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研究紹介

野生山菜を利用する福島の食文化を次世代に引き継ぐために

『グリーン・エージ』2022年10・11月合併号に掲載されました

野生山菜を利用する福島の食文化を次世代に引き継ぐために / 渡邊 未来、辻 岳史、高木 麻衣(国立環境研究所) 
『グリーン・エージ』2022年10・11月合併号
特集:テーマ2 植物が受けた放射性物質の影響に向き合う より
発行/(一財)日本緑化センター
※複製・無断転載を禁じます

グリーン・エージ』の編集部のご厚意により、当マガジンでも公開させていただけることになりました。
公開にあたり、編集長からコメントをいただいております。
コメントとともに、ぜひ記事をご覧ください。

2011年の原発事故後に、森林の中の放射性セシウムの動態について、数多くの調査が行われ研究成果が公表されています。
事故から11年を経過し、放射性セシウムが環境、社会に及ぼした衝撃は計り知れません。

わずか10年余りでダメージから回復することはほとんど不可能と考えられるものの、少しでもその兆しが見え始めているならば、そのことを読者に伝えたいと思い、「植物、森林が受けたダメージの影響について、森林と向き合い森林と生きていくことの可能性を考える」としました。

国立環境研究所チームによる「野生山菜を利用する福島の食文化を次世代に引き継ぐために」は、地元の人たちが数世紀にわたって培ってきた自然の恵みを生きる糧とする機会を突然失う事態を受け止め、じわじわと風化しつつある食文化に向き合い、科学的知見を総動員して守り、存続させようとする試みです。
これからの研究の進展に期待します。

もう一言、先日福島物産展でコシアブラの蜂蜜に目が留まり、買い求めました。

グリーン・エージ編集長 瀧 邦夫

野生山菜を利用する福島の食文化を次世代に引き継ぐために

福島県の⾥⼭では、野⽣の⼭菜を摘んで⾷べる、おすそ分けをして調理法を伝える、といった⼭菜利⽤⽂化が根付いています。
福島第⼀原発事故からもうすぐ12年。
今でも、種類や地域によっては放射性セシウム濃度が⾼くて⾷べられない野⽣⼭菜があります。
この状況が次世代まで続くと、福島の⼭菜利⽤⽂化の⼀部は途絶えてしまうかもしれません。
この危機とそれを乗り越える可能性を考えながら、私たちは調査をしています。

原発事故の発生にともなう山菜の出荷制限

福島県は全国第四位の森林⾯積を有し、豊富な森林資源に恵まれています。
住⺠の⽣活は森と深く結びついており、県内各地域では⾃宅の裏⼭などで採れる四季折々の⼭菜が楽しまれていました。
しかし、福島第⼀原発事故の発⽣後、福島県では政府により⼭菜の出荷制限が出されています。

⼭菜の出荷制限は、⾷品衛⽣法が定める基準値(1kgあたり100 ベクレル)を超える放射性セシウムが検出された際に、政府が原⼦⼒災害対策特別措置法に基づいて市町村単位で種類ごとに出します。
出荷制限が出ている市町村では、対象となる⼭菜を流通・販売することが禁⽌されるだけではなく、他⼈への譲渡も禁じられます1)
⼭菜は栽培品と野⽣品に⼤別されますが、多くの出荷制限が野⽣品に出されています。
野⽣品は放射性セシウム濃度が⾼くなりやすいためです2)

福島県では本稿執筆中の2022年度時点でも多くの市町村で出荷制限が出されている⼭菜があります。
もっとも多いのはコシアブラで、県内59中51市町村で出荷制限が出され(うち2町は野⽣のものに限って制限)、6町村で出荷が⾃粛されています3)

山菜利用文化存続の危機

福島県の農林業が原発事故でうけた被害には、経済的な実害やインフラの損害だけではなく、⼭野からの恵みの享受にもとづく地域の暮らしや⽂化の破壊という「⾃給の破壊による損害」があります4)
⾃給の破壊による損害は、⼭野からの恵みの享受が個⼈や家族の判断に委ねられていること、地域や集落ごとに独⾃のルールがあることが背景となり、被害が積極的に語られにくく、潜在化する側⾯があります5)

写真1 私たちが山菜調査を行っている福島県飯舘村の里山

⼭菜利⽤⽂化が制限されていることは、⾃給の破壊による損害であり、被害が潜在化しているものの⼀つです。
原発事故によって、福島県は⼭菜利⽤⽂化存続の危機に直⾯しているといえます。
危機に直⾯している⼭菜利⽤⽂化としては、以下を例⽰することができます。

①娯楽性のある⽣業・余暇活動としての⼭菜の採取・利⽤
福島第⼀原発から30km 圏内に全域が含まれ、事故後に全村避難をした福島県川内村は、⼭林が約86%を占める森林資源に恵まれた村です。
事故が起こる前の村の住⺠は、⼭で採った⼭菜を家庭で⾷べるだけではなく、時には売ってお⾦を得て、⽣活の⾜しにすることもありました。
また⼭菜を採ることそのものが、住⺠にとって⽣活や季節を彩る楽しみであり、余暇活動として親しまれてきたものでした2)、5)、6)

