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爬虫類の5分の1以上が絶滅の危機に瀕していることが明らかに 世界の爬虫類の絶滅リスクに関する包括的評価を実施


論文情報
タイトル
A global reptile assessment highlights shared conservation needs of tetrapods
著者
Neil Cox, Bruce E Young, Philip Bowles, Miguel Fernandez, Julie Marin, Giovanni Rapacciuolo, Monika Bohm, Thomas M Brooks, S Blair Hedges, Craig Hilton-Taylor, Michael Hoffmann, Richard K B Jenkins, Marcelo F Tognelli, Graham J Alexander, Allen Allison, Natalia B Ananjeva, Mark Auliya, Luciano Javier Avila, David G Chapple, Diego F Cisneros-HerediaHarold G Cogger, Guarino R Colli, Anslem de Silva, Carla C Eisemberg, Johannes Els, Ansel Fong G, Tandora D Grant, Rodney A Hitchmough, Djoko T Iskandar, Noriko Kidera, Marcio Martins, Shai Meiri, Nicola J Mitchell, Sanjay Molur, Cristiano de C Nogueira, Juan Carlos Ortiz, Johannes Penner, Anders G J Rhodin, Gilson A Rivas, Mark-Oliver Rodel, Uri Roll, Kate L Sanders, Georgina Santos-Barrera, Glenn M Shea, Stephen Spawls, Bryan L Stuart, Krystal A Tolley, Jean-Francois Trape, Marcela A Vidal, Philipp Wagner, Bryan P Wallace, Yan Xie
*下線で示した著者は元国立環境研究所所属
雑誌
Nature 605, pages 285-290 (2022)
受理・掲載
2022年4月27日公開  オンライン公開への外部リンク       
プレスリリース
コンサベーション・インターナショナル・ジャパン(2022年4月27日公開) オンライン公開への外部リンク
概要

NatureServe, 国際自然保護連合(IUCN),コンサーベーション・インターナショナル(CI)が国立環境研究所を含む24カ国の多様な研究組織の協力のもと,初めてIUCNレッドリストに掲載される爬虫類の絶滅リスクを包括的に評価し、1万種を超える爬虫類の内、21%以上が絶滅の危機に瀕していることがわかりました.また,多くの爬虫類が他の四足動物の保全活動によって守られてきた可能性が高いことも判明しました.つまり,爬虫類が直面している問題は,両生類,鳥類,哺乳類が直面している問題と共通性が高いことを意味しています.

Nature誌に発表された本研究は,世界の爬虫類,10,196種の保全の必要性について哺乳類・鳥類・両生類と比較・分析したものです.これら爬虫類には,カメ,ワニ,トカゲ,ヘビ,そして約2億~2億5000万年まえの三畳紀に進化した系統で唯一現存するムカシトカゲが含まれています.

分析の結果,少なくとも1,829種,世界の爬虫類の21.1%が絶滅の危機に瀕している(“深刻な危機;CR”,“危機;EN”,“危急;VU”に分類される)ことがわかりました.爬虫類は他の四足動物とは異なり,砂漠や低木地などの乾燥地帯に生息することがよく知られています.そのため,異なる保全ニーズがあるとこれまで考えられてきました.しかし,全球評価が実施された本研究からは,乾燥地に生息する爬虫類の14%が絶滅の危機に瀕しているのに対し,森林に生息する爬虫類はその30%が絶滅の危機に瀕し,より絶滅リスクが高いことが判明しました.この結果は,森林の伐採や農地への土地利用変化といった人間活動が,他の四足動物同様に爬虫類の生息地を脅かしていることを示しています.これを反映して,絶滅が危惧される哺乳類・鳥類・両生類を保全するための取り組みが,絶滅の危機に瀕する多くの爬虫類の保全にも役立つ可能性が予想以上に高いこともわかりました.

一方で,本研究では,最も絶滅リスクが高い種,特に外来の捕食者に脅かされている島固有のトカゲや,人間からより直接的に悪影響を受けている種の保護には,緊急かつ的を絞った保全対策が依然として必要であることが指摘されています.例えば,カメやワニはその半数以上が絶滅の危機に瀕しています.これらの爬虫類においては生息地の改変よりもむしろ狩猟が主な脅威となっています.島嶼国である日本では,爬虫類の固有率が高く,特に琉球列島では面積の小さな島々や島嶼群に固有のトカゲやヘビが多種,生息しています.残念ながら世界の例にもれず,外来性哺乳類による捕食圧や生息地の改変・消失が懸念され,分布範囲が極めて限られた種で絶滅の脅威レベルが特に高くなっています.

本研究は,私たちが爬虫類の保全を怠れば,何を失うことになるのかも明らかにしています.爬虫類は他の四足動物に比しても多様な進化的系統を含んでいることから,絶滅が危惧される1,829種の爬虫類が絶滅した場合,私たち人類は156億年の進化の歴史,すなわち多様な環境で生き残ってきた生物の無数の適応の結果存在している多様性を失うことを意味しています.

今回の包括的評価の結果は,今後,絶滅リスクの変化を測定するためや,種の長期的な回復経過を追跡するための基準となります.また,生物多様性重点地域や,積極的な管理によって絶滅を防ぐことができる場所を特定することで,保全資源の配分の指針としても有用です.

爬虫類の包括的評価には 900 人以上の研究者が参加し,その結果が今回の分析に役立てられました.また包括的評価の一部は,国立環境研究所自然共生研究プログラム,気候変動適応研究プログラム,およびトヨタ自動車株式会社のIUCNレッドリスト評価事業への支援により実施されました.


【本研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 生物多様性領域
生物多様性評価・予測研究室 室長 角谷 拓
E-mail:kadoya(末尾に@nies.go.jpをつけてください)


爬虫類の分布
絶滅のおそれのある爬虫類の地理的分布.
IUCNのレッドリストで“深刻な危機;CR”,“危機;EN”,“危急;VU”にランクされている種が絶滅のおそれがある爬虫類とされます.種の豊富さ(Species Richness)とは,その地域に生息する種の数を指します.より暖色(赤色)になるにつれて絶滅のおそれのある爬虫類の種数が多いことを示しています.

図:日本の爬虫類
絶滅のおそれのある日本の爬虫類.
左から右に,クメトカゲモドキ(Goniurosaurus yamashinae),IUCNレッドリストのランクは深刻な危機;CR,ミヤコヒメヘビ(Calamaria pfefferi),IUCNレッドリストのランクは危機;EN,キシノウエトカゲ(Plestiodon kishinouyei),IUCNレッドリストのランクは危急;VU.