東京電力福島第一原子力発電所(以下、福島第一原発)事故後に行われた除染作業等によって福島県内で発生した大量の除染土壌等。
そのうち、中間貯蔵施設に運ばれたものは、2045年3月までに福島県外での最終処分を実現することが住民との間で約束されています。
県外最終処分の実現に向け、除去土壌と廃棄物の容積を減らす「減容化」が必要となりますが、減容化には多様な手法と組み合わせがあり、選択する技術によってそれぞれメリット・デメリットがあります。
今回は、異なる減容化技術を用いた場合の将来シナリオを想定し、それぞれのシナリオごとの効果やコストなどの分析に取り組む国立環境研究所の三成さんにお話を伺いました。
除染作業に伴い発生した大量の除去土壌等
福島第一原発事故後、人間が生活空間で受ける放射線量を迅速に下げるために、放射性物質を取り除く除染作業が各地で行われました。
除染作業で除去された土壌(除去土壌)と、除染作業で排出された廃棄物(除染廃棄物)はあわせて「除去土壌等」と呼ばれ、現在、大量の除去土壌等が中間貯蔵施設に保管、処理されています(図1)。
現在、中間貯蔵施設には、8,000Bq/㎏以下の放射能濃度の低い除去土壌が約1,070万m3、8,000Bq/㎏超の高濃度除去土壌が約230万m3保管されていると推計されています。
政府は8,000Bq/kg以下の放射能濃度の低い除去土壌は再生利用を推進する方針を打ち出しています。
8,000Bq/kgという基準は最も影響を受けやすい埋立作業者でも、年間追加被ばく線量が 1ミリシーベルト以下となる数値で、すでに再生利用実証事業も開始しています。
2045年3月までの県外最終処分実現の鍵を握る減容化
高濃度除去土壌や除染廃棄物等は、最終的には、人間活動や環境への影響を極力抑える処理をした上で、主に最終処分場で埋立処分する必要があります。
これを最終処分と呼びます。
政府は、中間貯蔵開始後30年以内(2045年3月まで)に、除去土壌等の県外最終処分を完了するために必要な措置を講ずることを法律で規定しており、現在、その実現に向けた技術開発が進められています。
大量の除去土壌等の最終処分を達成する上で鍵を握る技術が、容積を減らす「減容化」です。
8,000Bq/kg以上の高濃度除去土壌の減容化では、放射能濃度の低減効果が高い分級および熱処理(溶融や焼成)が想定されています(図2)。
溶融処理によって、廃棄物は溶融炉の中で一度溶けた後、炉外にて冷えて固まります。
この生成物を、溶融スラグと呼びます。
溶融する過程で、廃棄物から放射性物質が揮発するので、スラグの放射能濃度は低くなります。
一方、揮発した放射性物質は溶けやすい状態で煤じん「熱処理飛灰」に濃縮されます。
三成さんたちは、この熱処理飛灰を安全に減容化する技術について研究しています。
除去土壌を粒子の大きさによってふるいわけ(分級)、放射性物質が多く付着している小さな粒子を抽出することで、再生利用可能な8,000Bq/kg以下の放射能濃度の低い除去土壌を得ることができる。8,000Bq/kg超としてふるい分けられた土壌は熱処理によって減容化でき、放射能濃度の高い熱処理飛灰が得られる。
量を減らせば濃度が高まり、濃度を下げれば量が増える——減容化技術のトレードオフ
熱処理飛灰の減容化技術にはさまざまな選択肢がありますが、減容化の度合いによってその後の管理方法や気を付ける点が変わってきます。
三成さんは、選択する減容化技術によって社会や環境への影響がどのように異なるか研究を行っています。
「熱処理飛灰処理・処分の選択肢となる要素技術については、2024年度末までに洗い出して検証するという国の目標のもと、研究開発が進められ、現在、おおよそ要素技術が出揃った段階です。
全ての技術にはメリットとデメリットがありますので、それぞれの特徴を踏まえた上でどの技術を選ぶか判断する必要があります。
私たちは、その判断材料となる知見を提供する研究を行っています」
減容化すればするほど容積は減りますが、放射能濃度が高まります。
一方、減容化しなければ膨大な量の灰を最終処分しなければならないというトレードオフがあります。
いずれも存在する放射性物質の量は変わらないのですが、選ぶ技術によって管理の方法や期間は大きく変わってきます。
そのため、この濃縮の度合いについて、さまざまな影響を加味した議論が進められています。
非濃縮(減容化しない)の場合は、熱処理飛灰をそのままセメントなどで固型化します。
濃縮のための新たな施設の設置などが不要で環境やコストの負荷が低くてすむということと、放射性物質の濃度が低く管理期間も短くてすむことがメリットです。
一方、量が多いので管理や運搬コストが高くなるというデメリットもあります。
