光化学オキシダントの主成分であるオゾンは、現在最も大きな影響を植物に及ぼしている大気汚染物質の一つであるが、それに対する植物の反応はまだよくわかっていない。その解明を目的に我々が単離したオゾンに弱いシロイヌナズナの突然変異体の一つについて調べた結果、そのオゾン感受性が、光呼吸と呼ばれる代謝系*の酵素の遺伝子の損傷に起因することがわかった。光呼吸は強光条件下などにおいて細胞内がエネルギー過剰になるのを防ぐ役割を果たすとされており、本研究により、オゾンによるストレスの緩和にも機能していることが明らかになった。
光呼吸と呼ばれる代謝系:光合成の炭酸固定反応系(カルビン回路)に属する酵素リブロースビスリン酸カルボキシラーゼ(Rubisco)が酸素と反応することで生じるホスホグリコール酸をカルビン回路の基質であるホスホグリセリン酸に変換する反応系。
光呼吸系酵素を欠く突然変異体のオゾン感受性
A. 可視障害の有無 上列:対照(オゾン処理なし)、下列:オゾン処理後
B. 葉からのイオン漏出量(障害の程度を示す) 左図:対照(オゾン処理なし)、右図:オゾン処理
Jw, Col-0: 野生型
gox1&2: グリコール酸オキシダーゼを欠く変異体
ggat1-1: グルタミン酸:グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼを欠く変異体
hpr1-1: ヒドロシキピルビン酸レダクターゼを欠く変異体
光呼吸系酵素の突然変異体がオゾン感受性になるメカニズム(仮説)
野生型の植物では(左図)、強光下において光合成の電子伝達系により生成するエネルギー物質(NADPHとATP)が炭酸固定や光呼吸により消費され、過剰に蓄積されることはない。ところが、光呼吸系変異体(gox1&2,
hpr1-1)では(右図)、光呼吸や炭酸固定(カルビン回路の基質枯渇による)が阻害されるため、これらのエネルギー物質が十分消費されずに過剰蓄積する。その結果、電子伝達の流れが悪くなり、電子が酸素に受け渡されて活性酸素が多く発生する。この葉緑体における活性酸素生成とオゾンによる細胞外での活性酸素生成が同時に起こると、遺伝的プログラムにより細胞死が誘導される。したがって、光呼吸は、強光下において、オゾン等のストレス因子に対する植物の耐性にたいへん重要な役割を担っていると考えられる。
HL:強光、N:核、O3:オゾン、PET:光合成電子伝達系、ROS:活性酸素