自然体験型ツーリズム(nature-based tourism)の需要拡大に伴い、観光客の集中による自然環境の劣化が懸念されています。ツアーの過剰供給は、自然環境を基盤とするツアーの魅力を損ない、長期的にはツアー収益の減少を引き起こします。
このような社会的ジレンマの分析においてゲーム理論は有効なツールですが、これまでの研究では、経済主体が個人主義的に振る舞うという伝統的な市場観が無批判に仮定されてきました。 本研究では、心理学の分野で提唱された社会的価値志向性(social value orientations)の数理モデルを野生動物観察の2人非協力ゲームに応用し、ツアー事業者の性格特性(personality traits)がツーリズム市場の平衡状態に与える影響を評価しました。個人の性格特性にはさまざまなタイプがありますが、本研究では代表的な3タイプ(個人主義的、競争的、協力的)を仮定しました。解析の結果、市場が社会的ジレンマに陥るのは2人の事業者が共に競争的なタイプである場合に限られることが分かりました。少なくとも1人の事業者が非競争的、つまり個人主義的もしくは協力的であれば、ナッシュ均衡がもたらす収益配分はパレート効率を満たします。この結果は、自然体験型ツーリズムを対象とする社会的ジレンマの分析において、伝統的な市場観の限界と個人の性格特性を考慮することの重要性を示唆します。
図:野生動物観察ゲームのナッシュ均衡(2人のツアー事業者が共に競争的である場合)
注:返金保証係数は1-(返金率)で定義される値。
たとえば、返金保証係数が0.4であれば、野生生物に遭遇できなかったとき、事業者はツアー費用の60%を客に返還する。