本文へスキップ

クイズ形式のオンライントレーニングツールは鳥類の鳴き声識別の学習に役立ち、市民科学をサポートする


論文情報
タイトル
Quiz-style online training tool helps to learn birdsong identification and support citizen science.
クイズ形式のオンライントレーニングツールは鳥類の鳴き声識別の学習に役立ち、市民科学をサポートする
著者
Ogawa, Y., Fukasawa, K., Yoshioka, A., Kumada, N., Takenaka, A., Ito, T.
*下線で示した著者は国立環境研究所所属
雑誌
PeerJ  DOI:/10.7717/peerj.15387
受理・掲載
2023年4月19日 受理, 2023年5月31日 オンライン掲載 オンライン公開への外部リンク
研究シーズ集掲載
連携にご興味がある方はこちらから オンライン公開への外部リンク
概要

生物多様性保全のための長期間・大規模なモニタリングに、市民の協力は不可欠である。市民が科学研究に参加するプロセスは市民科学と呼ばれ、飛躍的に発展している。市民科学プロジェクトでは、スキルを向上させるためにオンライントレーニングの利用が進んでいる。 クイズ形式のトレーニングは参加者のスキル向上に効果的だが、種同定におけるクイズ形式のオンライントレーニングの有効性は十分に評価されていない。

そこで私たちは、個々人によって学習方法が変化するなどの特徴から教育現場や企業などで用いられているアダプティブラーニングに着目し、アダプティブラーニングが、鳥類の鳴き声学習や鳥類への興味関心を高めるためのトレーニングツールの開発の指針となるとの仮説を立てた。この仮説を検証するため、クイズ形式のオンライントレーニングツール「とりトレ」を開発した。福島県で頻繁に鳴き声が聞かれる鳥類に対し、とりトレを実験的に適用し、鳴き声を聞き分けるテストの点数と参加者の意識を調べるアンケートを用いてトレーニングの有効性を検証した。

結果、とりトレを用いることでテストの点数と鳥類に対する意識が有意に向上した。しかし、アダプティブラーニングを応用し、個人のトレーニング履歴をもとに、覚えられていない鳴き声を優先的に出題するアダプティブトレーニングは、トレーニング履歴によらず無作為に出題するランダムのトレーニングに比べ、予想外にとりトレの得点や満足度が低くなった。要因としては、学習効率の低い(何回聞いても覚えられない)種が集中的にトレーニングに出題されたことが考えられる。改善の余地はあるが、とりトレがオンラインでの能力開発に貢献し、自然環境への関心を高めることが期待される。

※この論文の結果をもとにツールを大幅に改善し、公開版のとりトレを開発しました

野鳥のこえを学ぶ鳴き声学習ツール「とりトレ」 https://www.nies.go.jp/kikitori/tori-tore/index.html 



鳥類の鳴き声トレーニングツール

図1:鳥類の鳴き声トレーニングツールとりトレ のユーザーインターフェース (クイズトレーニングモジュールのクイズと答え合わせのインターフェース)。 (1) クリックして保存し、クイズトレーニングモジュールからログアウトする。(2) クイズ画面では鳥の音声が自動再生される。音を止める場合は「||」をクリックする。(3) マウスを選択肢の上に移動して色を変更し、種をクリックして選択する。(4) 選択した種が正しいか間違っているかが表示される。(5) ユーザーは選択肢ごとに音源を聞くことができる。(6) 鳥の鳴き声の解説を見ることができる。(7) 正解した写真が表示される。(8) 正しい音源のスペクトログラムが表示される。(9) ユーザーは自分の進捗状況を追跡できる。

事前テストからの経過時間 (日数) と各グループの点数の関係

図2:事前テストからの経過時間 (日数) と各グループの点数の関係。 縦軸は点数、横軸は事前テストからの経過日数を示す。青がアダプティブグループ、赤がベースライングループ、灰色の網掛けがトレーニング期間を示す。 中間テストは 3 日目に実施され、事後テストは 6 日目に実施され、遅延テストは 20 日目に実施された。合計スコアは 26 点であった。黒のアスタリスク (またはドット) は、中間テストから遅延テストまでの 2つのグループ間の点数の有意差を示し、青 (赤) のアスタリスクは、事前テストから中間テスト、中間テストから事後テスト、事後テストから後期テストまでのアダプティブグループ (ベースライングループ) の点数の有意差を示す。*** p < 0.001、** p < 0.01、* p < 0.05 、. p <0.1。