非濃縮と対極にあるのが、廃棄物の量をなるべく減らす最大濃縮です。
容積は劇的に減らすことができる一方で放射能濃度が高くなるので、管理期間が長くなり、最終処分場近隣の住民の方の理解を得られるかどうかが大きな課題です。
「この技術を選んだらどうなるの?」を見える化
実際は、非濃縮と最大濃縮は両極端な処理方法であり、その間にはさまざまな技術があります(図3)。
最大濃縮ほど濃縮するわけではないものの十分に廃棄物の量としては減らせるという技術もあり、国が実証事業を進めています。
非濃縮シナリオでは熱処理飛灰を直接固型化する。バランスシナリオおよび最大濃縮シナリオでは熱処理飛灰の洗浄、吸着/安定化処理を実施するが、吸着濃縮技術の違いにより最終処分対象となる廃棄物等の物量が異なる。
三成さんたちは、非濃縮、最大濃縮、およびバランス型(国の実証事業)というそれぞれのシナリオを作成したうえで、その影響がどのように波及し、どのような結果に至るかを分析しています。
具体的には、それぞれのシナリオについてのシミュレーションモデルを開発し、発生する廃棄物の量と濃度、処分時の処分場内でのセシウムの物質挙動、そしてエネルギー投入量の評価を行なっています。
「私たちが評価対象としているシナリオは大まかに分けて非濃縮、最大濃縮、およびバランス型の3つですが、実は技術的なオプションはもっとたくさんあります。
正直、この3つのシナリオだけでは説明しきれないことも多いです。
しかし、各シナリオの評価結果を具体的に示すことで、行政や一般の方にとっても『この技術を選べばこういう結果になるんだ』というイメージがつきやすくなります。
技術内容の見える化に貢献できる研究だと感じています」
シナリオ分析で技術とシステムをつなぐ
三成さんは、シナリオ分析のもう一つの大きな利点として、個別の技術研究を、減容化プロセス全体、すなわちシステム全体の研究と結びつける役割を果たす点を強調します。
「私たちは、主に関係者へのヒアリングと文献調査に基づいてシナリオ分析を行なっています。
飛灰の処理過程における実際の放射性物質の挙動を試算するシミュレーションモデルの開発などを通じて、さまざまな環境下での安全性を評価しています。
飛灰の処理過程における実際の放射性物質の挙動など、他分野の研究者とも連携して実際のデータも反映させることでモデルの精度を高めています。
これは技術とシステムの両方に精通していないとできない研究だと自負しています」
また、県外最終処分までのシステム全体を視野に入れたシナリオ研究は世界的にみてもあまり類がなく、国際学会で発表した際には、海外からの注目度の高さも実感したと言います。
「減容化に向けた個々の技術がほぼ出揃った今、そういった要素技術とシステムを橋渡しする研究・人材が必要となっていますので、その役割を担っていきたいと考えています。
最終処分場の場所がまだ定まっていない今、日本に住む誰もが減容化の問題と無関係ではありません。
先ほど述べた通り、シナリオ分析は膨大な選択肢を全て網羅するものではありませんが、県外最終処分実現までの具体的な道筋を描くためには、不確実性を含めた将来像を示せるシナリオ分析の持つ意味はますます重要になってくると思います」
福島県内外の皆さんの思いを受け継いで研究していきたい
2045年までの県外最終処分の実現という課題に向き合うにあたり、三成さんは並々ならぬ決意を持って研究に取り組んでいます。
その思いの背景には、事故当時を知らない立場だからこそ感じる責任と、先人たちの姿勢への深い敬意があります。
「2011年当時、私はまだ学生で、現場を直接経験していません。
ただ、当時から福島に関わってきた研究者の方々からお話を伺う中で、『愛着のある土地に戻りたい』という地元の皆さんの強い思いや、その気持ちに真摯に向き合ってきた姿勢に胸を打たれました。
その思いを受け継いでいきたいと強く感じています」
2045年という明確な期限がある中で、「最後まで責任を持って並走し、完了を見届けたい」という覚悟を胸に、研究に邁進を続ける三成さん。
今後は研究活動だけでなく、ワークショップなどを通じて社会と直接つながる取り組みにも積極的に関わっていきたいと語ります。
研究を進める人
学部卒業後、三菱電機株式会社に入社し、電力産業システム事業に従事。その中で廃棄物問題や環境負荷の低減に関心を持ち、東京工業大学(現・東京科学大学)大学院にて環境工学・原子核工学を学び、修士・博士課程を修了。博士(工学)。2022年4月より国立環境研究所に所属し、県外最終処分の実現に向け、福島の除去土壌や廃棄物を対象とした技術システムのシナリオ研究に取り組んでいる。
▶ 三成さんのインタビュー
「問いを道標に進む —自分のペースで築いた、しなやかなキャリアのかたち—|三成映理子」