②⼭菜利⽤をめぐる地域住⺠同⼠のコミュニケーションの機会
東北地⽅では⼭で採った⼭菜を、親族や近所の⼈々に「おすそ分け」したり、地域の集まりで持ち寄ったりすることが珍しくありません。
この時、⼭菜を採った者は単に⼭菜を渡すだけではなく、渡す者に調理法をアドバイスしたり美味しさを伝えたりすることで、単なる授受以上のやり取り、情報交換などがなされることもあります7)
このように、⼭菜は地域の住⺠同⼠のコミュニケーションを促進する材料でもありました8)

③地域の⾷⽂化を下⽀えする⼭菜調理の技術
⽇本ではお盆や正⽉の料理、ハレの⾷として、⼭菜は⽋かせない⾷材です。
ただし⼭菜は多くの場合、独特の味や苦みがあり、⾷べるためには調理の過程でアク抜きをはじめとする加⼯が必要であり、時に熟練を要します8)
こうした調理の技術は、地域ごとに採れる⼭菜や⾷べられる⼭菜が異なることを背景にして、地域・家庭ごとに独⾃に蓄積されてきた経緯があります。
例えば、先述の福島県川内村では春に採れた⼭菜の多くは漬物にされています5)
また、福島県東部の阿武隈地域では、キク科の⼭菜であるオヤマボクチの葉を練り込んだ凍み餅が⼈気で9)、道の駅などでも⾒かけることができます。

⼭菜はハレの⾷、「ごちそう」であるがゆえに、美味しく⾷べるための保存法・調理法などの技術を磨く絶え間ない努⼒が、各地域・各家庭で積み重ねられてきました6)(写真2)。

写真2 ワラビ、 コゴミ、 タケノコの山菜ごはん

原発事故により避難指⽰区域に設定された地域では、事故発⽣からおよそ12年が経過した現在でも出荷・利⽤が制限されている⼭菜があります。
そして、住⺠が⻑期的・広域的に避難し、地域に帰還する住⺠が限られていることを受けて、⼭菜の種類によっては、①〜③に例⽰したような⼭菜利⽤⽂化が次の世代に継承されなくなることが危惧されます。

もちろん、⼭菜利⽤⽂化の存続を後押しするような取組もあります。
近年ではSNSなどインターネット上で⼭菜利⽤に関する情報が活発に交換されていますし、ベテランが⾏う⼭菜採りの映像記録を公開して、⼭菜を持続的に採取するうえでの知識や規範、技能を効果的に次の世代に伝える試みもなされています10)

私たちの研究では、福島県の⼭菜利⽤⽂化をめぐる危機と、それを乗り越える可能性を視野に⼊れながら、ふたたび⼭菜を利⽤するために不可⽋な放射性セシウム濃度の調査などを進めています。
本稿後半は、その⼀部を紹介します。

山菜を採る・食べることによる被ばく

ここでは野⽣の⼭菜を採ること、⾷べることで追加的に受ける放射性セシウムによる被ばくを考えます。

まず、⼭菜を採りに⼭に⼊ると、多くの場合は、通常の⽣活環境より多くの外部被ばくを受けます。
これは、森林の⼤部分が除染されておらず、放射性セシウムのほとんどが⼟壌の表層にとどまっているためです。
外部被ばく線量は、個⼈線量計で測定できますが、その場所の空間線量率と滞在時間から推測することもできます。
そして、空間線量が⾼い場所に⻑時間いるほど、外部被ばくは増えていきます。

次に、放射性セシウムを含んだ⼭菜を⾷べることで受ける内部被ばくの場合は、体内に取り込んだ放射性セシウムの量と、体内からなくなる時間等を考慮して、預託実効線量というものを求めます。
ここで重要なことは、体内に取り込んだ放射性セシウムの量は、⼭菜に含まれる放射性セシウムの濃度と、それを⾷べる量の掛け算で決まるということです。
⼭菜中の放射性セシウム濃度は測定可能ですし、モニタリングデータ等も公開されています(例えば図1)。
しかし、地元の⽅が実際に⼭菜を⾷べる量はよく分かっていません。

図1 飯舘村で採取された山菜の放射性セシウムの平均濃度飯舘村ホームページの公開データ(https://www.vill.iitate.fukushima.jp/soshiki/4/400.html)より作成。エラーバーは標準偏差を⽰す。

そのため、私たちは質問票を使った調査等によって、事故前に⾷べていた⼭菜の量を明らかにする研究を⾏っています(写真3)。

写真3 重さを計るコシアブラ

調理で山菜に含まれる放射性セシウムを減らす

外部被ばくを減らすには、空間線量の⾼い場所を避けたり、⼭菜採りにかける時間を短くしたりすることが有効でしょう。
内部被ばくの場合は、体内に取り込む放射性セシウムの量を減らす以外にないですが、⼭菜にはさまざまな⾷べ⽅があり、下処理や調理の仕⽅によっては、⾷べる部分の放射性セシウム量を減らすこともできるのです。

