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熱帯樹木Shorea laxaの自然集団では長距離花粉散布は種子の二親性近交弱勢の回避に有効である


論文情報
タイトル
Long pollen dispersal prevents biparental inbreeding depression in seeds in a natural population of the tropical tree Shorea laxa 熱帯樹木Shorea laxaの自然集団では長距離花粉散布は種子の二親性近交弱勢の回避に有効である
著者
Takeuchi Y., Diway B.
竹内やよい、Bibian Diway
雑誌
Forest Ecology and Management, 489, 119063 DOI: 10.1016/j.foreco.2021.119063
受理・掲載
2021年2月10日 受理, 2021年3月1日 オンライン掲載 オンライン公開への外部リンク
概要

本研究は、熱帯樹であるShorea laxaの自然集団における種子の二親性近交弱勢を検出することを目的としました。

遺伝解析を行い、自然集団における他殖率と花粉散布距離を直接推定した結果、S. laxaは他殖率が高いこと、長距離の花粉散布が頻繁に行われていることが分かりました。構造方程式モデリング(図)では、種子親と花粉親の近縁度が増加するにつれて種子サイズが有意に減少することが明らかになり、二親性近交弱勢があることが示されました。また、種子親と花粉親の近縁度には種子親の内的近縁度および花粉飛散距離も影響していました。

これらの結果は、S. laxaの自然集団では種子の二親性近交弱勢を回避するためには長距離花粉散布が不可欠であることを示唆しています。土地利用改変や気候変動の影響で花粉散布パターンが変化すれば、繁殖成功度の大きな減少につながるので、本種の保全策には空間的な繁殖構造を考慮する必要があります。

※二親性近交弱勢:近交弱勢とは、遺伝的に近いもの同士の交配(近親交配)によって、潜性有害遺伝子がホモ接合化し、潜在していた有害な表現形質が現れ、適応度が下がることを指す。植物の場合は、自殖によって近交弱勢が発現しやすいと考えられているが、他殖によって引き起こされる場合もあり、それを二親性近交弱勢という。

Shorea laxaとその種子
写真:Shorea laxaとその種子

二親性近交弱勢

図:構造方程式モデリングによる種子サイズに影響する直接・間接要因の解析結果
種子親と花粉親の血縁度(RI)が低いほど種子サイズが大きくなる(二親性近交弱勢)。
また花粉散布距離が長いほど、RIが小さくなり、種子親の内的血縁度が高いほどRIは大きくなる。