野生の山菜類中の放射性セシウム
福島県にも多くある里山地域では、春から夏にかけて山林内で山菜(図1,2,3)を採って食べることは、食品としての価値もありますが、楽しみでもあり、重要な食文化となっています。

図1 フキノトウ(撮影:志賀薫)
しかし、一部地域では、福島第一原子力発電所事故によって、山林内に放射性物質が溜まってしまい、そこに生える山菜やキノコに移行してしまいました。
食品中の放射性物質の基準値は100 Bq/kg(平成24年4月1日から)と設定されています。

図2 ワラビ(撮影:志賀薫)
栽培された山菜やキノコは管理されているため、基準値を超過することがありませんが、野生の山菜やキノコは、除染されていない山林内などから採取されることがあるため、現在もなお、基準値を超過してしまうこともあり、出荷制限や摂取制限が出されている地域も残っているのが現状です(1)。

図3 コゴミ(撮影:志賀薫)
私たちは、野生の山菜やキノコを摂取することによる内部被ばく線量を見積もるため、人々がどのくらい野生の山菜やキノコを食べているか、また、調理によってどのくらい放射性セシウムが変わるのかについて、調査を行っています。
ここでは、調理による放射性セシウムの低減効果についてご紹介します。
調理で山菜類中の放射性セシウムはどのくらい減るの?
食品中の放射性物質は、調理法によっては低減することがわかっていますが(2)、山菜やキノコ類についてのデータは十分とは言えません。
私たちは、よく食べられる山菜で、比較的放射性セシウム濃度が高い山菜について、茹でたり水に浸けたりすることによって、どの程度放射性セシウムが減るかを調べるための実験を行いました。

図4 フキノトウを茹でる様子
早春に雪の中から顔を出すフキノトウ、山菜の王様と言われるタラノメ、山菜の女王と呼ばれるコシアブラでは、1-2分間の茹でた後水にさらすことで、放射性セシウムが調理前の半分以下になることがわかりました(図5)。
また、よく山菜そばにも入っているワラビは、重曹であく抜きをすることで、調理前の1割以下になりました(図5)。

図5 調理による山菜中の放射性セシウムの低減効果
他の研究では、コシアブラの天ぷらを調べた例がありますが、普通に天ぷらにするだけでは放射性セシウムは減らないようです(3)。
里山の食文化を守るためにも、豊かな生活を送るためにも、野生の山菜やキノコを少しでも安心して食べられるように、今後もデータを蓄積していきたいと考えています。
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参考文献
- 厚生労働省、現在の出荷制限・摂取制限の指示の一覧, https://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/shokuhin.html [外部サイト] (2021年8月確認)
- 原子力環境整備促進・資金管理センター (2013) 食品の調理・加工による放射性核種の除去率、環境パラメータ・シリーズ増補版、https://www.rwmc.or.jp/library/other/file/RWMC-TRJ-13001-2_zyokyoritu_honpen.pdf[PDF:外部サイト] (2021年8月確認)
- 鍋師ら (2016) 調理による牛肉・山菜類・果実類の放射性セシウム濃度及び送料の変化、RADIOISOTOPES、65、45–58