福島第一原子力発電所の事故後、人が住むことができない帰還困難区域が設定されました。帰還困難区域ではイノシシ(Sus scrofa、図1)の増加が顕著になり、ここを中心としてイノシシが他の地域に広がることが懸念されています。
本研究では、福島県内のイノシシの遺伝子を詳細に解析し、県内のイノシシが県の中央部を流れる阿武隈川を境に2つの遺伝子型に分けられることを示しました。
福島県の人口は阿武隈川沿いに集中しているため、阿武隈川と市街地の両方がイノシシの移動と分散を妨げている可能性が示唆されました。
また、私達は、帰還困難区域を含む阿武隈川の東側に分布するイノシシ集団と、西側の集団について遺伝子の流れを推定しました。
その結果、東集団から西集団への遺伝子の流れのほうが、西集団から東集団への遺伝子の流れよりも大きいこと、東西の集団同士の遺伝子の交流よりも、東西それぞれの集団の中での遺伝子の交流の方が大きいことが示されました(図2)。東西の集団は阿武隈川と市街地を挟んでそれぞれ別の集団として維持され、互いの集団間での行き来が少ないことが予想されました(図2)
図1 福島県内で撮影されたイノシシ
図2 福島県内におけるイノシシ集団の遺伝子の流れ。
数値が大きいほど、流れが大きいことを示しています。阿武隈川をはさんだ東側(橙色)と西側(青色)の集団について、東集団から西集団への遺伝子の流れのほうが、西集団から東集団への遺伝子の流れよりも大きいこと、集団間の流れよりも、それぞれの集団内の遺伝子の流れの方が大きいことがわかります。