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おしえて!研究者さん

田んぼダムで洪水を防ぐ?

田んぼダムってなに?

田んぼダム、という取り組みをご存知でしょうか?

水田は畦(けい)畔(はん)(田んぼ1枚を囲む盛土の部分。アゼとも呼ばれる。)で囲まれた領域に水を貯めることができます。
本来、この貯水機能は稲作のためにありますが、雨が降った場合においても一時的に水を貯めることができるため洪水を緩和する効果があるとされてきました。
この洪水緩和効果をさらに高める取り組みが田んぼダムです。

水田とあぜ道の写真

洪水緩和効果を高めるアプローチはいくつかあり、現在も様々な手法が開発されています。
例として、水田の排水口の口径を通常よりも小さくしてゆっくりと排水する仕組みや(図1)、スマート田んぼダムとよばれるICT(Information and Communication Technology)による遠隔操作で給水と排水を制御する仕組みなどがあります。

田んぼダムのイメージ図

図1.田んぼダムのイメージ図

これらの仕組みに共通する事項として、普段の営農に影響を及ぼさないというものがあります。
当然ながら水田本来の目的は美味しいお米をつくることです。
田んぼダムのために余計な操作を必要としたり、排水に時間がかかりすぎて普段どおりの水管理ができないなど、農家さんに余計な負担を強いることは避けなければなりません。

稲穂

田んぼダムはどんな効果がある?

では、私たちは田んぼダムに対してどのような効果を、どれだけの効果を期待していいのでしょうか?

これらの疑問を解消すべく、数値モデルを用いたシミュレーションによって田んぼダムをしなかった場合と田んぼダムをした場合の浸水を比較することでその効果が明らかにされてきました。

水田の写真

例えば、①流域内の40%が水田の地域に190 mmの雨を降らせた場合は、田んぼダムによって浸水面積を22%軽減できると推定されました。
また、②流域内の73%が水田の地域に105 mmの雨を降らせた場合は、浸水面積を100%軽減できると推定されました。
この2つの結果から、田んぼダムを実施することで浸水を軽減できるものの、浸水の軽減率は降雨の規模や流域内の水田の割合によって大きく異なるということがわかりました(文献1)。

田んぼダムが機能するために必要なこと

さて、田んぼダムによってゆっくり排水するということは、言い換えれば水田に通常よりも多くの水を貯めるということです。
これを聞いて水田から水が溢れたらどうなるのか?といった疑問がうかぶかもしれません。

そこで、私たちは畦畔の高さを20 cmと設定して水が溢れる場合と、畦畔が十分にかさ上げされて水を溢れさせない場合について、水田域の中にある排水路水深を対象としてシミュレーションを行いました(文献2)。
その結果、田んぼダムにより過剰に雨を貯め続けて水が溢れた場合は排水路水深が急激に上昇するため、かえって洪水がおきやすくなる可能性が示されました(図2(A))。
一方で、畦畔を十分に嵩上げして水を溢れさせない場合、田んぼダムによる洪水緩和効果が正常に機能したことで排水路水深の急激な上昇を抑制できました(図2(B))。

環境中に放出された放射性セシウムの生物移行の説明イラスト 環境中に放出された放射性セシウムの生物移行の説明イラスト

図2.排水路水深のシミュレーション結果 (A)は畦畔の高さが20 cmで水が溢れる場合、(B)は畦畔を十分にかさ上げして水を溢れさせない場合

したがって、田んぼダムを導入する際は単に排水口に手を加えるだけでなく、畦畔を整備して水が溢れないようにすることも重要であることがわかりました。

さいごに

水田はダムや河川と違って所有者は一般の方で、本来の目的は洪水緩和ではなく美味しいお米をつくることです。
洪水緩和の観点から最適なありかたを示すことはもちろん重要ですが、農家さんが快く協力できるような制度を整えることも田んぼダムの取り組みを実現させるうえで極めて重要な課題といえます。

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参考文献

  • 宮津進, 吉川夏樹, 阿部聡, 三沢眞一, 安田浩保 (2012) 田んぼダムによる内水氾濫被害軽減効果の評価モデルの開発と適用. 農業農村工学会論文集, 282, 15-24
  • 竹田 稔真, 朝岡良浩, 林誠二 (2021) 田んぼダムの洪水緩和効果による将来的な水害リスク上昇の抑制効果. 水文・水資源学会, 34 (6), 351-366