本文へスキップ

湿地による農業生産と水質のトレードオフの緩和


論文情報
タイトル
Role of wetlands in mitigating the tradeoff between crop production and water quality in agricultural landscapes.
湿地による農業生産と水質のトレードオフの緩和
著者       
Matsuzaki SS, Kohzu A, Kadoya T, Watanabe M, Osawa T, Fukaya K, Komatsu K, Kondo N, Yamaguchi H, Ando H, Shimotori K, Nakagawa M, Kizuka T, Yoshioka A, Sasai T, Saigusa N, Matsushita B, Takamura N
松崎慎一郎高津文人角谷拓渡邊未来、大澤剛士、深谷肇一小松一弘今藤夏子山口晴代安藤温子霜鳥孝一中川惠、木塚俊和、吉岡明良、佐々井崇博、三枝信子、松下文経、高村典子
*下線で示した著者が国立環境研究所所属
掲載雑誌       
Ecosphere 10(11): e02918
DOI: 10.1002/ecs2.2918       
受理日など       
2019年9月11日 受理、2019年11月19日掲載 オンライン公開への外部リンク
概要

畑地では、生産性を向上させるために施肥をおこないます。作物に利用されなかった窒素やリン等の栄養塩は、河川へ流出し、湖の富栄養化の要因となります。霞ヶ浦流域も例外ではなく、49小流域において、5回の河川水質調査をおこなった結果(図1)、季節に関わらず、畑地率が高い小流域では硝酸濃度(水質悪化の指標)が高いことがわかりました(図2)。しかし、畑地率が高いにも関わらず、硝酸濃度が低い(水質が良い)小流域も見つかりました(図2)。本研究では、畑地率も高く、硝酸濃度も低い流域を数値化し、それらの数値がどのような要因と関連しているかを分析しました。

その結果、ため池(図3)などの湿地率が高い小流域では、畑地率も高いにも関わらず、硝酸濃度が低いことがわかりました。湿地は、脱窒などを通じて窒素を除去する働きが広く知られていますが、流域スケールでもその効果が発揮されていることが示されました。本研究から、湿地の保全・再生が、農業生産と水質のトレードオフを緩和する可能性が示唆されました。湿地は、生物多様性の保全、洪水調整の観点からも重要であることから、湿地の保全・再生は多様な生態系サービスの維持にもつながることが期待されます。

※ 脱窒:微生物の活動により硝酸イオンなどの窒素化合物が還元され、窒素ガスとして大気中に放出される作用。

川での採水の様子の写真

図1:川での採水の様子
霞ヶ浦の49小流域で見られれた畑地率と硝酸濃度の関係のグラフ
図2:霞ヶ浦の49小流域で見られれた畑地率と硝酸濃度の関係
正の相関関係が認められる一方、バラツキも見られます。畑地率が高いにも関わらず、
硝酸濃度が低い(水質が良い)小流域があることに注目(例:オレンジの矢印で示した小流域)。



霞ヶ浦流域にあるため池の写真

図3:霞ヶ浦流域にあるため池
脱窒などの水質浄化機能が高い。