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地中海の島々でカモメがオリーブの種を運ぶ


論文情報
タイトル
Gulls contribute to olive seed dispersal within and among islands in a Mediterranean coastal area
カモメが地中海地域の島内及び島間におけるオリーブの種子散布に貢献する
著者
Haruko Ando, Víctor Martín-Vélez, Giacomo Tavecchia, Anna Traveset, Iciar Jiménez-Martín, José Manuel Igual, Alejandro Martínez-Abraín, Sandra Hervías-Parejo

*下線で示した著者は国立環境研究所所属
雑誌
Journal of Biogeography   DOI: 10.1111/jbi.14735 
受理・掲載
2023年9月14日受理、2023年10月4日オンライン掲載 オンライン公開への外部リンク
概要

 大型の鳥類や哺乳類が生息しない島嶼生態系においては、カモメなど果実を主な食物としない鳥類による種子散布も、植物の定着や分布拡大に重要な役割を果たしている可能性がある。本研究では、地中海地域に生息しオリーブを採食するキアシセグロカモメLarus michahellisが、スペインのバレアレス諸島においてオリーブOlea europaeaの長距離種子散布に貢献しているかどうか、またカモメの栽培オリーブへの適応がその種子散布パターンにどのような影響を及ぼすかについて調査した。カモメのGPS追跡データと種子の滞留時間と生存率を元にした種子散布モデリングによる推定の結果、カモメによる野生オリーブの種子散布距離は7.67(±12.48)km、栽培オリーブでは12.57(±13.08)kmであった。野生オリーブの7.1%、栽培オリーブの8.5%が異なる島へ散布された。野生オリーブが多様な島間に散布されたのに対し、栽培オリーブのほとんどはカモメのコロニーがある大きな島から小さな島へ運ばれており、実際にカモメのコロニーで多数の栽培オリーブの種子が確認された。カモメがオリーブ畑とコロニーを行き来することで生じる長距離散布により、栽培オリーブの野生化と分布拡大が生じる可能性がある。本研究は、カモメが島嶼生態系における重要な種子散布者であり、その採食行動が植物種ごとの種子散布パターンを変える可能性がることを示した。

バレアレス諸島の島内・島間において、カモメの採食によりオリーブの種子が散布された方向と割合。

図:バレアレス諸島の島内・島間において、カモメの採食によりオリーブの種子が散布された方向と割合。カッコ内の数字は島内での種子散布を示す。



写真:キアシセグロカモメ、コロニーでカモメが吐き出したオリーブの種子

写真:キアシセグロカモメ、コロニーでカモメが吐き出したオリーブの種子

写真:(上)キアシセグロカモメ、(下)コロニーでカモメが吐き出したオリーブの種子