カイヤドリウミグモ(Nymphonella tapetis)は、アサリなどの二枚貝に寄生する海洋性の寄生生物である。本種は2007年から2009年にかけて東京湾や三河湾で大量発生し、大きな漁業被害を引き起こしました。大量発生の原因を突き止めるためにはこの寄生生物の遺伝的な違いを調べ、各集団の遺伝的な特徴からその由来を明らかにする必要があるます。本研究では、次世代シーケンサーを用いて、この解析に必要なマイクロサテライトマーカー注の開発を行いました。
次世代シーケンサーによる解析の結果、全部で1095か所のマイクロサテライト領域が見つかり、この領域に36種類の有効なプライマーを設計しました。この中から、安定したPCR増幅が見られ、多様性の高い13ヶ所のマイクロサテライト領域を集団の遺伝的な構造解析に用いました。開発したマイクロサテライトマーカーを用いて日本の3つの地域(千葉県の富津と盤州、愛知県の三河湾)で採取したカイヤドリウミグモ集団を比較したところ、遺伝的な違いはほとんど見られず、同じ祖先に由来する可能性が高いと考えられました。さらに、富津で採取された集団は多くの対立遺伝子を持っていたことから、おそらく他の地域の集団の元になった可能性があると考えられます。千葉県と愛知県は直線距離で280km程度離れていること、また、カイヤドリウミグモには高い移動能力が備わっていないことから、カイヤドリウミグモの大量発生は養殖アサリの人為的な移動により引き起こされた可能性が高いと考えられました。