東南アジア・インドシナ半島を流れるメコン川流域では水力発電を目的とする大規模なダム開発が進められています。今後数を増す大型ダムは、世界最大規模ともいわれるメコン川流域の漁業生産に大きな打撃を与えることが懸念されます。しかし一方で、ダム建設で生まれる広大な貯水池は新たな漁場となることも期待されます。
本研究では、メコン川流域に造られるダム貯水池の生物生産を予測するために、流域にある9つの湖沼と貯水池で2年間の観測を行い、これら水界の植物プランクトンによる一次生産量を推定、また一次生産速度に影響する環境因子の特定を試みました(図1)。その結果、一次生産量は40~302 gC/m2/年と推定され、一次生産の高い水界ほど漁獲量が高い傾向を認めました。また、一次生産速度に溶存態無機炭素(DIC)の濃度が深く関っていることを明らかにしました(図2)。DIC濃度は流域の地質と関係が深いため、ダム貯水池の地理的条件は、そこでの漁業生産を左右する要因のひとつであると考えられます。
図1:研究の全体像
図2:溶存態無機炭素(DIC)濃度と一次生産(PP)の関係
DIC濃度の高い水界ではPPが高くなる