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世界の湖沼と貯水池のプラスチックごみ


論文情報
タイトル
Plastic debris in lakes and reservoirs
世界の湖沼と貯水池のプラスチックごみ
著者
MVeronica Nava, Julian Aherne, Maria B. Alfonso, Ana M. Antao-Geraldes, Katrin Attermeyer, Roberto Bao, Mireia Bartrons, Stella A. Berger, Marcin Biernaczyk, Raphael Bissen, Justin Brookes, David Brown, Miguel Canedo-Arguelles, Moises Canle, Camilla Capelli, Rafael Carballeira, Jose Luis Cereijo, Sudeep Chandra, Sakonvan Chawchai, Soren T. Christensen, Kirsten S. Christoffersen, Elvira de Eyto, Jorge Delgado, Tyler N. Dornan, Jonathan P. Doubek, Julia Dusaucy, Oxana Erina, Zeynep Ersoy, Heidrun Feuchtmayr, Maria Luce Frezzotti, Silvia Galafassi, David Gateuille, Vitor Goncalves, Hans-Peter Grossart, David P. Hamilton, Ted Harris, Kulli Kangur, Gökben Başaran Kankılıç, Rebecca Kessler, Christine Kiel, Edward M. Krynak, Angels Leiva-Presa, Fabio Lepori, Miguel G. Matias, Shin-Ichiro S. Matsuzaki, Yvonne McElarney, Beata Messyasz, Mark Mitchell, Musa C. Mlambo, Samuel N. Motitsoe, S. Nandini, Caroline Owens, Deniz Ozkundakci, Solvig Pinnow, Agnieszka Pociecha, Pedro Raposeiro, Eva-Ingrid Room, Federica Rotta, Davide Sartirana, Nico Salmaso, SSS Sarma, Facundo Scordo, Claver Sibomana , Daniel Siewert, Katarzyna Stepanowska, Ülkü Nihan Tavşanoğlu, Maria Tereshina, James Thompson, Monica Tolotti, Amanda Valois, Piet Verburg, Brittany Welsh, Brian Wesolek, Gesa A. Weyhenmeyer, Naicheng Wu, Edyta Zawisza, Lauren Zink, Barbara Leoni
*下線で示した著者は国立環境研究所所属
雑誌
Nature  DOI: 10.1038/s41586-023-06168-4
受理・掲載
2023年5月4日 受理, 2023年7月13日 オンライン掲載 オンライン公開への外部リンク
概要

陸水域ではプラスチック片が広く存在するにも関わらず、海洋に比べて包括的な調査が立ち遅れていました。そこで、国際湖沼生態系観測ネットワーク(Global Lake Ecological Observatory Network:GLEON)のメンバー80人が協力して、世界38湖沼(図1)から、表層を漂うプラスチック片を標準化された方法を用いて定量的に採集し、その存在量と種類を分析しました。私たちも、霞ヶ浦長期モニタリングのプラットフォームを活用し、世界的なアセスメントに参加しました。主な調査結果は下記の通りです。

(1)プラスチック数密度
 表層を漂う全てのプラスチック片(>250μm)を合わせた数密度は、38湖沼を平均すると、1.82粒子/m3でした(図1)。しかしながら、タホ湖・ルガノ湖・マッジョーレ湖の3湖沼では、5粒子/m3以上という高い数密度が検出されました。これは、亜熱帯の海洋で報告されている数密度と同等あるいは高い値でした。霞ヶ浦は、1.52粒子/m3で、世界的な平均値に近い値でした。本研究から、陸水域では、海洋よりもプラスチック片の数密度が高くなるうる可能性を示しており、海洋への流出を防ぐ上でも、湖沼や流域におけるプラスチック汚染対策が重要であることが示唆されます。

図1:本研究で調査した38の湖沼と総プラスチック片の数密度の分布

図1:本研究で調査した38の湖沼と総プラスチック片の数密度の分布


(2)形態・色・化合物成分
 プラスチック片のうち、49.5%が繊維状のもの、41%が断片状のもの、4.8%がフィルム状のもの、その他は球体状やペレット状のものでした(図2)。割合の多かった繊維状のものでは、黒色や青色のものが多く、断片状のものでは透明や白色のものが多く含まれていました。こうした形態や色の違いは、原因特定にとっても重要ですが、生物への取り込み過程が異なる(例:ある魚類がある色のプラスチック片を選択的に捕食する等)ことが知られていることから、生物への毒性や影響を調べる上でも重要な情報となります。また、プラスチック片の化学成分を調べたところ、ポリエステルが30.4%、ポリプロピレンが20.3%、ポリエチレンが15.7%であることが分かりました。直接的な証拠はありませんが、ライフサイクルが短く、大量に生産されている製品に由来している可能性が示唆されました。
 霞ヶ浦のプラスチック片(図2)は、主に断片状のもの(52%)と繊維状のもの(26%)で構成されていました。主な化学成分はポリエチレン(56%) とポリプロピレン(27%)でした。

図2:世界38湖沼から検出されたプラスチック片の形態と色の割合(内側の円グラフは形態の割合、外側の円グラフは形態ごとの色の割合を示している)。右の写真は、実際に霞ヶ浦で採集されたプラスチック片の形態写真。

図2:世界38湖沼から検出されたプラスチック片の形態と色の割合(内側の円グラフは形態の割合、外側の円グラフは形態ごとの色の割合を示している)。右の写真は、実際に霞ヶ浦で採集されたプラスチック片の形態写真。


(3)要因
上記(1)で述べた総プラスチック片の数密度について、どのような要因が関わっているのかについても分析を行いました。統計解析の結果、2つの要因が大きく関係していることが分かりました(図3)。まず、面積が大きい湖沼(213 km2以上)では、総プラスチック片の数密度が高くなることが分かりました。面積が大きく湖沼では、一般的に、滞留時間が長いため、プラスチック片のトラップとなり、長い間蓄積している可能性も考えられました。次に、面積が213 km2以下の湖沼のうち、流域の人口密度が高い湖沼では、総プラスチック片の数密度が高くなることが分かりました(図3)。流域の人間活動と深く関連していることが示唆されました。

図3:総プラスチック片の数密度に関連する要因の分析結果
図3:総プラスチック片の数密度に関連する要因の分析結果