大陸と一度も繋がったことのない海洋島に植物が定着し、分布を広げるためには、大陸から島へ、そしてある島から別の島へ種子が運ばれなければならない。しかし、そのような長距離に及ぶ種子散布が生じるメカニズムについては十分に解明されていない。
カラスバト Columba janthina は、日本列島と朝鮮半島周辺の離島に生息し、生息地の島々を移動することが知られている。本種は主に果実を食べるが、強力な砂嚢を持っているため飲み込まれた種子の多くは破壊されると考えられてきた。しかしカラスバトの糞を分析した結果、全体の45%から破壊されていない種子が検出され、本種は無視できない頻度で種子を散布していることが明らかになった。また、伊豆諸島の八丈島と4km離れた八丈小島の間を、最大で1日延べ5000羽近いカラスバトが移動し、それに伴い島間を植物種子が運ばれることが確認された。各島での個体数の変化から、本種は伊豆諸島内のより遠い島へも移動していることが示唆されている。本種の飛行速度や種子の体内滞留時間を考慮すると、理論的には八丈島から伊豆諸島のほぼ全域に渡って種子が散布されうる。海洋島における植物の移動分散には、カラスバトのように移動性の高い鳥類が貢献していると考えられる。
一方、カラスバトに散布される種子の多くは、砂嚢での破壊を免れやすい小型のものであり、種類も限定されていた。大型あるいは柔らかい種子を持つ植物の場合、カラスバトが飲み込んだ種子のほとんどを破壊することで、その分布拡大に負の影響を及ぼしている可能性もある。カラスバトによる種子の散布と破壊が、植物の集団に与える影響についても、今後調査する必要がある。
写真:カラスバト Columba janthina
図:カラスバトの島間移動 (左) と糞から検出された植物種子 (右) の季節変化