「3Dふくしま」って?
「3Dふくしま」は、立体地図へのプロジェクションマッピングによって、専門的な研究成果の科学データを子どもにも大人にもわかりやすく「見える化」した展示コンテンツです。
1コンテンツあたり約2分で人と自然と社会とのかかわりを解説した本展示は、福島県三春町にあるコミュタン福島で、2020年8月に展示を開始して以来、来場者からも好評を得ています。
これまでに、8つのコンテンツを公開しました。
福島県のリアルな大型3D地図(縮尺12万5千分の1、東西約1.4m、南北約1.1m)の上に地理・社会情報、放射線量、野生動物の生息状況、温暖化影響などのアニメーションを超高解像度で精細に映し出し、人と自然と社会とのかかわりをナレーションによって解説しています。
「3Dふくしま」特設サイト
https://www.nies.go.jp/fukushima/3D/
地域を解析、未来を予測、初の福島県プロジェクションマッピング「3Dふくしま」~大型3D地図に映し出す画期的なデータ映像をコミュタン福島で展示開始
https://www.nies.go.jp/whatsnew/20200806-2/20200806-2.html
コミュタン福島がリニューアル工事へ。どうする?
2022年の秋から冬にかけて、「3Dふくしま」が展示されているコミュタン福島がリニューアル工事に入ることが予定されていました。
この工事期間中、コミュタン福島の展示室には入れません。
この期間中に「3Dふくしま」をどこかで展示できないだろうか、と考えました。
科学や自然の展示と言えば、博物館。
会津若松市にある福島県立博物館はどうだろう—
「3Dふくしま」の開発者の五味室長、コンテンツ制作担当2名で早速県立博物館に相談することにしました。
研究者でもあり、展示のプロである博物館の学芸員さんたちとの打合せは盛り上がり、とんとん拍子に話が進みました。
せっかくの機会なのでコラボレーションした新しいコンテンツも作れないか—という新たなミッションも生まれ、秋の展示までにコンテンツ制作もすすめることになりました。
新しいコンテンツを作ろう!
新しいコンテンツにどんなものを制作するのが良いだろう。
福島県立博物館の「ポイント展*」では、企画展示室前の入館すぐの場所に「3Dふくしま」を展示してもらう予定となりました。
福島県を代表する博物館の入り口にふさわしいコンテンツを追加しようと、ブレストミーティングを重ね、専門家の元を訪ね、コンテンツ制作のためのヒアリング調査へも出かけました。
紆余曲折を経て、新しいコンテンツが2つ完成しました。
人文学分野と自然科学分野を融合させたコンテンツとして「福島の地形と製鉄遺跡~古代の鉄の産地~」を、福島県立博物館監修と、まほろん(福島県文化財センター白河館)の協力のもと製作しました。
もうひとつは、導入にふさわしく、基本的な福島県の地理情報を知るためのコンテンツ「福島県の地理」です。
国立環境研究所は、3Dふくしまのコンテンツを拡充するために2022年4月から6月にかけ、クラウドファンディングで資金を募集し、目標額に到達しました。
この2つのコンテンツの開発と追加に、この資金を活用し、多くの人の支援と思いが詰まったコンテンツの完成となりました。
*ポイント展:福島県立博物館の収蔵品を中心に、特別に公開する資料などを1点から紹介する小規模展のこと。
オンライン対談会で立体模型展示の可能性を考える
今回の福島県立博物館での「3Dふくしま」の出張展示は、2020年に常設展示が開始されてから初めてのことでした。
2022年11月1日から2023年2月26日まで行われた展示の記念イベントとして、オンラインでの対談会を展示終了間際の2月下旬に行いました。
対談者の五味室長から3Dふくしまの概要、筑波主任学芸員から立体地図展示についての報告をしてもらったのち、「地形模型を使ったプロジェクションマッピング展示の可能性」というトークテーマで対談を進めてもらいました。
参加者の一人から、「どこが3Dふくしまの面白いポイントでしょうか」という質問がありました。
その分野の専門家ではないのですが、という前置きをしつつ、五味室長が
「研究していての面白さとして、自分で何か法則などを見つけたりしたときに確信を得たり、納得したり、喜びを感じるということがあります。
それを追体験してもらうところに3Dふくしまの面白さがあるのかもしれません。」
「コミュニケーション、対話するためには、相手から言葉を発してもらわないといけません。
ただ発信するだけでは一方向でしかないわけです。
コミュニケーションが生まれるためには、目を引くもの、もっと知りたい、というコンテンツの質の高さは重要だと思います。
そういう意味で、3Dふくしまの展示は、言葉を発するためのいいフックになっているのだと思います。」
と答える場面がありました。
ひらめきの追体験、対話が生まれる展示—
これに呼応して、筑波主任学芸員からはあるエピソードの紹介がありました。
「博物館は共に学ぶ場であってほしいと常々考えています。
ある時、ある家族が、3Dふくしまを囲んで見ていて、お父さんが自分の言葉で、自分の地域を説明する姿がありました。
自分のストーリーを、展示を見ながら語ることができていたわけです。
模型を囲んで会話ができる。
専門家が出てきて解説するのではなく、来館者同士で会話が始まるという、アクティブラーニングの要素もあって、いい展示だと思いました。」
また、「人の営みは、川の流れによって形作られているところがあり、地形と暮らしの関連をほかのコンテンツでも出来たら面白いですね」
と、これからの新たなコンテンツ制作への希望もとび出しました。
これを受けて、先ほどの質問者から「身体感覚。身体的なことであれば、誰でも答えられる。答えられる問いかけ、それができる展示であることが大事なのですね。」とのコメントもありました。
まとめ
福島県立博物館側の受け入れを担当してくださった筑波主任学芸員から、「今回の展示は、互いの得意分野を合わせて出来たコンテンツで、まさに「協働」というのだろう。」という言葉もあり、今後、地図模型を活用した防災教育などへの展開の期待も語られました。
執筆者は、コンテンツ制作にもかかわってきましたが、今回の福島県立博物館での「3Dふくしま」の出張展示が地域に根差した研究所や博物館として、今後の協働プロジェクトのきっかけになれば嬉しいと感じました。
◆オンライン対談会登壇者
- 筑波匡介 福島県立博物館 学芸課 主任学芸員
- 新潟県中越地震の伝承施設である中越メモリアル回廊の整備と運営に関わったのち、福島県立博物館の震災遺産を担当。2020年より災害分野を担当し、地域の学校等で防災教育を手法とした教育普及に取り組んでいる。
- 五味馨 福島地域協働研究拠点 地域環境創生研究室長
- 京都⼤学⼤学院⼯学研究科、2016 年より国立環境研究所 福島地域協働研究拠点に着任。専⾨は地域統合評価モデルによるシミュレーションを活⽤した持続可能な将来社会ビジョン。3Dふくしま開発者。
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参考文献
- Young S., Balluz L., Malilay J. (2004) Natural and technologic hazardous material releases during and after natural disasters: a review. Science of the Total Environment, 322, 3-20