日本における耕作放棄の増加は食料安全保障や生物多様性保全に関して脅威の一つとなっています。
本研究では日本農林業センサスの個票データ(2005年、2010年、2015年)を用いて、個々の土地所有者が水田を放棄する意思決定に影響を与える社会経済的決定要因の解明を試みました。
分析の結果、低い農業収益が耕作放棄の主要な要因であることがわかりました。これは、ヨーロッパ諸国と同様の傾向にあります。一方、世帯内の専業耕作者の人口と水田耕作放棄の間には正の相関があり、これまでの知見とは異なる結果が得られました。 また、長期的に人の手によって形成されてきた生物多様性の高いモザイク状の景観(里山景観等)はその多くが農業を営むには条件が不利な地域ですが、そこに位置する水田の一部は放棄されない傾向にあることが示されました。
これらの知見は、半自然景観における生物多様性保全や農業生態系サービスの提供を両立させる政策立案に寄与するものになると考えられます。
図:耕作放棄された農地