湖沼の結氷・開氷は、水質等の化学分析が行なわれるよりずっと古くから観察・記録されてきたため、100年以上にわたるデータが蓄積されています。結氷・開氷は、気候に大きく左右されるため、気候変動の影響を調べる上で非常に重要な観測データです。
本研究では、結氷・開氷に関する長期観測データ(107~204年)がある世界60湖沼を対象に、結氷・開氷のタイミング、結氷期間の長期的な変化について分析しました。その結果、この100年間に、平均して、結氷は11日遅く、開氷は6.8日早く、結氷期間は17日短くなっていることがわかりました。直近25年(1992年から2016年)の結氷・開氷の変化速度は、それ以前の約6倍でした。
さらに、結氷が遅く、開氷が早くなっているだけでなく、1995年以降、観測開始から1994年までの観測値の範囲を大きく逸脱するような異常に遅い結氷や異常に早い開氷が見られるようになったこと、また結氷しない湖沼の割合が増加していること、が明らかになりました(図1)。
図:結氷・開氷のタイミングと結氷期間の変化
図中のバーは、観測開始から1994年までの観測値の範囲(95%信頼区間)を示している。1995年以降の観測値で、
その範囲におさまらないイベント(過去と比べて、◯:異常に遅い結氷、□:異常に早い開氷、△:異常に短い結氷期間)
を水色の◯□△でそれぞれ示している。異常な結氷イベントが見られた湖沼では、バーを灰色で示しており、多くの
湖沼で、そうしたイベントが多く見られることがわかる。
写真:諏訪湖氷結の様子 提供:笠原里恵氏(信州大学理学部附属湖沼高地教育研究センター諏訪臨湖実験所)
論文の最も長い観測データの1つは、八剱(やつるぎ)神社の宮司らによって1443年から記録された諏訪湖のものです。
諏訪湖では、湖面が全面結氷し、その一部がせり上がり筋になる「御神渡り」と呼ばれる現象がみられます。神事や農作物の
収量予測のために550年以上も記録された続けた御神渡りのデータは、気候変動の記録として世界的に注目されています。