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インタビュー

問いを道標に進む —自分のペースで築いた、しなやかなキャリアのかたち—|三成映理子

東京電力福島第一原子力発電所事故で生じた除去土壌等の県外最終処分に向けて、減容化技術の研究に取り組んでいる三成 映理子博士。
三成さんが研究の道に進んだのは、大学卒業後に就職した会社での業務の中で感じた素朴な疑問がきっかけだったと言います。

三成さんのこれまでの歩みや研究への思いについて伺いました。

インタビューにこたえる三成研究員

主体性を大切にする環境で伸びやかに成長

——小さい頃はどんなお子さんでしたか? 今のご自身にもつながるような、子どもの頃のエピソードがあれば教えてください。

子どもの頃の私は、いわゆる「マイペース」な性格だったと思います。
まわりと比べるというよりは、自分の中にある興味や疑問を大事にする子どもでした。
それは今でもあまり変わっていないように思います。

そうした性格の背景には、やはり育った環境が影響しているのかなと感じています。

中学・高校は女子校で過ごしたのですが、性別にとらわれない自由でのびのびとした空気があって、先生や友人たちもそれぞれの個性を大切にしていました。
学校生活の中で、自分の意見をしっかり持つことや、まわりと違っていても自分らしくいることが自然と身についていったように思います。

幼少期をアメリカで過ごした経験も大きかったかもしれません。
いろんな背景を持つ人たちに囲まれた環境に身を置くことで、多様性を当たり前のものとして受け入れる感覚が、知らず知らずのうちに自分の中に根づいたのかなと、今振り返って感じています。

剣道で身につけた『守破離』

——中学・高校時代、部活などはされていましたか?

中高時代は剣道部に所属していました。

剣道を通じて、肉体だけではなく、集中力や粘り強さ、そして精神的なタフさが鍛えられました。
剣道は相手と対峙する競技ではありますが、それと同時に自分自身と深く向き合う競技でもあります。

剣道の修行の過程を表す考え方に「守破離」というものがあります。
「守」は基本を忠実に守ること、「破」はそれを破って自分なりに工夫して自立していくこと、そして「離」は自分らしいスタイルを築いていくことを指します。

この「守破離」という考え方は、研究に取り組んでいるときにも意識する場面が多いです。
研究では、新しいことに挑戦したり、研究資金の獲得に向けて積極的に動いたりと、つい前に進むことばかりに意識が向きがちになるのですが、だからこそ一度立ち止まって、基礎に立ち返りながら丁寧に学び直すこと、自分の研究を少し引いた視点から見つめ直すことの大切さを、あらためて感じています。

挑戦する姿勢と、足元をしっかり固める姿勢、その両方のバランスを大切にしていきたいと日々意識しながら取り組んでいます。

三成研究員の研究デスク
三成研究員の研究デスク

民間企業からアカデミアに飛び込むきっかけとなった素朴な疑問

——大学卒業後は民間企業に就職されたそうですね。安定した環境を飛び出して大学院に入り直したきっかけはなんでしたか?

学部を卒業する時点では、まだ自分の中で明確な研究テーマや問題意識を持ちきれず、大学院に進学する決断には至りませんでした。
そこで、まずは実社会で経験を積もうと考え、就職の道を選びました。

就職活動を通して自分の興味や関心と向き合う中で、エネルギー分野に関わる仕事がしたいと考え、総合電気機器メーカーに入社しました。
そこで6年間勤め、再生可能エネルギー関連の事業などに携わりました。

ポスターセッションで来場者に説明する三成研究員
福島県環境創造センター成果報告会でのポスターセッションの様子

大学院進学を考えるようになったのは、ある再生可能エネルギーのプロジェクトで感じた違和感がきっかけでした。
そのプロジェクトでは、民間住宅の屋根に設置された太陽光パネルの発電量が地域の需要を上回った場合、その余剰電力を蓄電池に貯めて活用しようという構想がありました。
しかし、蓄電池は電力を蓄えてから取り出す際に必ずロスが発生し、100%のエネルギーを再利用できるわけではありません。

そのとき、「環境にやさしいとされる技術でも、本当に環境負荷を抑えられているのだろうか?」という素朴な疑問が浮かびました。
本当の意味で環境負荷の少ないエネルギーとは何か、エネルギーシステム全体としてどうあるべきなのかといった大きな問いに、もっと深く向き合ってみたいと思うようになり、大学院への進学を決意しました。

エネルギーシステム全体を考えるとき、避けて通れない廃棄物の問題

——大学院ではどんな研究に取り組まれましたか。

大学院では、高レベル放射性廃棄物を地層処分する際の安全評価に関する研究を行っていました。

エネルギーシステム全体を俯瞰して見たときに、原子力は安価で安定的に稼働するベースロード電源として重要な役割を果たしています。
ただその一方で、放射性廃棄物は廃棄物の中でも特に取り扱いが難しく、どこでどのように処分すべきかという課題はまだ解決されていませんし、社会的な懸念も根強くあります。

そうした背景を踏まえ、高レベル放射性廃棄物の処分という「終わり」の部分に着目することで、むしろエネルギーシステム全体を改めて捉え直すことができるのではないかと考え、このテーマに取り組むことにしました。

研究者として県外最終処分の実現まで並走したい

——現在、三成さんは福島第一原発事故に伴い発生した除去土壌等の県外最終処分に向けて、減容化技術のシナリオ評価について研究されています。放射性廃棄物という点では大学院時代の研究とも共通する部分があるように思いますが、直接的な延長ではない印象も受けます。現在のテーマに取り組まれるに至った背景には、研究を続ける中で何か転機や気づきがあったのでしょうか。

