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自然体験型ツーリズムにおける社会的ジレンマは社会的価値志向性に依存する


論文情報
タイトル
Social dilemmas in nature-based tourism depend on social value orientations
自然体験型ツーリズムにおける社会的ジレンマは社会的価値志向性に依存する
著者       
Honjo, K., Kubo, T.
本城慶多、久保雄広
*下線で示した著者は国立環境研究所所属で本論文の共同第一著者
掲載雑誌       
Scientific Reports, 10, 3730
DOI: 10.1038/s41598-020-60349-z       
受理日など       
2020年2月11日 受理、2020年2月28日掲載 オンライン公開への外部リンク
概要

自然体験型ツーリズム(nature-based tourism)の需要拡大に伴い、観光客の集中による自然環境の劣化が懸念されています。ツアーの過剰供給は、自然環境を基盤とするツアーの魅力を損ない、長期的にはツアー収益の減少を引き起こします。

このような社会的ジレンマの分析においてゲーム理論は有効なツールですが、これまでの研究では、経済主体が個人主義的に振る舞うという伝統的な市場観が無批判に仮定されてきました。 本研究では、心理学の分野で提唱された社会的価値志向性(social value orientations)の数理モデルを野生動物観察の2人非協力ゲームに応用し、ツアー事業者の性格特性(personality traits)がツーリズム市場の平衡状態に与える影響を評価しました。個人の性格特性にはさまざまなタイプがありますが、本研究では代表的な3タイプ(個人主義的、競争的、協力的)を仮定しました。解析の結果、市場が社会的ジレンマに陥るのは2人の事業者が共に競争的なタイプである場合に限られることが分かりました。少なくとも1人の事業者が非競争的、つまり個人主義的もしくは協力的であれば、ナッシュ均衡がもたらす収益配分はパレート効率を満たします。この結果は、自然体験型ツーリズムを対象とする社会的ジレンマの分析において、伝統的な市場観の限界と個人の性格特性を考慮することの重要性を示唆します。

野生動物観察ゲームのナッシュ均衡(2人のツアー事業者が共に競争的である場合)

図:野生動物観察ゲームのナッシュ均衡(2人のツアー事業者が共に競争的である場合)
注:返金保証係数は1-(返金率)で定義される値。
たとえば、返金保証係数が0.4であれば、野生生物に遭遇できなかったとき、事業者はツアー費用の60%を客に返還する。

専門用語
  • 非協力ゲーム:個人間の協力関係を仮定しないゲームの総称。各人は自身の利得を最大化するように行動する。
  • パレート効率:どの個人も他者の利得を減少させることなく自身の利得をこれ以上増加させられないとき、そのような利得配分はパレート効率を満たす。パレート効率は、社会的に望ましい利得配分が満たすべき条件のひとつとして考えられている。
  • ナッシュ均衡:どの個人も他者の行動に対して最適な応答をしている平衡状態のこと。ナッシュ均衡は非協力ゲームの解析で用いられる代表的な解である。