気候変動による食糧生産への損失と損害のグローバルリスク評価(令和 7年度)
Global Risk Assessment of Loss and Damage from Climate Change in Food Production

予算区分
環境問題対応型研究
研究課題コード
2527BA009
開始/終了年度
2025~2027年
キーワード(日本語)
損失と損害,気候変動,食料生産
キーワード(英語)
Loss and damage,Climate change,Food production

課題代表者

増冨 祐司

  • 気候変動適応センター
    アジア太平洋気候変動適応研究室
  • 室長(研究)
  • 博士(地球環境学)
  • 工学,農学,物理学

担当者

研究概要

緩和・適応が進んだとしてもこれを超えて現われる気候変動影響が存在し、この影響は「損失と損害(Loss & Damage)」と呼ばれている。国際的にはこの損失と損害に対処することが、緩和・適応の両輪に続く気候変動対策第3の柱として認識されており、近年最も重要なトピックの一つとなっている。しかし、損失と損害に関する科学的な知見はこれまでのところ非常に限られており、我々が将来にわたりどれだけの損失と損害のリスクを抱えているのかはわかっていない。
本研究の目的は、緩和・適応策を講じても現われる気候変動影響を現在から将来にわたりグローバルに評価し、現状での適応限界を超えた損失と損害がいつ(when)、どこで(where)現れ始め、その後どの程度(How much)増大していくかを明らかにすることである。対象とするのは国際貿易を通じて日本への影響も大きく、我々の生命・健康維持に欠かせない「食糧生産」とする。「損害」の評価は収量変化といった物理的な評価だけでなく、国際貿易を通じた波及効果も含めた経済的被害額を評価する。物理的な評価においては、これまで農作物影響評価において十分に考慮されてこなかった灌漑水不足や洪水のような水を介した影響も考慮する。さらに、本研究では「損害」だけでなく、不可逆的な影響である「損失」として栄養不足に起因する死亡者数の推計を行う。
本研究は食糧生産を対象とした世界で初めての包括的な損失と損害のリスク評価研究となる。これらの成果はIPCC等への学術的貢献のみならず、世界各国が自国の損失と損害のリスクの把握に役立つことが期待される。この科学的情報は損失と損害の軽減・回避に向けた各国の今後の政策や戦略の検討、国際的支援のプライオリティが高い地域の同定などに役立つことが期待される。

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:

全体計画

・サブテーマ1:主要農作物を対象に適応策を最大限導入した際の気候変動による収量変化を、水を介した間接的影響も含めて計算する。収量計算は東京大学・国立環境研究所で開発されてきた水文・水資源モデルに作物モデルが結合された統合陸域シミュレーターILS-cropを用いる。このために農業分野の様々な適応策をILS-cropに組み込む。また水を介した農作物への影響を高精度に推計できるようILS-cropの改良を行う。農業分野の適応策については導入事例や文献、データ等を収集し、これを分析することにより現状での効果の限界を同定する。

・サブテーマ2:サブテーマ1で計算された収量変化を国・地域別に集計し、これを国際経済・貿易モデルに入力することにより、経済的影響を推計する。また収量変化、価格変動等による栄養不足に起因する死亡者数を推計する。経済被害額および死亡者数の推計は国立環境研究所・京都大学で開発されてきた世界経済・貿易モデルAIM/Hubモデルを用いる。このために最新のデータを用いたモデル改良を行うとともに、様々な文脈で用いられる損失と損害に関する概念を整理し、モデルでの推計方法についても検討する。

以上の計算を2001年から2100年までグローバルに行い、現状の適応限界を超えた損失と損害がいつ、どこで発生し始め、その後どの程度増大するかを明らかにする。またこれを排出シナリオ別に推計し、排出シナリオの違いによる損失と損害のリスクの違いも明らかにする。適応策については複数の導入レベルでの収量変化の推計も行い、それぞれの国・地域で導入効果の高い適応策などを明らかにする。以下に全体の計算設定を示す。

今年度の研究概要

【サブテーマ1】
・世界主要農作物を対象にまず基準となる適応策なしの場合について気候変動による収量変化を評価する。この際、灌漑水不足や洪水等による水を介した農作物影響に着目し、高温等による気候変動の直接的影響に比べて水を介した間接的影響の相対的な影響度を地域・時期別に明らかにする。
・UN-ESCAPと共同で農業分野の適応策の導入事例や文献、データ等を収集する。

【サブテーマ2】
・損失と損害について概念整理を行い、モデルを用いた推計・表現方法について整理する。
・経済被害額および死亡者数推計を行う国際経済・貿易モデルAIM/Hubについて、最新のデータを用いて改良を行う。

外部との連携

東京大学・中央大学・京都大学

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