県外最終処分に向けた減容化の取り組み
福島県で発生した放射性セシウムに汚染された廃棄物は、2045年度末までに福島県外で最終処分することが法律で決められています。
この県外最終処分をより容易にするために、体積を減らす処理である減容化を行うことが政府方針として定められています[1]。
現在、減容化のための様々な技術が実証されていて[2, 3]、減容化プロセスのイメージ図を図1に示します。
従来の可燃性廃棄物と同様に焼却処理で減容化され、この時に発生する焼却残さ(飛灰+主灰)に対して溶融処理、洗浄処理、吸着処理を行った後、吸着材の量が焼却残さの量より少なくなることで、更なる減容化が可能となります。
この際、どの程度量を減らすことが可能か予め把握しておくことが重要となります。
除染廃棄物の減容化プロセス
除染廃棄物は、建物の屋根を拭き取ったウエス等や刈り取った枝葉や落葉などの放射性セシウムに汚染された可燃性の廃棄物です。
この除染廃棄物は、焼却処理されると焼却残さ(主灰と飛灰)になります。
溶融処理で、この焼却残さ(飛灰+主灰)に塩化カルシウム等の添加物を加えて熱処理をすると、放射性セシウムは塩化セシウムとして揮発して溶融飛灰に濃縮されます。
この時、焼却残さ(飛灰+主灰)と比べて溶融飛灰は約1/9の量になります[3]。
洗浄処理では、溶融飛灰に濃縮している塩化セシウムが塩化ナトリウム(食塩)のように水に溶けることを利用して、洗い出しを行います。
この飛灰を水洗浄した溶液には、セシウムと化学的性質が似ているカリウムやナトリウム等の吸着処理における妨害イオンが、セシウムの1万倍以上含まれています。
そのため吸着処理では、セシウム以外の妨害イオンも吸着してしまうので、飛灰洗浄液からセシウムを選択的に吸着できる吸着材を使うことで、セシウムを効率的に吸着させ、溶融飛灰よりも少ない量の吸着材に濃縮することができます。
私の研究は、図1の吸着処理のプロセスで、多量の妨害イオンがある中でセシウムの吸着現象を評価するため、イオン交換理論という考え方を使ってセシウム吸着材の性能評価をしています。
減容化の実験から解析までの手順
ここから実際に何をしているか、実験から解析までの手順をご紹介します。
図2に示すように、吸着材にはセシウム選択性があると知られている粘土鉱物であるモルデナイト型ゼオライトや、顔料であるプルシアンブルーやフェロシアン化銅を使っています。
高濃縮減容化はできるだけ少量の吸着材で、できるだけ多量のセシウムを吸着させることで達成できます。
セシウムの選択性の優劣を示す指標である選択係数とセシウム陽イオン交換容量(セシウムが入りうる最大吸着サイト)の値を実験から得ることで、セシウム吸着材の1 gあたりの最大吸着量を計算によって求めることができます[4]。
実際のセシウム吸着材の写真(図2)と実験の様子(図3)のように、実験は放射性セシウムの代わりに安定同位体であるセシウム133を用いた模擬飛灰洗浄液に吸着材を入れて、Cs濃度変化を測定(図4)します。
この測定結果を用いた計算でフェロシアン化銅の最大性能を発揮できるとすると、セシウム吸着後のフェロシアン化銅は溶融飛灰に対して約1/1500前後まで減容できるという結果が得られています[5]。
質量ベースで溶融飛灰が4.2 tだと仮定するとフェロシアン化銅は2.8 kgにまで減容(減容)が可能となります。
福島のより良い復興にむけて
セシウム吸着材の性能評価を行うだけでは福島の復興は叶いません。
福島のより良い復興のために、セシウム吸着材の安定化の方法や最終処分場の設計、様々な技術的側面を考慮した県外最終処分に向けたシナリオ作成、等々を研究プロジェクトでも検討しています[6]。
他にも、得られた結果について学会発表や論文執筆、有識者や共同研究者などの関係者との意見交換も日頃行っています。
除染廃棄物は減容化すればするほど、処分量は減りますが放射能濃度は上がります。
逆に、そこまで減容化しなければ、処分量は増えますが放射能濃度は下がります。
県外最終処分に向けて様々な制約がある中で、どのような選択が正解なのかは誰もわかりません。
除染廃棄物の最終処分について、さらには福島のより良い復興について、少しでも最善の選択ができるように尽力を尽くすので、皆さんにも一緒に考えて頂けたらと思います。
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参考文献
- 環境省, 放射性物質汚染廃棄物処理情報サイトhttp://shiteihaiki.env.go.jp/radiological_contaminated_waste/guidelines/(2024年5月15日閲覧)
- 中間貯蔵施設の整備の現状 http://josen.env.go.jp/plaza/info/data/pdf/data_2404_04.pdf#page=3(2024年5月9日閲覧)
- 有馬謙一, 遠藤和人, 大迫政浩, 放射性物質に汚染された土壌と廃棄物の減容化処理技術と今後の課題, 廃棄物資源循環学会誌, Vol. 33, No. 6, pp. 423-434, 2022
- 山田一夫, 市川恒樹, 遠藤和人, 三浦拓也, 大迫政浩, 放射能汚染した飛灰洗浄液から Cs 濃縮するための吸着材の性能評価の事例, 環境放射能除染学会誌, Vol.11, No.1, pp.3-13, 2023
- 田中悠平, 山田一夫, 遠藤和人, フェロシアン化銅のCs 吸着能に対する製造方法の影響, 第12回環境放射能除染研究発表会 要旨集, 51, 2023
- 推進費SⅡ-9 中間貯蔵施設周辺地域の融合的な環境再生・環境創成研究 https://s2-9.com/(2024年5月15日閲覧)
より専門的に知りたい人はこちら
- 一般社団法人 環境放射能とその除染・中間貯蔵および環境再生のための学会 県外最終処分に向けた技術開発戦略の在り方に関する研究会 活動報告書Ver. 2 2021 年 8 月 24 日https://drive.google.com/file/d/1KIYqceYEtqLxK8r7Rwk_xzGDex5irJgP/view(2024年5月9日閲覧)
- 市川恒樹, フェロシアン化遷移金属をCs 吸着剤に用いた放射能汚染廃棄物の減容処理, 放射線化学, 105巻, pp. 29-35, 2018 https://doi.org/10.32157/jsrc.105.0_29