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空間抽出下の遺伝的多様性指標の頑健性および頻度に依存しない新規多様性指標


論文情報
タイトル
Robustness of genetic diversity measures under spatial sampling and a new frequency-independent measure
空間抽出下の遺伝的多様性指標の頑健性および頻度に依存しない新規多様性指標
著者
青木聡志、石濱史子、深澤圭太
*下線で示した著者は国立環境研究所所属
雑誌
PeerJ   DOI: 10.7717/peerj.16027
受理・掲載
2023年8月13日受理 / 2023年9月18日 オンライン掲載 オンライン公開への外部リンク
概要

生物多様性の構成要素の1つである遺伝的多様性を推定する際には、種内の個体の無作為抽出(※脚注)を行うことが統計学上の前提である。しかし無作為抽出は実施が難しく、従来は研究者が主観的に選んだ地点で個体を採取し、多様性を推定していた。この従来法は上記の統計学的仮定を無視しており、推定された多様性が正確であるか不明であるという問題点があった。種内の多様性を網羅するような地点群を計算し、採取地点を客観的に決定できる空間抽出という方法が近年開発されたが、空間抽出が多様度推定に与える影響も十分検証されていなかった。

そこで著者らは空間抽出と各地点内1個体採取という条件下でシミュレーション実験を行い、統計学的仮定を無視して遺伝的多様性が正確に推定できるかどうかの検証を行った。また、この条件に適すると思われる新しい遺伝的多様性の指標も併せて開発した。新指標は従来のものより希少な遺伝子を重視しており、多様性の保全に適した性質を持っている。

実験の結果、新指標を含む3指標は平均で3%以内の偏りとなり比較的正確な推定が可能だった一方で、Watterson’s thetaという指標は平均で30%以上の過大推定となった(図1)。本研究は遺伝的多様性推定のための現実的条件を初めて示したものと言えるが、各地点内で複数の生物個体を利用したりWatterson’s thetaを正確に推定したりするにはさらなる研究が必要である。

※無作為抽出:調べたい集団のすべての個体が等しい確率で取り出される取り出し方。

各種条件下における遺伝的多様性指標の相対的偏り

図1:各種条件下における遺伝的多様性指標の相対的偏り。縦軸:遺伝的多様性指標の相対バイアス。0%に近いほど正確な推定といえる。横軸:シミュレーション条件5種。#1~4は異なる個体群構造の集団に空間抽出を使った場合、#5は単一集団で無作為抽出をした場合。
凡例:π:塩基多様度。ς:新指標。H:期待ヘテロ接合度。θ:Watterson’s theta。