同類交配(似た者同士がつがう傾向)は、進化における重要な現象である。体の大きさに関する同類交配が生じるメカニズムは、いろいろ提唱されてきた。例えば、「オスは繁殖能力の高い大きなメスを選ぶ性質があり、メスの獲得競争において大きなオスは有利である」とすれば、大きいもの同士と小さいもの同士の交配が生じる。節足動物や魚類などではこの説を支持する報告がある。
しかし、そもそもメスの繁殖能力が体の大きさにあまり影響されない生物や、大きな体を持つことがオスにとって必ずしも有利でない生物では、上のようなメカニズムは当てはまらないと考えられる。体サイズの同類交配を生み出すメカニズムは、種や分類群によって異なるかもしれない。
タカやフクロウなどの猛禽類は一般的にオスがメスよりも小さい。オスが小さな体を持つことには、飛翔能力と採餌効率の向上という利点があるとされる。これは上述の、「大きな体を持つことがオスにとって必ずしも有利でない場合」の例と考えられる。ゆえに、猛禽類で体サイズに関する同類交配が生じている場合、そのメカニズムは、他の分類群のような「オスが大きな体を持つことの有利さ」では説明できない可能性がある。
そのメカニズムを調べるため、私たちはリュウキュウコノハズクの亜種ダイトウコノハズクOtus elegans interpositus(図1)の事例研究を行った。その結果、嘴(くちばし)と翼の長さに関して同類交配の傾向が見いだされた。出会いやすい配偶者候補の体サイズを統計的に考慮してもこの傾向は維持されたことから(図2)、彼らは積極的に体サイズに関して相手を選んでいることが示唆された。さらに翼が短いオスはより多くの子孫を残せる傾向や(図3)、翼の短いメスは早く縄張りに定着できる傾向も見いだされた。この結果は、小さなメスには、子孫を残すうえで有利な小さなオスを選ぶうえでの有利さがあること示唆する。
以上から「大きいオスが大きいメスを獲得する」ではなく、その雌雄の役割を逆転させた「小さいメスが小さいオスを獲得する」というメカニズムが、ダイトウコノハズクの体サイズに関する同類交配をもたらしている可能性が示唆された。本研究の成果は、体サイズに関する同類交配が生じるメカニズムの既存仮説の一般化に貢献するものである。
図1
リュウキュウコノハズクの南大東島固有亜種ダイトウコノハズク(環境省レッドリスト絶滅危惧II類)
脚についているのは個体識別用の足環。こうした標識をすることで、個体のつがい関係や生存率を明らかにできる。
図2
同類交配の存在を示す結果
体サイズに関する同類交配の傾向は、つがいのオスとメスの体サイズの相関係数をもって表される。本研究では、同類交配の傾向の存在を統計的に示すために無作為化検定を用いた。つまり、実際の個体からランダムな組み合わせで仮想つがいを作り出し(図中イラスト、大小は性別、濃淡は年齢)、それらから得られる相関係数の予測値の分布(図中ヒストグラム)と、相関係数の実際の値(図中矢印)を比較した。実際の値が、ランダムなつがい形成で予測される値より極端に大きいので、実際のつがいは有意に同類交配の傾向をもつことがわかる。 (a)から(c)はそれぞれ、ランダムなつがい形成を行う際に、(a)では全個体がランダムに、(b)では近くにいる個体がランダムに、(c)では年齢の近い個体がランダムに、組み合わさるようにして検定を行った場合の結果。個体の位置や年齢を考慮しても結果がほぼ変わらないことから、同類交配の傾向は近くにいる個体の大きさが似ていることや、年齢による大きさの違いでは説明できないことを示唆する。
図3
体の大きさが個体の適応度と関係することを示す結果
(a)は各つがいのオスの翼長と、そのつがいが一度の繁殖で生み出したヒナのうち巣立ちに至ったヒナの数の関係。黒丸と実線は、成鳥オス(2歳以上)のデータと回帰分析による平均の推定値。白丸と点線は、若鳥オス(1歳)のデータと回帰分析による平均の推定値。塗りつぶしは推定値の95%信用区間。(b)は各つがいのオスの翼長と、そのつがいが一度の繁殖で生み出したヒナのうち翌年以降に定着を確認できたヒナの数の関係。丸と線、塗りつぶしの意味は(a)と同じ。(c)は翼長とその個体の年間生存率の関係。実線と点線はそれぞれメスとオスの推定値。塗りつぶしは95%信用区間。全体的に翼が短い方が、残せるヒナの数や生存できる確率が高いことがわかる。