将来を予測する手段としてコンピュータシミュレーションは地球温暖化の予測や天気予報など、幅広い分野で利用されている。生態系の将来予測をコンピュータシミュレーションで実現できれば、自然再生事業の計画立案も低コストかつ短期間で行うことができると期待される。一方で、実際の生態系では、侵入種の繁茂やそれを根絶した後の生態系変化など、単純なモデルでは分析できない複雑な現象が存在しており、それに対応した複雑なプロセスを組み込んだモデルが求められる。
世界自然遺産の小笠原諸島では外来種の防除などの様々な自然再生事業が行われている。現在もグリーンアノール対策など、緊急に対処すべき問題を抱えている。
そこで本研究では小笠原諸島の生態系変化を予測することを目指し、そのために必要な海洋島生態系モデルを開発することにした。
このモデルは食うー食われる関係、競争、腐食連鎖などの様々な種類の生物間相互作用の他、動植物の遺骸の分解過程など、実際の生態系で働くプロセスを複数組み込んで生態系内の物質循環過程を精密に再現している(図1)。
図1:生態系モデルの模式図
グレーの枠は外来種を表す。
図2:(A)媒島(2012年6月30日)、(B)東島(2019年7月10日)、(C)西島(2023年7月10日)。
括弧内は撮影日。いずれも吉田勝彦撮影。
図3:(A)媒島、(B)東島、(C)西島の植生比の実測値とシミュレーションの結果(1000回のシミュレーションの平均値)の比較。
媒島のデータはHata他(2007)、東島、西島の植生比は小笠原アクションプランより。
図4:海鳥の個体数の比較
海鳥の個体数の比較。実測値のデータ(ヤギを駆除してから3年経過後)は鈴木他(2019)より