例えば、ワラビやゼンマイでは、重曹を⽤いたあく抜きによって、放射性セシウム量を3分の1 未満にできたことが報告されています11)、12)
⼀⽅、コシアブラやタラの芽の場合、⼈気の天ぷらでは放射性セシウム量の減少は期待できないようです11)、12)
しかし、私たちが⾏った塩茹でして⽔に浸した実験では、放射性セシウム量を半分より少なくすることができました(写真4)。

写真4 塩茹でするコシアブラ

このような調理による放射性セシウム量の減少は、内部被ばく線量を計算するときにも考慮できます。
さらに、調理による減少効果のあり・なしを明らかにすることは、⼭菜利⽤⽂化の継承にとっても有⽤な情報になると考えています。

山菜の女王と呼ばれるコシアブラ

野⽣の⼭菜は、種類が豊富なうえ、流通や地域による利⽤の違いもあって奥が深いですが、今回は放射性セシウムの研究で有名になった⼭菜「コシアブラ」について紹介します。

コシアブラは、ウコギ科に属する落葉広葉樹で、若い⽊の若葉や若芽が天ぷらやお浸しにして⾷されてきました。
同じウコギ科で⼭菜の王様と呼ばれるタラの芽は、栽培品が流通していますが、コシアブラは栽培が難しく、ほとんど流通していません。
そのため、4 〜5⽉頃の⾥⼭では、地元の⽅が採りすぎて枯らさないよう加減しながら、背が低い⽊の若葉を摘んでいます。

このコシアブラですが、野⽣の⼭菜のなかでは出荷制限の範囲が最も広く、福島県以外の7県—岩⼿県、宮城県、茨城県、栃⽊県、群⾺県、新潟県、⻑野県—でも⼀部地域が該当しています13)
これは、コシアブラの放射性セシウム濃度が、事故直後よりは下がっているものの、今でも他の⼭菜に⽐べて⾼いためです14)、15)
例えば、福島県飯舘村が公開しているデータを整理してみると、ワラビやタラの芽より1桁⾼いことが分かります(図1)。

図1 飯舘村で採取された山菜の放射性セシウムの平均濃度飯舘村ホームページの公開データ(https://www.vill.iitate.fukushima.jp/soshiki/4/400.html)より作成。エラーバーは標準偏差を⽰す。

コシアブラ若葉の放射性セシウムを減らす実験

ではなぜ、コシアブラは放射性セシウムを貯めやすいのでしょうか?

これについては、さまざまな研究が⾏われ、いくつもの原因が考えられています。
例えば、森林の放射性セシウムは⼟壌の表層にとどまっていますが、コシアブラの若⽊は、この⼟壌表層に根を張るため、他の養分と⼀緒に放射性セシウムを取り込んでしまっていることが考えられます14)、16)
私たちも、福島県各地で⼟壌における放射性セシウムの深さ分布や、コシアブラの根張りを調査して、このことを確認しています(写真5)。

写真5 土壌調査の様子

また、コシアブラの根に共⽣する菌根菌や細菌が放射性セシウムの吸収を促進している可能性も報告されています17)、18)
このような⽣育条件に加え、樹⽊がもつ性質や⼭菜として⾷べる部位も影響しているようです。
コシアブラの放射性セシウム濃度は、春先の新芽や若葉で⾼いことが分かっています14)、16)
これは、樹⽊内でおきる若葉が芽吹くための養分の動きに、放射性セシウムの動きが連動しているためだと考えられます。
そして残念なことに、これは⼭菜として⾷される時期と部位に重なっているのです。

私たちは実験として、飯舘村の⼭林で野⽣のコシアブラの若⽊を探し、その周囲から落ち葉などが堆積して分解されている有機物層を除去することを試みました。
これは、有機物層からの放射性セシウムの供給を断つことで、根から吸収する放射性セシウム量を減らすことを狙った実験です(写真6)。

写真6 有機物層を除去する実験

翌年、翌々年、有機物層を除去したコシアブラは、有機物層を残したコシアブラに⽐べ、若葉の放射性セシウムが⼤きく減ることはありませんでした。
おそらく、根からの放射性セシウムの吸収が減ったとしても、根や幹に蓄えられていた放射性セシウムが、芽吹きとともに若葉へと移動したのではないかと考えています。

今回の実験は、若葉の放射性セシウムを短期間で減らすという意味では失敗でしたが、若葉の放射性セシウムが簡単には減らないことが分かりました。
現在は別のさまざまな⽅法を試していますが、得られた結果は地元の⽅々にも伝えたいと考えています。
それによって、私たちの研究が、⼭菜利⽤⽂化が抱える「存続の危機」を乗り越える助けになることを⽬指しています。

参考文献

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  • 齋藤暖⽣(2017)⼭菜・きのこにみる森林⽂化,森林環境2017,12-21.
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