私たちの消費とサプライチェーンを通じた資源の利用
【シリーズ研究プログラムの紹介:「資源循環研究プログラム」から】
「資源」と「繫がり」
持続可能な資源管理のために
近年、新興国の経済発展や先進国における技術革新等に伴って資源需給を取り巻く状況は急速に変化し続けています。この世界規模での経済成長に伴う急速な資源利用の拡大と地球環境の劣化を背景に、国連環境計画(United Nations Environment Programme, UNEP)では、国際資源パネル(International Resource Panel)を2007年に設立して、科学的な知見に基づいた包括的な議論を展開すると共に、持続可能な資源管理の重要性とその推進力としての経済成長と資源利用・環境影響のデカップリング(切り離し)の重要性を指摘しています[2]。他方、Hoekstraらは、経済成長に伴う環境容量(地球環境が持続可能であるための資源の消費や環境負荷の排出の許容量)の超過[3]を、Nassarらは、銅などを事例として、地政学的な影響等による資源の供給構造の不安定さ[4] を指摘しました。これらを踏まえると、現代社会においては、資源制約と環境制約を念頭に、資源利用のあり方を見直して、社会の持続可能性を強化する事が重要な課題となっていると言えます。
これらを背景に、資源循環・廃棄物研究センターでは、物質フロー・サプライチェーンの同定を進めると共に、環境問題を含めてサプライチェーンに内在する多様なリスク要因の把握と定量化、更には、それらの管理・改善のための戦略検討に取り組んでいます。例えば、温暖化対策技術などとも密接な関わりのある資源では、ニッケルを事例として資源採掘・製錬等により誘引される環境負荷の把握[5]、あるいは、ネオジム・コバルト・プラチナを事例として資源の供給に関わるリスクの同定[6] などを実施してきました。いずれの研究においても、私たちの生活が経済活動を通じて、資源産出国などの他国と密接な関わりを有している事を明らかにしてきました。また、資源の供給に関わるサプライチェーンには、供給の制約となり得るリスク要因が存在する事などを定量的に示してきました。
例えば、ニッケルについて、目に見えるところでは、自動車には、耐熱性・耐食性が求められる吸排気管の材料として、ステンレス(クロムやニッケルを添加した鉄系合金)が使われています。また、住宅の給湯機器や台所のシンクにもステンレスが利用されています。一方、目に見えないところでは、電気を発電するための施設にもニッケルは必要とされています。私たちは、火力発電等により発電された電気を利用していますが、この発電の為に、ニッケルを含む耐熱材料や耐食材料が使われています。このように私たちは多種多様な製品・サービスを介しニッケルを利用しています。このニッケルの産出国は、生物多様性が豊かな国や地域としても知られるインドネシアやフィリピン、ニューカレドニアなどが主要な産出国であり、日本はニッケルの鉱石・中間生成物等をこれらの国々から輸入して加工して上述の様々な用途に利用しています。他方、Jaffré[7] らあるいはMoran[8] らは、ニッケルの採掘活動に伴う動植物の生息域の汚染や破壊などの影響を指摘しています。ご存知のように、生物多様性の保全は、対策が緊要に求められている地球環境問題の1 つであり、他の資源の利用と同様にニッケルの利用においても配慮が必要な問題と言えます。つまり、私たちの生活は、経済活動を通じて、サプライチェーンに関わる様々な国や地域との「繋がり」、更には、地球環境との「繋がり」を有しているのです。
さて、私たちの研究センターでは、本年度から資源循環研究プログラムのなかで、「消費者基準による資源利用ネットワークの持続可能性評価とその強化戦略の研究」と題したプロジェクト(図1)をスタートさせました。将来像を含めて、日本の経済活動が誘引する資源利用と環境影響、サプライチェーンに内在する諸問題、更には、その管理方策等について研究を実施していく予定です。今後、随時、研究成果を公表していくと共に、より効果的な情報発信を心がける所存です。ご期待ください。
参考文献
[2]United Nations Environmental Programme, International Resource Panel, http://www.unep.org/resourcepanel/
[3]A.Y. Hoekstra and T.O. Wiedmann, Humanity’s unsustainable environmental footprint, Science, 344(2014), 1114-1117
[4]N.T.Nassar, et al., Criticality of the Geological Copper Family, Environ. Sci. Technol.,46(2012), 1071-1078
[5]K. Nakajima, et al., Global supply chain analysis of nickel importance and possibility of controlling the resource logistics, Metall. Res.Technol., 111(2014),339-346
[6]K.Nansai, et al., Global Mining Risk Footprint of Critical Metals Necessary for Low-Carbon Technologies: The Case of Neodymium, Cobalt,and Platinum in Japan,Environ. Sci. Technol., 49(2015), 2022-2031.
[7]T.Jaffré, et al., Threats to the conifer species found on New Caledonia's ultramafic massifs and proposals for urgently needed measures to improve their protection, Biodivers Conserv., 19(2010), 1485-1502.
[8]D.Moran, et al. On the suitability of input-output analysis for calculating product-specific biodiversity footprints, Ecological Indicators,60(2016), 192-201
[9]http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/genba/201307.html
[10] http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/kenkyu/201412.html
[11] http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/kisokouza/201210.html
[12] http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/kenkyu/201406.html
執筆者プロフィール
振り返ると小学生の頃に学研の科学雑誌「UTAN」を購読していたことが 環境問題に関心を持ったきっかけだったと思います。繋がる世代の人々に、関心の種を渡せる大人になれるように励みたいと思います。(当時は、遺跡を含めた古代文明の記事に目を輝かせていた子供でした。)
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