Essential Biodiversity Variables(EBVs:必須生物多様性変数)※1は、生物多様性の変化をモニタリングするための標準化・統合されたデータの枠組みであり、地球観測に関する政府間会合の生物多様性観測ネットワーク(GEO BON)によって生物多様性の階層構造に基づいて6つのクラス及び21の属性が定義されている。
本研究は、日本およびフィンランドにおける国レベルでのEBV枠組みの適用可能性を評価することを目的とし、EBVの算出に利用可能な一次データを整理した上で、日本のデータの充実度をGEO BONによるEBV定義、ヨーロッパ、及びフィンランドの既存のEBVリスト※2と比較することで明らかにした。さらに、一次データおよびEBVがグローバル指標の算出にどの程度寄与するかを検討するため、昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)の主要ターゲットの一つである「30 by 30」を事例として、その貢献度を明らかにした。
結果、日本・フィンランドの両国は多くのEBVクラスにおいて中〜高いデータ利用可能性を示した。また、データ提供機関として国家機関および科学コミュニティが重要な役割を担っている点も両国で共通していた。なかでも、日本では国立環境研究所(NIES)、フィンランドではフィンランド環境研究所(Syke)が、それぞれの国で3番目に主要なEBVのデータ提供機関となっていた(図:上段)。
また、日本と他地域の比較から、日本では特にフェノロジー、自然災害に関する独自のデータセットが豊富であることが明らかになった。一方、遺伝的多様性などのEBVクラスには依然として顕著なデータギャップが認められ、データ統合などにも課題が残っていた。
次に、KM-GBFの取り組みの一つである「30 by 30」に関する指標算出に対して、EBVがどの程度寄与するかを検討した結果、特に、種分布・生態系分布に関するEBVが貢献度の高いクラスであることが示唆された(図:下段)。ただし、利用可能なデータが指標自体の選択に影響を与えている側面も大きく、データギャップを解消した上で、よりバランスの取れた指標体系を構築することが課題である。
国レベルの生物多様性モニタリングを発展させるためには、標準化・統合されたEBVの整備、データ共有基盤の強化、政策部局との連携、さらに地域レベルの観測ネットワーク(APBON・EuropaBONなど)との協調が不可欠である。本研究のような地域間比較は共通点と相違点を明らかにすることで、世界的な生物多様性危機に対するより調和的で効果的な対応を促進する。

図:(上) 日本(左)とフィンランド(右)におけるデータ提供機関ごとの主要な一次データの数。色はEBVクラスの違いを示す。
(下) 日本における各EBVのデータセット(表形式データおよび空間データのみ、左)、EBVの属性(中央)、グローバルおよび国レベルの30 by 30指標(左)。色はEBVクラスの違い、太さはデータ数を示す。