本文へスキップ

日本全国の淡水温度の時空間変化;1982-2016年


論文情報
タイトル
Long-term nationwide spatiotemporal changes of freshwater temperature in Japan during 1982-2016
日本全国の淡水温度の時空間変化;1982-2016年
著者
Ye F., Kameyama S.イェフェン, 亀山哲 *下線で示した著者は国立環境研究所所属
雑誌
Journal of Environmental Management, 281, 111866 DOI: 10.1016/j.jenvman.2020.111866
受理・掲載
2020年12月16日 受理, 2021年1月4日 オンライン掲載 オンライン公開への外部リンク
概要

本研究は全国の河川・湖沼を対象とし、1982~2016年間の全水温データを用い、それらの変化傾向を解析して、個々のモニタリング地点の水温の変化傾向と変動を定量化したものである。具体的には線形回帰を用いて温度の変化率(トレンドバリュー)を決定し、Mann-Kendall検定※を使用して「年最高水温」と「年平均水温」の長期的な変化傾向を特定した。特徴としては、全モニタリング地点(環境省公共用水域調査地点;11,240地点)の中から、欠測値等の条件を基に解析地点を159地点に厳密にスクリーニングした点である。また本プロジェクトでは、将来的な流域管理や生態系モニタリングを目的として、有意な水温上昇または水温低下がみられた地点を特定し、変化率によってランク付けを行った。

結果では、解析した調査地点のほぼ半分(42%)で、年平均水温の上昇が確認できた。したがって将来的には、これらの場所の流域生態系は気温の温暖化による悪影響が増大する可能性がある。特に、水温の温度変化率は気温の温度変化率よりも高く、観測された水温上昇は気温の上昇(温暖化)だけによるものではないことを示している。

具体的な数値としては、個々のサイト間で、年最高水温の変化速度は-1.27から1.91℃(10年間)の範囲であり、年間平均水温の変化速度は-1.13から1.28℃(10年間)の範囲であった。また一方、我々の結果からは水温が低下している地点も明らかとなった。このような長期的な河川水温の「低下傾向」を報告している既存研究結果は日本国内ではほとんど存在しない。

本研究の貢献は、広範囲かつ長期的な河川・湖沼の水温に関する変動傾向を具体的に示し、流域生態環境に対する気候変動の影響を明らかにした点である。更に本成果は、水温変化の影響を受けている流域生態系のより効果的な管理を支援すると共に、気候変動による生物多様性の損失を最小限に抑えるために役立つと期待される。

※Mann-Kendall検定:ある変量の系列に対して,それが独立で同一の確率分布にしたがうという帰無仮説が成立するかどうかを検定する手法である。 この仮説が棄却されると,その系列は傾向変動をもつとみなされる。

淡水域の年平均水温の時空間変化

図:淡水域の年平均水温の時空間変化(1982-2016年)
各地点の色は変化の大きさと傾向を示す(Mann-Kendall検定、P <0.05)。
オレンジから赤になるにつれて大幅な増加傾向を表し、逆に、薄い青から紺色の地点は減少傾向を示す。
灰色の点は、有意な傾向が見られなかった地点。(スクリーニングの結果、11240地点中解析可能であった159地点のみ表示)