ国のマイクロプラスチック動態解明 (令和 8年度)Elucidation of microplastic dynamics in four countries using a novel indicator based on hydrogen stable isotope ratios
- 研究課題コード
- 2628CD003
- 開始/終了年度
- 2026~2028年
- キーワード(日本語)
- マイクロプラスチック,安定同位体比,多環芳香族炭化水素類
- キーワード(英語)
- microplastics,stable isotope ratio,polycyclic aromatic hydrocarbons
課題代表者
野呂 和嗣
- 環境リスク・健康領域
計測化学研究室 - 主任研究員
研究概要
プラスチックの劣化はマイクロプラスチック(MPs)の主要な生成源であり、MPsの動態を解明するため、様々なプラスチック劣化指標が開発されてきた。代表的な既存劣化指標はフーリエ変換赤外分光スペクトルから得られるカルボニルインデックスである。しかし、既存の劣化指標は、研究室間の結果の比較が困難である、指標の初期値が製品によって異なる、室内試験結果と野外調査結果の相関が得られないなどの課題がある。申請者は、研究室間の結果のばらつきが小さく、プラスチック製品の初期値が安定している水素安定同位体比(δD)が、プラスチック劣化の新規指標となりうると発想した。申請者は、室内試験と野外試験間の誤差要因である、活性酸素種を放出する共存物質や光触媒性を有する吸着物質などのプラスチック劣化促進ファクターを考慮し、δDを用いた指標を開発する。新規指標を用いて、日本、ベトナム、バングラデシュ、スイスの4カ国のMPsの動態を解明する。本研究は、新規指標がMPs分析の国際標準法となることを目指し、その基礎データを蓄積する。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:応用科学研究
全体計画
本課題は、新規劣化指標の確立と応用を目指し、(1)新規指標の開発、(2)共存物質の影響評価、(3)実環境における新規指標の評価、(4)4カ国におけるMPs動態解明を実施する。
δDの分析
δDの分析には、産業技術総合研究所に設置された安定同位体比質量分析計(IRMS)を用いる。このIRMSには熱分解型元素分析装置が連結されており、プラスチック試料を1400℃以上で瞬間的に分解し、試料中の水素を水素ガスに変換してIRMSに導入する。この水素ガス中の重水素の割合からδDを算出する。分析を高精度化するため、プラスチックと近いδDを持つ標準ガスを用いてIRMSを校正した。また、本装置は0.1 mg/試料という超微量でδDを測定可能であるため、MPs実サンプルの分析に適している。
(テーマ1)新規指標の開発
水のδDがプラスチックのδDに影響する可能性があるため、δDが値付された標準水を用いる。PE、PP、PET、PS板(GoodFellow社、厚さ 1 mm、10 × 100 mm)を標準水に浸け、石英ガラス窓越しに人工太陽光を照射する(図2)。温度を一定に保つため恒温槽内で試験する。照射時間は7、14、28日間とする。光照射時間(t; day)に対してδDをプロットし、δDのプラスチック劣化指標としての有用性を評価する。
劣化していないプラスチック製品のδDを分析し、その平均値をb値とする。予備試験の結果、PSについてのa値とb値はそれぞれ0.7 ‰ day−1、−200‰であった。既往研究から、b値のばらつきはプラスチック劣化によるδDの変動と比べて十分小さいと予想される。また、既存の劣化指標である引張強度とCIを測定し、δDとの相関を評価する。
(テーマ2)共存物質の影響評価
δDを用いて、プラスチック劣化を促進するファクターを定量的に評価する。具体的には、粒子状有機物(POM)、溶存有機物(DOM)、吸着したPAHsの影響を対象とする。
静岡県内の河川水・海水からPOMとDOMを分離し、標準水によって希釈する。この希釈溶液を用いてプラスチックへの光照射試験を実施する。また、プラスチック板にPAHsを吸着させ、光照射試験を実施する。これらのサンプルのδDを分析し、劣化促進ファクター(F; a.u.)を算出し、POM、DOM、PAHsのプラスチック劣化への影響を定量的に評価する。
(テーマ3)実環境における新規指標の評価
静岡県駿河湾を対象に、海洋環境におけるa値を算出する。駿河湾に海水面にPE、PP、PET、PS板を浸漬する。季節変動を解析するため、浸漬期間は春(3–5月)、夏(6–8月)、秋(9–11月)、冬(12–2月)のそれぞれ3ヶ月間とする。並行して、プラスチック劣化に影響するDOM、POM、PAHsの海水濃度を月に2回の頻度で分析する。海水温、太陽光強度などのデータを研究協力機関であるマリンオープンイノベーション機構(静岡県静岡市)から入手する。また、プラスチックδDに影響すると予想される海水のδDを測定する。
海洋環境と室内試験におけるδDの差や、海洋環境におけるδDの季節変動を、温度、光強度、POM濃度、DOM濃度、PAHs濃度などの観点から解析し、実環境においてδDに影響する主要なファクターを決定する。また、温度、太陽光強度、劣化促進条件などのデータと、日本近海におけるこれらの年平均値から、日本周辺に滞留するプラスチックごみの劣化指標(A; ‰ yrs−1)を推定する。
(テーマ4)4カ国におけるMPs動態解明
日本、ベトナム社会主義共和国、バングラデシュ人民共和国、スイス連邦から採取したMPsサンプルを分析し、サンプルのδDを得る。δDから、MPsの滞留時間(ts; yrs)を算出する。なお、研究代表者らはすでに日本国内のMPsサンプルを約1,000個保有しており、ベトナム、バングラデシュ、スイスのサンプルは共同研究実績のある現地の研究者から提供される。サンプリング消耗品の一部と、各国から日本へのサンプル送料を本課題から支出する。
プラスチックごみとMPsの年齢を、素材、粒径、採取地点の水質などの観点から解析し、プラスチックごみとMPsの動態を評価する。
これらのサンプルをFTIR分析し、CI値から既報の手法(Okubo et al., 2023)によってMPsの滞留時間を推定する。δDとCIから得られた滞留時間を比較し、テーマ3から得られた温度、光強度、POM濃度、DOM濃度、PAHs濃度などのデータをもとに、CIとδDに基づく滞留時間推定手法の誤差要因を検討する。
今年度の研究概要
(テーマ1)新規指標の開発
水のδDがプラスチックのδDに影響する可能性があるため、δDが値付された標準水を用いる。PE、PP、PET、PS板(GoodFellow社、厚さ 1 mm、10 × 100 mm)を標準水に浸け、石英ガラス窓越しに人工太陽光を照射する(図2)。温度を一定に保つため恒温槽内で試験する。照射時間は7、14、28日間とする。光照射時間(t; day)に対してδDをプロットし、δDのプラスチック劣化指標としての有用性を評価する。
劣化していないプラスチック製品のδDを分析し、その平均値をb値とする。予備試験の結果、PSについてのa値とb値はそれぞれ0.7 ‰ day−1、−200‰であった。既往研究から、b値のばらつきはプラスチック劣化によるδDの変動と比べて十分小さいと予想される。また、既存の劣化指標である引張強度とCIを測定し、δDとの相関を評価する。
外部との連携
分担者として産業技術総合研究所の太田雄貴 主任研究員が参画している。