大学院で研究を進めるうちに、高レベル放射性廃棄物の最終処分というテーマは、実現までに非常に長い年月がかかる分野なのだということを痛感しました。
関わっている多くの方々が粘り強く取り組んでいらっしゃる姿も印象的で、私自身もそうした意識を胸に研究を行なっていました。

ただ一方で、心のどこかで「自分の人生の時間軸の中で、社会の変化に立ち会えるような研究にも携わりたい」という気持ちも抱いていました。
そんな中で、福島県で発生した除去土壌等について、2045年までに県外での最終処分完了を目指しているという目標を知って、「このスケジュールであれば、自分も研究者としてその実現に並走し、完了を見届けることができるかもしれない」と感じました。
そのときに、自分の中で初めて明確な目標と、使命感のようなものが芽生えました。

それまでは、学位取得後のキャリアに対してどこか漠然とした不安があったのですが、その瞬間に迷いが晴れ、「国立環境研究所でこの分野の研究に取り組みたい」と進路を決めました。
今、研究者としてこの場所にいるのは、あのときの決意があったからだと感じています。

インタビューにこたえる三成研究員
インタビューにこたえる三成研究員

成果だけでなく、研究プロセスそのものも価値がある

——日々の研究の中で、大変だと感じることや、やりがいを感じる瞬間について教えてください。

研究というのは本当に失敗の連続で、特にシミュレーションモデルのエラー修正や複雑なパラメータの設計、膨大なデータの整理など、地道で根気のいる作業が多く、ちょっとしたミスで何日もかけた結果が台無しになることもあります。
想像以上に粘り強さが求められる仕事だと実感しています。

それでも、自分の中に生まれた疑問に対して、自分の手で答えを探していけるという点が、研究の一番の魅力だと思っています。
仮説を立てて、それをシミュレーションで検証していく中で、予想もしなかったパターンや結果に出会えたときの達成感は、何ものにも代えがたいです。
その一つひとつが、自分の研究が社会に新しい視点を提供できるかもしれないという実感につながって、日々のモチベーションになっています。
うまくいかない時期も含めて、研究というプロセスそのものが、自分にとってはとても価値のある経験だと感じています。

また、これまでの経験を通じて改めて大切だと感じているのは、行き詰まったときには誰かに相談することです。
研究に限らずどんな業務でも、何かに迷ったら一人で抱え込まずに、壁打ちのつもりで人に話してみることで、新たな視点や突破口が見えてくるのではないでしょうか。

賞状を持つ三成研究員
環境放射能とその除染・中間貯蔵および環境再生のための学会 最優秀口頭発表賞(2024年度)受賞時

福島は「回復力のある土地」

——福島での研究に携わる中で、どのようなことを感じてこられましたか?

福島というと、どうしても震災や原発事故のイメージがつきまとう一方で、実際に現地に足を運ぶと、地域の方々が前向きに新たな暮らしを模索し、力強く歩みを進めておられるのを肌で感じます。
そうした姿からは、本当に強い回復力を感じますし、これまで何度も、研究を通じて心を動かされてきました。

来場者に説明を行う三成研究員
NEW環境展で取り組みを説明する様子

特に印象的だったのが、飯舘村長泥地区での再生利用の取り組みです。
「自分たちの地域で取り組みを受け入れることが、世界でも前例のない、放射性物質を含む土壌の再生利用に向けた実証となるのではないか」という提案が、地元住民や自治体の側から先駆的に発せられたことに深い感銘を受けました。
国の方針にただ従うのではなく、地域から未来に向けた声が上がっていくことに、強い希望とエネルギーを感じました。

福島に根を下ろして暮らす皆さんは、強い意思と覚悟を持ってその土地に向き合っておられると感じ、そうした生き方には深い敬意を抱いています。
研究者として、県外最終処分の達成に向けた今後の道筋を考える際には、科学的な成果を正確に伝えるだけでなく、地域に寄り添う姿勢と共感が欠かせないと感じています。

可能性はいつでもひらかれている

——最後に、若い世代の方へのメッセージをいただけますか。

自分自身の経験から思うのは、高校生や大学生のときの選択がすべてではない、ということです。
進路やキャリアは固定的に考える必要はなく、後からでも変えていいし、実際に変えられるものだと実感しています。
私自身は研究の道を選びましたが、それもあくまで多くの選択肢の中のひとつにすぎません。

思い詰めすぎずに、自分の興味や信念を大切にしながら、自分のペースで進んでいくことが何より大切だと感じます。
遠回りや失敗も、あとから振り返ればちゃんと意味のある経験になっていることが多いと思います。

私は今は二人の子どもを育てながら働いているので、以前のように思う存分研究に打ち込むというわけにはいきません。
でも、他人や過去の自分と比べて落ち込むのではなく、「今の私は新しい自分になったんだ」と切り替えて、自分に合った形やペースを見つけて、少しずつでも前に進んでいくことを大事にしています。
たとえ細々とでも続けていくことが、強さにつながっていくと信じています。

デスクの前で笑顔の三成研究員

研究者プロフィール

国立環境研究所 資源循環領域 資源循環基盤技術研究室 研究員
三成 映理子(みなり えりこ)

学部卒業後、三菱電機株式会社に入社し、電力産業システム事業に従事。その中で廃棄物問題や環境負荷の低減に関心を持ち、東京工業大学(現・東京科学大学)大学院にて環境工学・原子核工学を学び、修士・博士課程を修了。博士(工学)。2022年4月より国立環境研究所に所属し、県外最終処分の実現に向け、福島の除去土壌や廃棄物を対象とした技術システムのシナリオ研究に取り組んでいる。

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